2018年01月15日

欧州保険会社の利回り追求に向けた投資行動の傾向に関するEIOPAによる調査報告書

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1―はじめに

EIOPA(欧州保険年金監督局)は、2017年11月16日に、過去5年間の欧州保険会社の投資行動の傾向を分析した調査結果である「投資行動報告書(Investment behaviour report(EIOPA-BoS-17/230))」1を公表した。

これにより、信用格付けのより低い確定利付証券へのエクスポージャーの増加や、非上場株式のようなより流動性のない投資やインフラストラクチャー、モーゲージ、ローン、不動産のような非伝統的な資産種類へのエクスポージャーの段階的な増加等の保険業界の利回り追求に関連する可能性のある傾向が明らかにされている。

今回のレポートでは、このEIOPAの調査報告書の概要について報告する。  

2―今回の調査報告の概要

2―今回の調査報告の概要

この章では、EIOPAのプレスリリース資料2及び報告書のエグゼクティブサマリー等に基づいて、今回の調査報告の概要を報告する。
1|調査の目的
この調査の目的は、持続可能な低利回り環境を想定した潜在的な「利回り追求」を可能な限り特定することを含む、過去5年間の保険会社の投資行動の変化と傾向を特定することである。この調査は2017年第1四半期に実施され、保険グループの貸借対照表の資産サイドに重点を置いて行われた。

調査の目的は、個々のグループや国の問題を特定するのではなく、サンプル全体の投資行動の進展に焦点を当てることである。さらに、分析は、グループの貸借対照表のスナップショットを提供する年末データに基づいている。おそらく追加的な洞察を明らかにする可能性のある投資フローのデータについては使用されなかった。

なお、いくつかの機関が様々な出版物で「利回り追求」の存在を評価している。例えば、IMF(国際通貨基金)「グローバル金融安定性報告(2014年10月3及び2016年4月4)、ESRB(欧州システミックリスク理事会)「EU保険業界のシステミックリスクに関する報告(2015年12月)5」等である。

この調査は、関連するデータを収集し、いくつかの結論を引き出すことによって、この仮定を検証する試みである。
2|調査設計及び報告書の構成
(1)サンプル(参加会社)
今回の調査は2017年第1四半期に実施され、大手保険グループの貸借対照表の資産サイドに焦点を当てている。この結果は、EU(欧州連合)加盟国16カ国の87の大規模な保険グループと4つの単独会社からの提出に基づいている。

調査参加会社の73%が生損保兼営の複合保険会社であり、24%が生命保険会社であり、2%が損害保険会社であり、1%が再保険会社である。各国の参加会社数は1から21まで様々である。サンプル会社の2016年投資額は、業界全体の投資資産の約72%に相当する。

(2)アンケートの概要
アンケートには、貸借対照表の資産面に焦点を当てた定量的及び定性的な部分が含まれている。

定量的な部分は、2011年、2013年及び2015年のソルベンシーI(SI)制度の下での保険グループの主要な投資カテゴリーに焦点を当てた。このデータセットは、その後、同じ投資カテゴリーの2016年のソルベンシーII(SII)データで補完された。

調査期間において、2つの異なる規制(SI及びSII)の枠組みが整備されており、一部の投資サブカテゴリの定義が異なるため、報告の相違が発生している可能性がある。しかし、主な投資区分の集合体、例えば、不動産、ローン及びユニットリンク及びインデックスリンク(UL / IL)資産は、2016年のデータと一致していた。

入手可能な場合、集団投資会社を通じた投資(ルックスルー)に関するデータも要求され、データに含まれた。サンプル会社の44%は、この情報をEIOPAに提出されたデータセットに含めた。

最後に、為替レートの変動を避け、投資の変化のみに焦点を当てるために、全てのデータは2016年末の為替レートを使用してユーロに換算された。

定性的な部分には、2011年~2015年のポートフォリオ動向、投資配分の決定及び同期間の保険会社の資産管理に関する多くの質問が含まれていた。調査には、今後3年間のグループの投資と戦略決定に焦点を当てた一連の質問も含まれている。

(3)報告書の構成
この報告書は、分析される様々な資産種類に対応して、様々なセクションに分かれている。

調査の定量的及び定性的な結果はサンプル全体で別々に表示されるが、より詳細な分析は2016年のソルベンシーIIデータを使用して実行される。最後のセクションでは、UL / IL商品の市場の動向を簡単に概説している。
3|報告書のポイント
EIOPAは、今回の調査で、保険会社の投資行動における利回り追求傾向を確認した、としている。

具体的には、以下の点がポイントとしてまとめられている。

(1) 信用格付けのより低い確定利付証券へのエクスポージャーの増加
同時に観測期間中の多数のソブリン及び企業の格付け低下を考慮する必要がある、としている。

(2) 非上場株式のようなより流動性のない投資やインフラストラクチャー、モーゲージ、ローン、不動産のような非伝統的な資産種類へのエクスポージャーの段階的な増加
非伝統的資産種類への投資の金額は、ポートフォリオの規模に比べて小さいものの、サンプルのほぼ75%がこれらの投資を増やすことに積極的に対応している。
また、不動産投資の価値の低下も検出されている。

(3) 債券ポートフォリオの平均満期の増加

(4) 株式へのエクスポージャーは大きくは変わらず

ただし、総計レベルでの投資配分の動きを見ると、2011年から2016年までの3つの主な投資カテゴリー(債券、株式、その他)の間の構成比の変化はわずかである。
以上を踏まえて、これらの傾向は、全体として、会社及びセクターのリスクプロファイルに影響する可能性があるため、監督当局による密接な監視が必要となる、としている。
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中村 亮一

研究・専門分野

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