2017年05月09日

米国では、人々はどのように生命保険に加入しているのか(5)-リムラ&ライフハプンズの保険バロメータースタディより-健康増進を支援する保険は人々の支持を得るか-

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米国LIMRA&Life Happensの“2016 Insurance Barometer Study”のデータを用いて、「米国の人々がどのように生命保険に加入しているのか」を紹介するレポートの第5回(最終回)。

今回はバロメータースタディでその年の話題を取り上げるスポット調査から、「米国の人々は、自分の健康状態・健康増進活動の様子が刻々と生命保険会社に伝達され評価される状況をどう考えるか」についての意識調査結果を紹介したい。

これは、生命保険の将来の成長分野と目されている「健康増進を支援する生命保険」が消費者ニーズにフィットしているのかという、生保会社にとって重要な問題に関する調査である。
 

1――世界で注目を浴びる健康増進保険

1――世界で注目を浴びる健康増進保険

デジタル化が進行している。あらゆるモノがインターネットでつながり、それぞれのものが自らのおかれている状況や周囲の環境等の情報をお互いに連携できるようになった(=loT=インターネットオブシングズ=物のインターネット)。身につけることができるICT端末であるウェアラブル端末も進歩してきた。生保会社にとっては、従来の物理的な制約を離れて、新しい生命保険のあり方を自由に考えることができる環境が整ってきた。

損害保険分野では既に、自動車にセットされた端末から送られてくる情報から、走行距離やアクセルやブレーキの掛け方など、運転者ごとの運転特性を取得・分析し、保険の価格に反映させることを基本的な考え方とするテレマティックス自動車保険が登場している。

そうした考え方をヒトに適用すれば、リストバンドや腕時計型のウェアラブル端末から発信される、歩数記録や心拍数、睡眠の質など、保険の対象となる個人の活動状況、健康度数等に関するシグナルを日常的に受信し、当該個人の健康管理に資するとともに、生命保険や医療保険をアップデートしていくといった方向性が出てくる。

ニューヨークの新興医療保険会社であるオスカーは保険の対象者に活動状況をトレースできるリストバンドを配り、毎日の健康目的を達成すると、アマゾンのギフトカードの形で報酬を得ることができるというサービスを開始して好評を博している。また、従業員の医療保険コストを負担する企業が、従業員にリストバンドを配布して、従業員の健康増進活動を促そうとしている。

そうした方向の現時点の最高峰と目されている南アフリカ、ディスカバリー社のバイタリティー・プログラムでは、保険加入者の、フィットネスジム、毎日の歩数、運動量等を管理し、これら健康増進活動等への年間取組みをポイント化、その累計数値によって年間のステータスを決定、ステータスに応じた保険料割引や提携企業からのサービスを受けることができる。健康増進活動の実行管理は、アップル・ウォッチ、フィットビット等のウェアラブル端末を通じて行われる。

ディスカバリー社は、南アフリカ、英国、米国、中国、シンガポール、オーストラリア、ドイツ等10以上の国で、自社または提携生保会社を通じてバイタリティー・プログラムを提供し、その契約者数は約 350 万人に及んでいるという。昨年7月21日には、わが国でも、住友生命がディスカバリー社およびソフトバンクと連名で、「健康増進型保険」の開発に関するプロジェクトの立ち上げを発表した。わが国より一足早く、米国では2015年に、ディスカバリー社と提携を結んだジョンハンコック社が自社の定期保険と終身保険にバイタリティ・プログラムをセットして販売開始した。
資料 米国ジョンハンコック社のバイタリティー・プログラムパンフレット
このように健康増進と生命保険を絡めるやり方は、これからの生命保険事業の一つの行き方を示していると見られている。しかし、こうしたコンセプトが広く人々に受け入れられるかについては、よくわからない。技術の進歩により、個人に属すべき情報までがたやすく入手できる時代の中、消費者は生保会社が日々、自らの健康に関する情報を獲得するという状況をどう考えるのか。

米国でもこの点は同様であるらしい。LIMRA&Life Happensは“2016 Insurance Barometer Study”のトピックス的な意識調査の対象としてこの問題を取り上げた。
 

2――バロメータースタディにおける意識調査の結果

2――バロメータースタディにおける意識調査の結果

以下、バロメータースタディの調査結果を紹介する。今回の調査は、腕に装着して、その人の活動記録、心拍数、消費カロリー、睡眠その他を追う「アクティビティ・トラッカー(Fitbit、Jawbone、アップルウォッチ等が有名)」、および、体重、体脂肪、BMI指数等をトレースできる高機能な体組成計である「スマートスケール」を具体的な質問項目に入れながら、最終的には、これらの装置を通じて記録される自身の活動情報・健康情報がそれらの装置を通じて日々生保会社に連絡されるという状況をどう思うかという質問内容となっている。
1|アクティビティトラッカー、スマートスケールの活用状況
グラフ1は、現在の、アクティビティ・トラッカー、スマートスケールの活用状況である。

グラフ左端の「総合」で見ると、消費者の22パーセントが既にアクティビティ・トラッカーを使用している。一方、スマートスケールの普及度合いはアクティビティ・トラッカーよりも低く4%にすぎない。わが国では体脂肪率やBIM等が算出できるヘルスメーターはかなり普及しているように思うが、米国では状況が違うようだ。

しかし「18歳~35歳」のミレニアル層、「世帯年収10万ドル以上」の富裕層では、より多くの消費者がアクティビティ・トラッカーやスマートスケールを使用している。
グラフ1 アクティビティ・トラッカー、スマートスケールの活用状況
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松岡 博司

研究・専門分野

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