2016年11月11日

【マレーシアGDP】7-9月期は前年同期比+4.3%-個人消費拡大で6期ぶりに成長加速

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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2016年7-9月期の実質GDP成長率は前年同期比4.3%増1と前期の同4.0%増から上昇し、Bloomberg調査の市場予想(同4.0%増)を上回った。

需要項目別に見ると、民間消費の好調が成長率の上昇に繋がったことが分かる(図表1)。

民間部門を見ると、まず民間消費は前年同期比6.4%増と、食料・飲料や住宅・共益、交通を中心に前期の同6.3%増から若干上昇した。また民間投資は前年同期比4.7%増と、製造業とサービス業で拡大傾向が続いたものの、前期(同5.6%増)から低下した。

政府部門を見ると、まず政府消費は前年同期比3.1%増と、公務員への特別給付金の支給で拡大した前期(同6.5%増)から低下した。また公共投資は前年同期比3.8%減(前期:同7.5%増)と、連邦政府の固定資産投資を中心に減少した。

輸出入は、輸出が前年同期比1.3%減(前期:同1.0%増)、輸入が前年同期比2.3%減(前期:同2.0%増)と、揃って減少した。結果として、純輸出の成長への寄与度は+0.5%ポイントとなり、前期(▲0.6%ポイント)からプラスに転じた。

供給側を見ると、サービス業と鉱業の回復が成長率の上昇に繋がったことが分かる(図表2)。

全体の5割強を占めるサービス業は前年同期比6.1%増(前期:同5.7%増)と、民間消費拡大を受けて上昇した。引き続き卸売・小売(同6.7%増)、情報・通信(同5.7%増)、不動産・ビジネスサービス(同7.0%増)が好調を維持したほか、金融・保険(同5.0%増)と政府サービス(同5.5%増)も回復した。また鉱業は前年同期比3.6%増(前期:同2.6%増)と、原油価格の上昇を背景とする緩やかな生産の回復で4期連続の上昇となった。また製造業も前年同期比4.2%増(前期:同4.1%増)と小幅に上昇した。前期に続いて輸送用機器等(同2.6%減)と動植物性油脂・食品加工(同0.8%増)が低迷する一方、電気・電子製品(同6.6%増)と石油、化学、ゴム・プラスチック製品(同4.7%増)が堅調だった。このほか、農林水産業は前年同期比5.9%減(前期:同7.9%減)とマイナス幅が縮小したものの、エルニーニョ現象を背景とする悪天候の影響でゴムとパーム油を中心に低迷した。

一方、建設業は前年同期比7.9%増と、引き続き土木工事(同16.7%増)と住宅建築(同13.0%)が好調だったものの、前期(同8.8%増)から低下した。
(図表1)マレーシアの実質GDP成長率(需要側)/(図表2)マレーシアの実質GDP成長率(供給側)
7-9月期は民間消費が一段と上昇し、成長率は6期ぶりに上昇した。民間消費が好調な背景には、(1)低インフレ環境の継続や(2)3年半ぶりの法定最低賃金の引上げ2など安定した雇用・所得環境、そして(3)緩和的な金融政策の継続3などがある(図表3)。流通取引指数の上昇率は昨年4月の物品・サービス税(GST)導入による物価上昇が落ち着くなか、2期連続で上昇している(図表4)。また民間投資は、外国人労働者政策の変更4や最低賃金引き上げといった政策要因が企業のコスト増となっているものの、民間消費の拡大を受けてサービス業を中心に堅調を維持している。

しかし、公共部門は緊縮的な財政運営、輸出は世界経済の減速と資源価格の下落によって7-9月期も落ち込んでいる。10月に政府が発表した2017年度予算案では、景気への配慮からGSTの引上げを回避するとともに低所得者支援策「1マレーシア・ピープルズ・エイド(BR1M)」を充実させているが、歳出総額は2,608億リンギと、16年度補正予算対比3.4%増に止まった。堅調な民間部門が公共部門と輸出の落ち込み相殺する構図に大きな変化は見えてこず、本格的な景気回復には暫く時間が掛かりそうだ。

米大統領選では、トランプ氏が勝利したことから12月の米利上げ延期の可能性は高まった。マレーシア中央銀行は11月23日の金融政策会合で、低調な景気と低インフレが続いていることを材料に追加の金融緩和に踏み切ると予想する。
(図表3)マレーシアのインフレ率・政策金利/(図表4)マレーシア流通取引指数
 
1 11月10日、マレーシア統計庁は2016 年7-9月期の国内総生産(GDP)を公表した。前期比(季節調整済)で見ると、実質GDP成長率は1.5%増(前期:同0.7%増)と3期ぶりに上昇した。
2 政府は16年7月から法定最低賃金をマレー半島でこれまでの900リンギから1,000リンギ、東マレーシアで800リンギから920リンギに引き上げるとした。2013年1月に最低賃金制度を導入して以来、初めての改定になる。
3 マレーシア中央銀行は16年7月に政策金利を0.25%引き下げた。
4 政府は16年3月に外国人労働者の新規受け入れを凍結したが、その後は一部で雇用再開を許可している。
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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2016年11月11日「経済・金融フラッシュ」)

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