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金融リテラシーは向上しているか-優先すべきは消費者視点に基づくチャネルの位置づけの再考
生活研究部 井上 智紀
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3――金融リテラシーと情報源
先にみた金融リテラシー、コンサルティング/情報希求の両因子得点について、全体平均を境に二分し、金融リテラシー、コンサルティング/情報希求の高低の別に金融商品の情報収集に利用している情報源をみると、全体では「金融機関の窓口」(29%)が最も多く、「新聞記事」(29%)、「金融機関のDM」「金融機関の印刷物」(いずれも23%)の順につづき、「特にない」も3割弱となっているのに対し、金融リテラシーが高い層では、「新聞記事」(42%)が最も多く、「金融機関の窓口」(33%)、「金融機関のDM」「金融機関の印刷物」「取引金融機関のサイト」(いずれも31%)までが3割を超えて続き、「特にない」は1割台に留まっている(図表 5)。全体に比べ多くの項目で高くなっており、特に「新聞記事」や「マネー誌の記事」では10%ポイント以上の差、「取引金融機関のサイト」では9%ポイントの差と、差が大きい。一方、コンサルティング/情報希求の高低別では、全体に比べ高い層で「金融機関の窓口」(33%)がやや高く、低い層で「特にない」(36%)が約7%ポイント高くなっている以外は、総じて差が小さくなっている。
これらの結果は、金融リテラシーが高い層では積極的に情報を求めて様々な情報源に接しており、その結果さらにリテラシーが高まっていくという好循環が起こっているのに対し、コンサルティング/情報希求が高い層では専門家への相談ニーズはあるものの、金融機関の窓口や外交員を利用しようとする層を除けば、その多くは具体的な相談を持ちかけるには至らず、結果的に金融取引の都度、不十分な知識・情報のもとに金融商品の購入・売却を行っている可能性を示唆している。
さらに、直近の金融取引におけるこれらの情報源への接触による金融リテラシー向上への寄与度を明らかにするため、直近の金融商品の購入・申込時に参考とした情報源を説明変数、金融リテラシー、コンサルティング/情報希求を目的変数とする回帰分析を行った。分析結果を図表 6に示す。
一方、コンサルティング/情報希求を目的変数とした分析結果では、金融機関の窓口、マネー誌の記事で有意に正、メールマガジンで有意に負の結果となっている。金融機関の窓口の寄与度が最も大きく、金融機関の外交員や投資顧問・FPといった他の人的チャネルが有意になっていないことは、消費者にとって、金融関連の相談先として認知される存在が、ほぼ金融機関の窓口に限られていることを表しているとも考えられる。br>
4――金融リテラシー向上に向けて
本稿の分析からも明らかなように、活字媒体を活用することはリテラシー向上への寄与が大きいものの、こうしたプル型の媒体では消費者が関心を持って探索し辿り着く必要があり、短期間に広範な効果を求めることは難しい。多種多様な金融商品が存在する中では、消費者の金融リテラシーの向上は一朝一夕に実現できるものではなく、息の長い取組みが求められよう。一方で、消費者の金融関連の相談ニーズの受け皿としては、前述の推進会議の構成諸団体における相談窓口が用意されているものの場所や時間には限りがあるなど消費者がストレスなく利用できる状況とはいえず、現状ではほぼ売り手である金融機関の窓口に限られているように思われる。このように消費者利便性が高い相談先の代替案に乏しいことは、消費者が家計の資産形成上の不安や悩みを解決する術がなく、結果的にリスク商品を含めた多様な金融商品の活用を阻害する要因となっている可能性も危惧されよう。
今後、社会保障制度の縮小が確実視されるなど、家計における資産形成の重要性が高まっているなかでは、消費者の金融リテラシーの向上や、家計における多様な金融商品の活用促進に向けて金融機関が担うべき役割は大きい。金融リテラシーの向上に関連諸団体を含めた息の長い取り組みが求められる8ことはいうまでもないが、多様な金融商品の活用を促していくためには、既存のチャネルについても消費者の相談ニーズの受け皿となるべく、消費者利便性の向上や相談先としての信頼性獲得に向けた取り組みなど、消費者視点に基づいてチャネルの位置づけを再考する必要があるのではないだろうか。
8 実際に、第8回の金融経済教育推進会議(2016年12月6日開催)の資料によれば、本稿を執筆した2016年4月以降も各所で様々な取組みが進められており、今後も継続的な取組みが進められることになっているようである。
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(2017年07月06日「ニッセイ基礎研所報」)
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