2016年10月20日

「家派」女性の虚弱化予防~60代女性の「健康行動の始動・継続」に関する調査研究から

生活研究部 上席研究員・ジェロントロジー推進室兼任 前田 展弘

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(3) 価値観の違い
  • 生活の何を重視しているかという価値観を比較してみると、有意な差がみられたのは、「今を楽しく過ごせること」「自分の好きなことを続けられること」「社会のためになること」「他人に必要とされること」の4項目だった。いずれも「外派」が高かった。
     
「家派」に比べて「外派」は、好きなことをしたい、楽しく過ごしたい、という欲求が高いと同時に、人や社会のためになりたいという意識も高いことがうかがえた。
図表5:「完全家派」と「完全外派」の比較結果(2)
(4) 運動経験、態度の違い
  • 過去の運動経験については全般的に「外派」の方が経験があり、特に運動部や運動サークルへの参加、スポーツクラブやジム等での運動は、家派と外派で経験者の割合に2割近い差があった。一方で、自宅での運動の経験割合については差がなかった。
     
  • 現在の運動実施状況については、「家派」は50%、「外派」は72%が、1カ月以上継続して、週1回以上の運動を行っていた。ここにも2割近い差がみられたことになる。
     
  • ただし、実際に運動している人で比較するとその頻度や、誰かと運動をしているかどうかに差はみられなかった。差がみられたのは運動を始めた時期で、「外派」の運動実施者の5割以上が5年以上その運動を続けているのに対し、「家派」の運動実施者では6割強がここ5年で始めた人だった。
     
  • また、運動をはじめたきっかけに各群で特徴的な違いがあった。外派は「その運動が好きだった」「ストレス発散のため」に始めた人が比較的多くみられたが、完全家派ではその割合は1割台だった。両群で差がなかったのは、「メタボ対策」「骨や筋力の低下予防」「体力づくり」などで、健康維持向上のために運動を始めたという割合は両者に差がなく、ともに多く挙げられた理由だった。
     
  • 逆に運動をしていない人にしない理由を聞いた結果では、家派では「運動が好きでない」が5割近くと最も多く、外派では「時間が無い」が4割近くと、大きな差がみられた。
     
  • さらに運動に対する態度をみると、「健康のために運動をすべき」という質問は多くの人が肯定的な回答をしていたが、特に外派で高く、一方の「出来れば運動はしたくない」という問いについては家派で高かった。
     
以上から、家派は外派に比べて運動経験が乏しく、実際に現在運動している割合も低く、している場合は健康や体力の維持向上のために、比較的最近始めた、出来ることならば運動はしたくない、という人が多い傾向がみられた。また、実際に運動をしている人にその内容をきいた結果をみると、家派で比較的多いのは「ウォーキング」や「散歩」、「ストレッチ」、「体操」などであり、外派で1割近い人が行っている「競技系スポーツ」「水泳」「エアロビクス」「ダンス」を行っている人は2-5%と少なかった。
図表6:「完全家派」と「完全外派」の比較結果(3)
3|運動の始動・継続ドライバの策定と「家派」「外派」の選好度

(1) 運動の始動・継続ドライバの策定
本調査研究の核となるのが、運動の始動及び継続に寄与すると期待される「ドライバ」を如何に選定するかということである。この選定には相応の時間を要したものである。

先行研究において、直接的に研究目的に沿う検証可能なドライバを見出すことができなかったため、関連すると思われる心理学の諸理論(社会心理学理論、健康行動理論他)6を洗い出し、そこに含まれるドライバを拾い上げ、独自に運動の始動ドライバと継続ドライバを策定することとした。

やる気を起こさせる手段と言えば、“飴と鞭”ということがよく言われることであるが、洗い出したドライバを整理していくと、種類や視点が様々あることがわかった。大きく区分すると次の4つの視点から構成されている。それは、「(1)必要性(need/must)」、「(2)利点(merit)」、「(3)楽しさ(enjoy)」、「(4)その他、条件・配慮・工夫」といったところである。詳細な説明は割愛するが、例えば、(1)については、“そのことをやる、やらなければならない”という自己認識や情報、役割といったことがドライバとなりうる。(2)については、まさに“飴”のことになるが、やることによって褒美や報酬が得られることがドライバになる。(3)については、文字通り“楽しさ”である。何事も楽しくなければ関心を示さないだろうし、続けることができない。ただ、楽しさにも種類がある。やること自体が楽しいことから、効果や進歩を確認できる楽しさ、交流する楽しさ、競争する楽しさなどである。(4)についてもドライバとして重要な要素である。いくら(1)~(3)のドライバに関心を示しても、自分の普段の生活に照らしてできるかどうか(参加難易度等)、都合がよいかどうか(場所や利便性等)、またコストのこと等は、行動を始動・継続させる上での判断要素になる。

以上の4つの視点を起点としながら、60代女性が運動を始めるまた継続することをイメージしながら独自にドライバの例を検討し、また60代女性(8名×2グループ)に対するフォーカス・グループ・インタビュー調査を通じて検証を重ねながら、最終的にWEBアンケート調査にかける始動ドライバとして21、継続ドライバとして14を考案した。
図表7:運動に関する始動ドライバと継続ドライバの策定経緯
 
6 社会的認知理論(Bandura,1962)、合意的行為理論・計画的行動理論(Fishbein,1967;Fishbein & Ajzen,1975)、自己決定理論(Deci & Ryan,2000)、健康信念モデル(Rosenstock,1966;Becker,1974)、行動変容ステージモデル(Prochaska、1983)等
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生活研究部   上席研究員・ジェロントロジー推進室兼任

前田 展弘 (まえだ のぶひろ)

研究・専門分野
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)、超高齢社会・市場、QOL(Quality of Life)、ライフデザイン

経歴
  • 2004年     :ニッセイ基礎研究所入社

    2006~2008年度 :東京大学ジェロントロジー寄付研究部門 協力研究員

    2009年度~   :東京大学高齢社会総合研究機構 客員研究員
    (2022年度~  :東京大学未来ビジョン研究センター・客員研究員)

    2021年度~   :慶応義塾大学ファイナンシャル・ジェロントロジー研究センター・訪問研究員

    内閣官房「一億総活躍社会(意見交換会)」招聘(2015年度)

    財務省財務総合政策研究所「高齢社会における選択と集中に関する研究会」委員(2013年度)、「企業の投資戦略に関する研究会」招聘(2016年度)

    東京都「東京のグランドデザイン検討委員会」招聘(2015年度)

    神奈川県「かながわ人生100歳時代ネットワーク/生涯現役マルチライフ推進プロジェクト」代表(2017年度~)

    生協総研「2050研究会(2050年未来社会構想)」委員(2013-14、16-18年度)

    全労済協会「2025年の生活保障と日本社会の構想研究会」委員(2014-15年度)

    一般社団法人未来社会共創センター 理事(全体事業統括担当、2020年度~)

    一般社団法人定年後研究所 理事(2018-19年度)

    【資格】 高齢社会エキスパート(総合)※特別認定者、MBA 他

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