2017年03月09日

米国経済の見通し-経済への影響が大きいトランプ政権の経済政策は依然として視界不良

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.経済概況・見通し

(経済概況)10-12月期の成長率は前期から伸びが鈍化

米国の10-12月期実質GDP成長率(以下、成長率)は、前期比年率+1.9%(前期:+3.5%)と、14年7-9月期(+5.0%)以来となった前期から伸びが鈍化した(図表1、図表5)。

需要項目別にみると、個人消費は前期比年率+3.0%(前期:+3.0%)と前期並みの伸びを維持した。この結果、成長率寄与度は+2.0%ポイントとなり、個人消費主導の景気回復が持続していることを確認した。また、2期連続でマイナス成長となっていた住宅投資が、前期比年率+9.6%(前期:▲4.1%)とプラスに転じたほか、民間設備投資も+1.3%(前期:+1.4%)と3期連続でプラス成長を維持した。さらに、在庫投資も成長率寄与度が+0.94%ポイント(前期:+0.49%ポイント)と2期連続のプラスとなり、成長を押上げた。このように、10-12月期は投資の回復も確認された。

一方、当期の成長率低下は外需の落ち込みが大きい。純輸出(輸出―輸入)の成長率寄与度は▲1.70%ポイント(前期:+0.85%ポイント)と、10年4-6月期(▲1.77%ポイント)に次ぐマイナス幅となり、成長を押下げた。純輸出は特殊要因で押上げられた前期の反動による影響が大きい。

これら純輸出の振れを除いた成長率は、2期連続で2%台半ばとなっており、16年後半の米国経済は堅調であったと判断できる。もっとも、年前半は低成長となっていたことから、16年通期の成長率(前年比)は+1.6%(前年:2.6%)と、前年から低下する結果となった。
 
トランプ氏が1月に第45代大統領に就任して1ヵ月以上が経過した。同氏は選挙期間中から差別的な発言を行うなど米国民の分断を煽ってきた。選挙後もこれらの分断は解消されておらず、政権発足時の支持率は過去の大統領に比べて低い水準からのスタートとなった(図表2)。

しかしながら、低支持率とは対照的に同大統領が掲げる減税、インフラ投資の拡大、規制改革などの経済政策に対する期待は高い。米国の代表的な株価指数であるS&P500指数は、選挙前(11月7日)の2,130ポイントから、選挙後は大幅に上昇、3月1日には一時2,400ポイントに近づくなど、10%を超える上昇となっている(図表3)。とくに、金融や資本財セクターの上昇が目立っているが、これは金融規制緩和やインフラ投資の拡大期待を反映したものだろう。

さらに、消費者や企業マインドの改善も顕著となっている(後掲図表9、11)。これらは、株式市場が堅調であることも影響しているが、トランプ大統領が選挙公約に掲げる個人や法人に対する大型減税への期待が大きいとみられる。
(図表2)政権発足時の大統領支持率/(図表3)S&P500業種別指数
このように政策期待は高いものの、肝心のトランプ大統領の政権運営は順調とは言い難い。トランプ政権のスタッフ登用は非常に遅れている。非営利団体のパートナーシップ・フォー・パブリックサービスによれば、3月7日時点で上院の承認が必要なポストのうち、閣僚も含めた重要な550について、承認済みは僅か18に留まっており、未だ指名すらされていないポストが520近くに上っている。登用の遅れから、トランプ政権内で政策公約実現に向けた政策立案能力が欠如していることが懸念される。実際、春先に予定されている第1回日米経済対話では、米政権スタッフの不足が原因で詰めた議論が出来ないとの見通しが麻生副総理から示されている。

一方、トランプ大統領が掲げる選挙公約は、減税やインフラ投資拡大、規制緩和など景気にプラスの効果が期待される政策と、保護主義的な通商政策や移民政策の強化など、景気にマイナスとみられる政策が混在している。このため、今後の米国経済の動向は、トランプ氏の経済政策運営に大きく左右される。トランプ氏の政策公約実現には、上下両院で多数を握っている議会共和党との政策協調が不可欠だが、同氏が掲げる政策は、法人税制改革などで議会共和党と政策スタンスが大きく異なるほか、財源も含めて実現困難な政策が多い。トランプ大統領と議会共和党は政策の優先順位としてオバマケアの廃止・代替案への移行、税制改革では一致しているものの、これまで経済政策の具体案が示されていなかったため、2月下旬に議会上下両院の合同会議で行われた施政方針演説が注目された。

しかしながら、施政方針演説では議会共和党と論争的な政策についての具体的な言及が無かったことから、トランプ政権の経済政策を見極める上では期待外れの結果となった。前述のスタッフ不足と併せて考えると、同政権には現状で経済政策立案能力が欠如している可能性が高い。今月中旬に公表される予算教書では、詳細な内容は示されない見通しとなっているが、政策毎に予算を振り分ける必要があることから、より具体的な政策スタンスが明らかとなろう。
(経済見通し)成長率は17年+2.2%、18年+2.4%を予想

米国経済は、足元で個人消費主導の景気回復が持続しているほか、投資についても回復がみられており、経済状況は好転している。一方、17年以降の経済動向は、トランプ氏の経済政策が現時点でも非常に不透明であることから見極めが難しい。トランプ氏が掲げる減税政策やインフラ投資が実現する場合には、17年の成長率を0.4%ポイント、18年を0.9%ポイント押上げる可能性がある一方、中国やメキシコに対する関税引き上げを伴う保護主義的な通商政策が実施される場合には、世界的な貿易量の減少から18年の成長率がマイナスに転じる可能性もあり、米経済への影響が大きい。

当研究所では、トランプ氏が掲げる経済政策のうち、減税やインフラ投資については財源問題から規模の縮小や実施時期の後ずれなど、政策公約からの大幅な軌道修正は不可避と考えている。このため、経済政策による景気押上げ効果は、17年がほぼ中立、18年は+0.3%程度とした。この結果、17年の成長率(前年比)は+2.2%、18年は2.4%に留まると予想している(図表4)。
 
一方、物価は、18年末の60ドルに向けて緩やかな原油価格の上昇を見込んでいることから、エネルギー価格が物価を押上げる状況が持続し、消費者物価(前年比)は17年が+2.6%、18年が+2.3%と16年の1.3%から加速すると予想する。物価のリスクは、労働需給のタイト化に伴う賃金上昇の加速から、物価上昇圧力が高まることである。
 
金融政策は、3月に0.25%の利上げを実施した後、経済政策による景気浮揚効果が限定的との前提で、17年は追加で1回(合計0.5%)、18年は年3回(合計0.75%)の追加利上げを予想する。
 
長期金利は、物価上昇や政策金利の引き上げ継続に加え、国債発行増加から、18年末にかけて上昇基調が持続すると予想する。長期金利の水準は17年末で2%台後半、18年末で3%台前半となろう。
 
上記見通しに対するリスクとしては、米国内の政治リスクと、欧州の政治リスクを含めた海外要因からの資本市場の不安定化が挙げられる。米国内の政治リスクでは、トランプ大統領と議会共和党の関係が注目される。トランプ大統領と民主党議員の対立が続く中、同大統領とロシアとの関係に対する懸念や、稚拙な入国禁止措置などで、既に身内の共和党議員から同大統領の政権運営に対する不満が出ている。政策遂行では議会共和党との協調が不可欠だが、トランプ大統領の支持率が低いこともあり、議会共和党と政策協調がスムーズに行くか疑問である。今後、議会共和党とトランプ政権の対立が深まる場合には、議会と政権与党が同一の安定政権であっても政治が機能不全に陥る可能性も否定できない。

また、欧州ではオランダ、ドイツ、フランス、イタリアなど主要国で選挙が予定されているほか、BREXITの本格的な協議が開始される。選挙でEUに懐疑的な勢力が勝利したり、BREXIT協議が難航する場合には欧州の政治リスクが意識され、資本市場でリスク回避的な動きが強まる可能性がある。この結果、資本市場が不安定化する場合には、米経済への悪影響が懸念される。さらに、トランプ政権が中国に対して通商、安全保障面で強硬姿勢をとることで米中関係の悪化が深刻化する場合も資本市場に悪影響を及ぼそう。
(図表4)米国経済の見通し
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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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