2017年06月27日

EUソルベンシーIIの動向-EIOPA がORSA(リスクとソルベンシーの自己評価)に関する監督評価を公表-

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1―はじめに

EIOPA(欧州保険年金監督局)が、2017年6月19日に、ORSA(Own Risk and Solvency Assessment:リスクとソルベンシーの自己評価)についての監督評価「EIOPA's Supervisory Assessment of the Own Risk and Solvency Assessment-First experiences-(EIOPAのリスクとソルベンシーの自己評価の監督評価 -最初の経験 -)」1を公表した。

今回のレポートは、この監督評価の内容について報告する。  

2―今回のORSAに関する監督評価の概要

2―今回のORSAに関する監督評価の概要

1|ORSAとソルベンシーIIにおける位置付け
ORSAとは、「保険会社自らが現在及び将来のリスクと資本等を比較して資本等の十分性評価を行うとともに、リスクテイク戦略等の妥当性を総合的に検証するプロセス」2のことであり、保険会社のリスク管理とソルベンシーの将来の自己評価の原則を説明するリスク管理ツールである。

ソルベンシーII指令第45条に基づき、リスク管理制度の一環として、(再)保険会社は、リスクとソルベンシーの自己評価を実施することが求められる。ソルベンシーIIは、PillarⅠ(定量的要件)、PillarII(定性的要件)、PillarIII(情報開示)の3つの柱から構成されているが、ORSAは、PillarⅡの定性的要件の1つとして、ガバナンス態勢の一部を構成するものとなっている。

ORSAについては、EIOPAが20項目からなるガイドライン3を公表しているが、あくまでもプリンシプル・ベースでの規定内容となっている。
 
2 金融庁による報告書「保険会社におけるリスクとソルベンシーの自己評価に関する報告書(ORSAレポート)及び統合的リスク管理(ERM)態勢ヒアリングに基づくERM 評価の結果概要について」(2016.9.15)における脚注説明による。
2 https://eiopa.europa.eu/GuidelinesSII/EIOPA_Guidelines_on_ORSA_EN.pdf
2|監督評価の基礎となるデータ
今回のEIOPAのORSAに関する監督評価は、2016年のソルベンシーII実施後の、欧州経済圏(EEA)の国家監督当局(National Supervisory Authorities :NSAs)によって、実施された検査と、収集された情報に基づいている。
3|監督評価のポイント
今回の監督評価では、第2章において、EIOPAがさらなる改善が必要と考える点として、以下の3つの点を挙げている。
 

第1:取締役会はORSAプロセスにもっと積極的に関与する必要がある。
第2:標準式からの偏差の必要性は適切に評価されるべきである。
第3:ストレステストシナリオの品質を改善する必要がある。

第1の点に関して、EIOPAは、ソルベンシーIIの導入以後、大多数の保険会社において、ORSAプロセスの実施において進展がみられたと述べたが、特に重要な懸念点として、取締役会がORSAプロセスに積極的に関与していないこと、を挙げている。

第2の点に関しては、ソルベンシーIIの標準式はEIOPAによって開発され、承認されているが、保険会社はリスク管理の点でそれに「過度に依存している」と述べている。EIOPAは、必要資本を決定するために、企業のリスクプロファイルと標準式との間の重大な偏差を評価することの重要性を強調している。

第3の点に関しては、ストレステストでは、ORSAプロセスで使用されているストレステストシナリオの品質に特に注意を払う必要があるとし、「リバースストレステストの使用やリスク評価の範囲を含め、全ての潜在的なリスクの影響をカバーする必要がある。」としている。

なお、第3章においては、被監督会社に対して、国家監督当局から与えられたフィードバックについて説明している。

EIOPAのプレス・リリース資料は、以下の通りとなっている。
 

EIOPA CALLS FOR FURTHER IMPROVEMENT IN THE ORSA IMPLEMENTATION

EIOPAは、ORSA実施のさらなる改善を求める

・(再)保険会社は、リスクとソルベンシーの自己評価(ORSA)プロセスの導入を進めているが、さらなる改善が必要だ。

・(再)保険会社の取締役会は、ORSAプロセスにおいてより積極的な役割を果たす必要がある。

・標準式からの偏差は適切に評価され、重要であれば全体的なソルベンシーニーズに反映されるべきである。

・ORSAプロセスで使用されるストレステストシナリオの品質をさらに改善する必要があり、リスク評価は全ての潜在的なリスクの影響をカバーする必要がある。

フランクフルト、2017年6月19日 - 本日、欧州保険年金監督局(EIOPA)は、欧州(再)保険会社がORSAプロセスをどのように実施したかについての最初の監督経験を概説する監督声明を発表した。この声明は、国家監督当局によって実施されたソルベンシーIIの枠組みの下でのORSAの監督評価に基づいている。

この分析は、(再)保険会社の大多数がORSAプロセスの実施において良好な進歩を示したことを示している。 この積極的な進歩にもかかわらず、EIOPAはさらなる改善の必要性を認識している。 特に、管理、経営、監督機関のORSAへの関与は、より大きな程度まで必要とされている。取締役会メンバーは、ORSAプロセスにおいてより積極的な役割を果たし、戦略的な意思決定プロセスにおいて、この重要なリスク評価をより明白に考慮する必要がある。

さらに、EIOPAの分析は、リスク管理に関する標準式に対する保険会社の過度の依存を示している。したがって、EIOPAは、ソルベンシー全体のニーズを適切に判断するために、企業のリスクプロファイルの標準式からの重要な偏差を徹底的に評価することの重要性を強調している。リバースストレステストの使用を含む、ORSAプロセスで使用されるストレステストシナリオの品質や、全ての潜在的リスクの影響をカバーするために、さらなる改善が必要なリスク評価の範囲に、特別な注意が払われる必要がある。

EIOPAのGabriel Bernardino会長は次のように述べている。

「EIOPAは、ORSAプロセスの実施における(再)保険会社の進展を歓迎する。 同時に、EIOPAは、この重要なリスク管理ツールを会社のビジネス戦略により良く統合させるために必要なさらなる改善を求めている。 この将来を見据えたリスクとソルベンシーの自己評価は、欧州の消費者を保護し、欧州の金融安定性を確保するために重要である。」

 

3―今回のORSAに関する監督評価の具体的内容

3―今回のORSAに関する監督評価の具体的内容

今回のORSAに関する監督評価の具体的内容については、エグゼクティブサマリー等に基づけば、以下の通りとなっている。

1|第2章「ORSA報告書の改善領域」について
(1)重要な機能を含むORSAプロセス
(再)保険会社の大部分は、ORSAプロセスの実施において良好な進歩を遂げた。主要な機能保有者の関与を含むORSAプロセスは、保険会社の大多数が適切に実施している。

しかし、EIOPAは、ORSAの方針や評価に使用されるデータの質など、ORSAのプロセスをさらに詳しく説明するよう、特に小規模会社に奨励している。

(2) AMSBの関与と戦略的経営判断におけるORSA結果の埋め込み
管理、経営、監督機関(administrative, management or supervisory bodies :AMSB)のメンバーは完全には関与していないようで、ORSAプロセスの重要な部分に挑戦していない。これは、リスク評価やストレステストやシナリオテストを含む方法論の使用などのORSAの結果に影響を与える。

殆どの会社は、ORSAの評価、特に全般的なソルベンシーニーズの評価に関して、適切な将来を見据えての観点と時間枠を適用している。しかしながら、欧州の保険会社のAMSBメンバーの過半数によって採用された戦略的経営判断には、ORSAの結果が反映されていない。ORSAの結果は、意思決定プロセスにまだ適切に組み込まれていない。 現在の実施段階では、関連する要件を満たしておらず、さらなる改善が必要である。

こうした分析を踏まえて、エグゼクティブサマリーでは、以下の通り、まとめられている。
 

管理、経営、監督機関のより大きな関与が必要:
EIOPAは、会社にORSAプロセスにおける管理、経営、監督機関(AMSB)の関与を改善することを奨励する。取締役会メンバーは、トップダウン・アプローチに従い、ORSA評価において積極的な役割を果たすことが期待されている。 EIOPAは、AMSBメンバーが、事業の全体的なリスク管理を強化するために、戦略的意思決定プロセスにおいてORSAの結果を使用することを期待している。

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中村 亮一

研究・専門分野

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