- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 経済 >
- 財政・税制 >
- 増大する地方公共団体の基金残高 その1-積立金が増えることは問題なのか?
3.将来不安と予備的動機に基づく貯蓄
財政調整基金の標準財政規模に対する割合が低下を続けた1990年代が、地方公共団体にとって最も厳しい時期であったとすれば、財政健全化に一定の成果が挙がり、財政調整基金積み増しへと舵を切ることができたのが、1990年代末から2000年代初頭にかけての時期であったと推測される。しかし、この時期の地方公共団体が、余裕のある状況にあったとは考え難い。
こうした文脈において、明日のための備えを考える際に、地方公共団体の財政調整基金残高以外のデータとして、重要な示唆を与えてくれるのが、明治時代以降の家計貯蓄率の推移である。
もちろん、家計の貯蓄動機は予備的動機だけではないから、家計貯蓄率の高まりがすべて将来不安によるものとは限らない。それでも、将来不安を背景にした予備的動機が、家計の貯蓄行動の重要な一面を担っていることは間違いないであろう。
同様の説明が、地方公共団体の基金にも適用可能なのではないであろうか。そもそも、地域住民のための行財政の遂行に伴って発生するのが地方公共団体の歳出だとすれば、フローの貯蓄に当たるのが基金の積み増し、ストックの貯蓄に当たるのが基金残高である。3種類の基金の中で、当年度における一般会計の歳入が平年度と比べて落ち込むことが予期される場合に取り崩しを行い、平年度と比べて歳入増が見込まれる場合に積み増しを行う目的で利用されるのが、財政調整基金である。
地方公共団体の予算編成は、複数年度にまたがって行うことはできない。そうしたなかで、長期的な視野にたって、各年度における歳出の最適化や平準化を実現するためには、財政調整基金の活用は不可欠である。
これらの点も踏まえたうえで、財政調整基金の積立金残高がかつてない水準にまで上昇しているという現在の状況に視点を戻せば、懸念されるのは、経済財政諮問会議の有識者議員提出資料で指摘されたとおり、「将来不安による基金の積増し」の可能性である。また、将来不安が原因ではないとしたら、何が理由でこれほどの基金積み増しを行っているかが重要である。
「備えあれば憂いなし」という日本のことわざに近い英語での言い回しは、「Save for a rainy day.」や「Keep something for a rainy day.」だとされるが、米国における地方公共団体の財政調整基金に相当する基金は、俗に「rainy day fund」と呼ばれる。日本、米国を問わず、地方公共団体が明日への備えとして行う基金への積み立ては、何らかの意味があって、自衛的に行っている点は共通しているであろう。
少なくとも、日本の地方公共団体の基金残高が顕著に増大していることに関して、その事実だけを一方的に批判することなどあってはならない。まず、問われるべきは、基金積み立て行動の背後にある要因、理由に尽きるであろう。真の議論は、そこからである。
石川 達哉
研究・専門分野
(2017年05月31日「研究員の眼」)
公式SNSアカウント
新着レポートを随時お届け!日々の情報収集にぜひご活用ください。
新着記事
-
2024年05月01日
ユーロ圏消費者物価(24年4月)-総合指数は横ばい、コア指数は低下 -
2024年05月01日
ユーロ圏GDP(2024年1-3月期)-前期比0.3%、プラス成長に転じる -
2024年05月01日
宿泊旅行統計調査2024年3月~物価高が逆風となり日本人延べ宿泊者数(前年比)は3ヵ月ぶりのマイナス~ -
2024年04月30日
ドイツのリースター年金改革案に思う-終身性と安定性なくして年金制度の手本たりうるか- -
2024年04月30日
2024年1-3月期の実質GDP~前期比▲0.4%(年率▲1.6%)を予測~
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年04月02日
News Release
-
2024年02月19日
News Release
-
2023年07月03日
News Release
【増大する地方公共団体の基金残高 その1-積立金が増えることは問題なのか?】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
増大する地方公共団体の基金残高 その1-積立金が増えることは問題なのか?のレポート Topへ