2017年03月08日

自動運転の普及と住宅-完全自動運転が普及した社会を想像する

基礎研REPORT(冊子版) 2017年3月号

社会研究部 都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任 塩澤 誠一郎

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現在、既に一部の操作を自動化した乗用車が市販されており、自動運転技術に関する話題を目にする機会が増えている。自動運転車の普及に対する消費者の期待も高まっている気がする。

開発に取り組む主要企業が、2020年頃には、ドライバーが操作にまったく関与しない完全自動運転を実用化させると目標を示している。このスピード感からすると、実用化後さほどの年数を経ずに、誰もが自動運転を利用しているようになるのではないか。

自動運転に関する文献も増える中、そこからは次のような、完全自動運転が普及した社会が見えてくる。

完全自動運転が普及した社会

自動運転は移送サービスとして人々に提供されるため、自動車そのものを個人で保有する必要はない。サービスを利用する人は手元の端末から時間、場所を指定すると、そこに無人のクルマがやってくる。

移動中は自由に過ごすことができるため、例えば車内全体をスクリーンにしてスポーツ観戦したり、事前に予約しておけばファストフードを用意してくれ、食事をしたりといったことも可能だ。筋トレしながら移動したいという希望には、それに合わせた車両を選択できる。

目的地を決めかねている時でも、例えば、母へのプレゼントを購入したいと希望を伝えれば、クルマの方が行先の選択肢を提示してくれる。移動中にそうした様々な付加サービスを利用することができる。

自動運転車はインターネットでお互いつながっており、人工知能が周辺の交通環境をリアルタイムに解析し、最適なルートを自ら選択して走行する。

クルマ同士で協調しているため事故や渋滞の原因になることは事前に回避する。そのためクルマが原因の交通事故はほとんどなくなり、通常は渋滞が発生することもない。

目的地で利用者が降りると、次の利用者のもとへとクルマが立ち去っていく。

駐車場が不要になり、住宅にはゆとりが生まれる

このように完全自動運転が当たり前になった社会では、クルマを保有する必要がないため、個人住宅の駐車スペースも必要なくなる。

現在、自家用乗用車の保有台数は、全国で約6,112万台である。乗用車1台当たりの駐車スペースを15m2とすると、駐車に必要な面積は約917km2に及ぶ。これが別の用途に利用できるようになる。

一戸建持ち家世帯は、敷地内に駐車場を確保しているケースが多い。一戸建持ち家の敷地面積は、全国平均で約281m2である。駐車場の15m2はこれの5.3%を占める。都市部になると敷地面積はもっと狭いのが普通で、東京都の平均147m2では10%を超える。

自動車がない駐車スペースは結構広く感じるものだ。これが必要なくなれば、何に利用するだろうか。

建坪率、容積率の制限があるので増築するには限度がある。やはり庭を広く使うのではないか。ガーデニングや野菜作りが趣味の人にはとてもよい。街並みの向上も期待が持てそうだ。

小さい子がいるお宅では、子どもたちの遊び場所にうってつけではないか。子育てにも効果がありそうである。

新たに住宅を取得する場合は、現在のように駐車スペースや駐車料金を考慮する必要がないため、取得や保有にかかるコストを抑えることができ、その分、部屋を広く取ることができる。この点は特に若い一次取得層にとってよいことと言える。

自己資金に乏しく借入にも限度がある若い世帯は、容積率に余裕があっても延べ床面積を小さくすることで取得費を調整する傾向があるためだ。出生率にもよい影響を与えそうである。

完全自動運転の普及によって移動の制約がなくなると、駅近の便利な立地に住み替えるより、住み慣れた地域で暮らし続けることを選択する高齢層が増えるかもしれない。

そこに、若い子育て世帯が、街並みや、子育てのしやすさに魅力を感じて住宅を取得するようになれば、たとえ今より人口、世帯が減少した社会になっていたとしても、地域コミュニティは活性化しているのではないかと想像するのである。
 

 
  1 2016年11月末現在、一般財団法人自動車車検登録情報協会より。
  2 「平成25年住宅・土地統計調査」総務省より。
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社会研究部   都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任

塩澤 誠一郎 (しおざわ せいいちろう)

研究・専門分野
都市・地域計画、土地・住宅政策、文化施設開発

経歴
  • 【職歴】
     1994年 (株)住宅・都市問題研究所入社
     2004年 ニッセイ基礎研究所
     2020年より現職
     ・技術士(建設部門、都市及び地方計画)

    【加入団体等】
     ・我孫子市都市計画審議会委員
     ・日本建築学会
     ・日本都市計画学会

(2017年03月08日「基礎研マンスリー」)

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