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まちづくりレポート|古材と一緒に家主のこころをレスキュー~リビルディングセンター・ジャパンが信州諏訪にもたらした幸福な状況
社会研究部 都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任 塩澤 誠一郎
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だから、リビルディングセンター・ジャパンだけで完結しようとはしていない。東野さんは、「古材の利用が増え、古材をレスキューする人が増えて、古材の取り合いみたいな状況が生まれることは悪いことではない。古材が循環し、多くの古材が再利用されることになるので、その状況まで持っていければ僕らは辞めてもいいかなと思うようになるかもしれません」と事業の先を見通す。
「建築物滅失統計調査」(国土交通省)によると、2016年の1年間に全国で除却された木造建築物は8万5,398棟、床面積の合計は1,044万6,048㎡である。毎月平均7,100棟以上、約87万㎡が解体され除却されていることになる。
また、2012年度の「建設副産物実態調査」(国土交通省)では、解体に伴う建設発生木材の年間排出量は、138万5,369トンである。(以上図表1,2を参考に示す)
仮に、リビルディングセンター・ジャパンが年間120棟、240トンをレスキューしたとしても、除却建築物全体のわずか0.14%、年間排出量全体の0.017%に過ぎない。多くの古材が流通し、再利用されるようにするには、リビルディングセンター・ジャパンに続く人たちが必要なのだ。東野さんたちは、そこさえも意識している。
3――レスキューの実際
これまでにレスキューした建物は50軒。週に2軒ほどのペースだという。電話などで依頼があると、まず、依頼主に詳しく話しを聞く。場所や建物の状況はもちろんだが、家族全員がレスキューすることに同意しているか、レスキューしたものを販売することに同意できるかといったことも確認する。特別に思い出があるものがないかどうかも問いかけ、あれば、優先的にレスキューし、それを材料に何かの品物にしてお返しすることも行う。レスキューは、依頼主一人ひとりに向き合うところから始める。
2|解体業者と良好な関係をつくる
レスキューに行けるのは概ね片道1時間程度までの範囲。電話で確認が取れれば、まず、現場に行き建物の規模を見て、スタッフの人数や必要な車両の大きさを見積もる。その上で解体業者とスケジュール調整を行う。解体作業と重ならないようにするためだ。レスキューは解体業者が入る前に行うことが重要で、重なってしまうと解体業者の作業に支障を来す。それは避けなければならない。先に入ったとしても、解体業者の手間が増えてはいけないので、例えば、解体作業に床があった方がよければ、床板を剥がしていいタイミングを調整する。
レスキューを増やすためにも解体業者との関係を良好なものにしておくことは大切なことだ。
3|次の世代に残したいものをレスキューする
リビルディングセンター・ジャパンは、今のところ重機が必要な柱や梁などの構造材は扱っていない。それ以外の部分を手作業でバラしていく。技術的に難しいこともあるが、大型の梁などは一般の人には扱えないことから、ストックヤードが限られる中で優先度を下げている。
構造材以外であれば何でもレスキューするのでもない。東野さんは、「次の世代に残したいものを基準にレスキューする」と話す。具体的には、ベニヤやプラスチック類は基本的にレスキューしない。無垢の木材や古い金物類、それらに該当する建具、家具などをレスキューする。その基準を依頼主に説明し、現場でジャッジしながら作業を進める。
4|依頼主の気持ちもレスキュー
実は、レスキューには、資源としての古材のレスキューと、依頼主の気持ちのレスキュー、2つの意味がある。
10年前先祖代々続く家を解体した経験があり、その事で夢にうなされるほど、先祖に申し訳ない気持ちを抱え、家を守れなかったことを悔やんでいた人から依頼があったという。今回も事情があって別棟を解体せざるを得なくなった。
しかし、「僕たちを知り、また同じ思いをしたくないのでレスキューに来てほしいということでした。全てをレスキューできる訳ではないのですが、結局その人が最後の最後までその建物と向き合える、そこまでやればご先祖さまに胸を張って会えるという状態まで持っていければよいと考えてレスキューに行ってきました。非常に喜んでくれました」
その人の気持ちもレスキューしたのだ。レスキューを依頼する人は、「僕たちがやっていることに対してしっかりと価値を感じてくれている人が多いような気がします」と東野さんが話す。依頼する人は、古材の救出とそれによる心の救済、そこに価値を感じているのであろう。
4――理念を実現するための取り組み
東野さんはこれまで、妻の華南子(かなこ)さんと、「メヂカラ(medicala)」というユニットで空間デザインの仕事を請け負っていた。リビルディングセンター・ジャパンとなった現在も、県外を含めて店舗やゲストハウスなどのデザインを請け、その中で古材の活用を提案している。また、古材を使ったオーダー家具や建具の製作も引き受けている。
東野さんは、デザインの仕事の重要性を次のように説明してくれた。
「ここに来ないと古材を使った空間の体験ができないのではなくて、東京に飲食店を造れば東京に住んでいる人はそこで古材の空間が体験できますし、そのような場所が全国に増えていけば、古材の良さを理解してくれる人が増えて、家のリノベーションやお店を出すときに、少しでも古材を使ってくれるようになる。それだけ捨てられる量が減ることになります」
そしてデザインの前提となるのは、皆がまねしたくなるレベルの「格好良さ」だという。多くの人が使いたいと思えるものにしなければ広がっていかない。格好良くて気持ちのいいデザインで、多くの人を惹きつけ、共感を得ることで古材の利用を促していく。
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03-3512-1814
- 【職歴】
1994年 (株)住宅・都市問題研究所入社
2004年 ニッセイ基礎研究所
2020年より現職
・技術士(建設部門、都市及び地方計画)
【加入団体等】
・我孫子市都市計画審議会委員
・日本建築学会
・日本都市計画学会
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