2017年06月05日

IASBによる新たな保険契約会計基準(IFRS第17号)への反応と今後の課題-生命保険会社はどのような影響を受け、どう対応していくことになるのか-

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1―はじめに

IASB(International Accounting Standards Board:国際会計基準審議会)は、2017年5月18日に、保険契約のための新たな国際的な会計基準となる「IFRS第17号『保険契約』」を公表1した。

今回のレポートでは、この新たな会計基準の概要について報告するとともに、今回の公表を受けての関係団体の反応及び今後の影響や課題について報告する。IFRS第17号の詳細な内容や論点項目等については、これまでの最終案に至るまでの検討段階において、多くのレポートが公表されてきているので、今回のレポートでは、これらについては触れずに、後者の報告を中心に行うこととする。  

2―IFRS第17号の概要

2―IFRS第17号の概要

この章では、IASBが公表した資料等に基づいて、IFRS第17号の概要について報告する。

1|IFRS17号の概要
IFRS第17号は、IASBによれば「最初の真に国際的で包括的な保険会計基準」である。IFRS第17号は現在幅広い実務を認めている暫定的な基準であるIFRS第4号に取って代わることになる。

IFRS第17号は、全ての保険契約に整合的な会計であり、保険契約の負債やリスクや業績についての最新の情報を提供し、保険会社によって報告される財務情報における透明性を向上させる。

具体的には、IFRS第17号では、保険負債を現在の履行価値で測定することを要求し、全ての保険契約に対してより均一な測定と表示アプローチを提供する。これらの要件は、保険契約に対する一貫性のあるプリンシプル・ベースの会計策定という目標を達成するように設計されている。

IFRS第17号「保険契約」および関連解釈は、2021年1月1日以降に開始する期間に適用される。

なお、IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」とIFRS第9号「金融商品」2の両方を既に適用している場合には、早期適用が認められる。
 
 
2 IFRS第9号「金融商品」については、2018年から適用されることになっているが、保険会社の場合、2021年第1四半期まで適用を延期することができる。


2|これまでの検討経緯
保険契約プロジェクトについては、1997年4月にIASBの前身団体であるIASC(International Accounting Standards Committee:国際会計基準委員会)が開始した同等のプロジェクトを引き継いで、2001年9月にIASBがプロジェクトを議題に追加することで、保険契約の会計処理が包括的に検討されてきた。IASBの目的は、保険契約の認識、測定、表示、開示要件に対応する共通の高品質な基準を策定することだった。

IASBは、2007年にディスカッションペーパー「保険契約に関する予備的見解」を発行し、2010年7月30日に公開草案「ED / 2010/8保険契約」を公開した。その後の利害関係者とのラウンド・テーブル等での議論も踏まえて、2013年6月20日に第2回目の公開草案「ED / 2013/7保険契約」を公開した。

なお、IASBと米国のFASB(Financial Accounting Standards Board:財務会計基準審議会)は、2008年10月から保険契約の基準に関してのコンバージェンス作業を開始していたが、FASBは、2014年2月に保険契約プロジェクトの範囲を縮小し、現行の米国会計基準(US‐GAAP)(の保険会計基準)を改善することを決定した。これにより、グローバルには、今後とも、少なくともIASBとFASBの2つの保険契約に関する会計基準が並存していくことになった。

IASBは、単独での審議を進め、2016年2月には審議を最終化した。2016年夏に行われたフィールドテストの結果を踏まえて、2017年2月に最後の修正案を作成し、今回の公表に至っている。
3|IASBのプレス・リリースの内容
今回のIFRS第17号に関するIASBのプレス・リリース1は、以下の通りである。

これによれば、今回の基準については、「最初の真に国際的なIFRS基準」であるとして、「投資家およびその他の者が保険会社のリスクエクスポージャー、収益性および財政状態をよりよく理解するのに役立つ。」としている。また、「IFRS第17号は、全ての保険契約を一貫した方法で会計処理することを要求することで、IFRS第4号によって生み出されている比較問題を解決し、投資家と保険会社の両方に利益をもたらす。」としている。
 

2017年5月18日
IASB、保険会計の根本的な見直しを完了

国際会計基準審議会(審議会)は、本日、IFRS第17号「保険契約」を発行した。保険契約のためのこの最初の真に国際的なIFRS基準は、投資家およびその他の者が保険会社のリスクエクスポージャー、収益性および財政状態をよりよく理解するのに役立つ。

IFRS第17号は、2004年に暫定基準として導入されたIFRS第4号に取って代わるものである。IFRS第4号は、会社に、国家会計基準を用いた保険契約会計を実行する制度を与えてきた。結果として、投資家が他の類似会社の財務実績を比較して対比することが困難になっている。

金融安定理事会は、2015年9月に、審議会がIFRS第4号を新しい基準に置き換えるプロジェクトを完成させることの重要性を指摘した。

IFRS第17号は、全ての保険契約を一貫した方法で会計処理することを要求することで、IFRS第4号によって生み出されている比較問題を解決し、投資家と保険会社の両方に利益をもたらす。保険義務は、過去の費用ではなく、現在の価値を使用して会計処理される。情報は定期的に更新され、財務諸表の利用者により役立つ情報を提供する。

IASB会長のHans Hoogervorst氏は、以下のように述べた。

「保険業界は世界経済において重要な役割を果たしている。それゆえ、保険会社が財務的にどのように行動するかについての市場参加者への高品質な情報提供は、非常に重要である。IFRS第17号は、現在の無数の会計アプローチを、投資家およびその他の者に比較可能かつ最新の情報を提供する単一のアプローチに置き換える。」

今日使用されている会計方法の範囲により、新しい基準の導入により、一部の国々では、他の国々よりも大きな変化が見られるであろう。

IFRS第17号は、2021年1月1日の発効日を有するが、会社は早期に適用することができる。

審議会は、現在メンバーを求めている移行リソースグループの設立を含め、基準を実施する人々を支援する。

IFRS第17号は、実例と審議会の結論の根拠についての説明と併せて発表される。

基準に付属するその他の資料:
•効果分析 - 新基準の予想コストとメリットを詳細に説明する。
•プロジェクト要約 - 新しい保険契約基準を発展させるプロジェクトの概要を提供する。そして
•フィードバック声明 - プロジェクトの一環として実施された様々な協議に対して受け取ったフィードバックを要約している。

これらの資料は全て、IFRS財団のウェブサイトの「IFRS 17プロジェクトページ」からアクセスできる。

審議会はまた、本日「IFRS第17号のIFRS Taxonomy Update」案をパブリック・コンサルテーションのために公表した。コメント締切りは2017年9月18日である。

4|IASBによるFact Sheet
今回のIFRS第17号について、IASBが公表した「Fact Sheet」のサマリーによれば、以下の通りとなっている。

(1) 今回のIFRS第17号は、IFRSを適用している全ての管轄地域における全ての保険契約に対する1つの会計モデルである。
(2) IFRS基準を適用している450の上場会社が影響を受け、これらの会社の総資産は13兆ドルとなる。
(3) 新しい基準の強制適用は2021年1月1日からで、新しい要件を実行するために会社は3.5年の準備期間が与えられる。
(4) この基準により、より有益な透明性のある情報、収益性についてのよりよい情報が提供される。
(5) 600のコメントレターを受けて、900の会議、ラウンド・テーブル、ディスカッション・フォーラムを行った。
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中村 亮一

研究・専門分野

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