2017年06月08日

2017・2018年度経済見通し~17年1-3月期GDP2次速報後改定

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1.2017年1-3月期は前期比年率1.0%へ下方修正

6/8に内閣府が公表した2017年1-3月期の実質GDP(2次速報値)は前期比0.3%(年率1.0%)となり、1次速報の前期比0.5%(年率2.2%)から下方修正された。

1-3月期の法人企業統計の結果が反映されたことにより、設備投資が1次速報の前期比0.2%から同0.6%に上方修正されたが、民間在庫変動が前期比・寄与度0.1%から同▲0.1%へと大幅に下方修正されたことが成長率を大きく押し下げた。また、民間消費(前期比0.4%→同0.3%)、住宅投資(前期比0.7%→同0.3%)も下方修正された。

1-3月期の成長率は大幅に下方修正されたが、在庫調整の進捗を反映し、民間在庫変動が1次速報の+3,633億円から▲9,898億円へと大幅に下方修正されたことが主因であり、在庫変動を除く最終需要は前期比0.4%と1次速報と変わっていない。また、実質GDP成長率は、2016年1-3月期から5四半期連続でゼロ%台後半とされる潜在成長率を上回っており、日本経済が着実な回復を続けているとの評価は1次速報時点と変わらない。

なお、2017年1-3月期の下方修正に伴い、2016年度の実質GDP成長率も1.3%から1.2%へと下方修正された。
(企業部門の改善が一段と鮮明に)
6/1に財務省から公表された法人企業統計では、2017年1-3月期の経常利益(金融業、保険業を除く全産業)が前年比26.6%と3四半期連続の増加となり、2016年10-12月期の同16.9%から伸びを高めた。非製造業が前年比10.7%(10-12月期:同12.5%)と3四半期連続の二桁増益となったことに加え、製造業が前年比70.3%と10-12月期の同25.4%から伸びを急速に高めた。

この結果、2017年1-3月期の経常利益(季節調整値)は20.4兆円となり、2016年10-12月期に続き過去最高水準を更新した。今回の景気回復局面では、非製造業に比べ製造業の収益回復が遅れていたが、世界経済回復の恩恵を受けて2016年度末にかけて急回復し、2017年1-3月期には製造業の利益水準も過去最高を更新した。
経常利益の推移/経常利益(季節調整値)の推移
企業収益の好調を受けて、設備投資も回復している。1-3月期の設備投資(ソフトウェアを含む)は前年比4.5%と2四半期連続で増加し、10-12月期の同3.8%から伸びが高まった。

好調な企業収益に対し、設備投資の伸びは現時点では限定的にとどまっているが、企業収益の増加に伴う潤沢なキャッシュフローを背景に2017年度入り後には設備投資の回復基調がより明確となることが予想される。
設備投資/キャッシュフロー比率と期待成長率の関係 ただし、「設備投資/キャッシュフロー比率」が50%台後半の低水準で推移していることからも分かる通り、企業は設備投資に対する慎重姿勢を崩していない。内閣府の「企業行動に関するアンケート調査(2016年度)」では、企業の今後3年間、5年間の実質成長率の見通しがそれぞれ1.1%、1.0%となり、企業の期待成長率が依然低水準にとどまっていることが示された。

当面は、企業がキャッシュフローに対する設備投資の水準を大きく切り上げることは考えにくいため、企業収益に比べ設備投資の回復ペースは緩やかにとどまる可能性が高いだろう。
(在庫は積み増し局面へ)
2017年4月の鉱工業生産は前月比4.0%の高い伸びとなり、生産指数の水準は消費税率引き上げ前のピーク(2014年1月)を上回った。IT関連を中心とした世界的な製造業サイクルの好転を受けて輸出が好調を維持していることに加え、ここにきて国内需要が持ち直していることも生産の押し上げに寄与している。
在庫循環図(鉱工業全体) ただし、ここにきて在庫指数の上昇ペースが高まっていることには注意を要する。在庫循環図を確認すると、2016年7-9月期に「在庫調整局面」から「意図せざる在庫減少局面」に移行した後、17年1-3月期まで3四半期連続で同じ局面に位置したが、2017年4月単月では「在庫積み増し局面」に移行した。4月は輸送機械の在庫指数が前月比15.8%の急上昇となったが、これは輸出向けの船待ち在庫の可能性があるため、5月以降の動きを見る必要があるが、その他の業種でも在庫が増加傾向となっている。

在庫指数の上昇は企業行動の積極化を反映したものと捉えることも可能だが、その一方で、循環的には景気回復局面の後半に入ったという見方も出来る。最終需要が企業の想定を下回った場合には、これまでよりも在庫が積み上がりやすくなっていることには留意が必要だろう。
 

2. 実質成長率は2017年度1.3%、2018年度1.1%

2. 実質成長率は2017年度1.3%、2018年度1.1%

(2017年度は企業部門主導の成長)
2017年1-3月期のGDP2次速報を受けて、5/19に発表した経済見通しを改定した。実質GDP成長率は2017年度が1.3%、2018年度が1.1%と予想する。2017、2018年度ともに5/19時点から修正していない。

2017年1-3月期の実績値は大幅に下方修正されたが、民間在庫変動の下方修正が主因であり、この点は先行きの成長率に対してはむしろプラスに働く可能性が高い。実際、内閣府が1-3月期の2次速報と同時に公表した原材料在庫と仕掛品在庫の仮置き値に基づけば、4-6月期の成長率は前期比0.4%程度押し上げられることになる。今回の見通しでは2017年4-6月期の実質GDP成長率を5月時点の前期比年率1.2%から同1.9%へと上方修正した。7-9月期以降の成長のパスはほとんど変えていない。

2017年度は、実質所得の低迷を主因として民間消費は横ばい圏の動きにとどまるが、海外経済の回復や円安の追い風を受けて輸出が増加を続ける中、企業収益が改善し、設備投資の回復基調が明確となるだろう。家計部門(民間消費+住宅投資)が低調に推移する一方、企業部門(輸出+設備投資)が経済成長の牽引役となることが予想される。

2018年度は企業部門の改善が家計部門に波及することが期待される。具体的には、2017年度の企業収益の改善や物価上昇を受けて春闘賃上げ率が明確に前年を上回ることから名目賃金の伸びが高まり、民間消費が緩やかな回復に向かうだろう。ただし、民間消費の伸びが高まる一方で、設備投資の伸びが頭打ちとなること、国内需要の回復を背景に輸入の伸びが高まり外需の寄与度が縮小することから、2018年度の成長率は2017年度から若干低下することが予想される。
実質GDP成長率の推移(四半期)/実質GDP成長率の推移(年度)
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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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