2016年09月23日

【東南アジア経済】ASEANの消費者物価(9月号)~食品価格に頭打ち感、インフレ圧力は鈍化

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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(図表1)ASEAN6ヵ国消費者物価上昇率 ASEAN主要6カ国の消費者物価指数(以下、CPI)の上昇率(前年同月比)は、昨年後半から原油安による物価下押し要因の一巡を受けて緩やかな上昇傾向にあるが、足元では干ばつによる食品価格の上昇に頭打ち感や景気の伸び悩みもあり、インフレ圧力は弱まりつつある(図表1)。


 
(図表2)インドネシアCPI上昇率(寄与度) インドネシアの16年8月のCPI上昇率は前年同月比2.79%増(前月:同3.21%増)と低下した(図表2)。前月上旬のレバラン(断食明け大祭)後に購買意欲が低下し、消費財や輸送コストが低下した。 主要品目別に見ると、食材が同5.14%増(前月:同6.81%増)と低下し、運輸・通信・金融も同1.93%減(前月:同1.49%減)とマイナス幅が更に拡大した。また加工食品・飲料・タバコが同5.88%増(前月:同6.19%増)と約3年ぶりに5%台まで低下した。一方、衣類が同4.71%増(前月:4.30%増)、住宅・電気・ガス・燃料は同1.55%増(前月:同1.29%増)と、それぞれ上昇した。

食料品とエネルギーを除いたコアCPI上昇率は同3.32%増(前月:同3.49%増)と、年明け以降は横ばい圏で推移している。

9月22日に開かれた中央銀行の金融政策会合では、足元のインフレ圧力の後退や前日の米FRBの利上げ見送りを背景に政策金利を0.25%引き下げて5.0%とした。なお、先行きのインフレ率は目標圏内(3-5%)で推移すると予想している。
(図表3)タイCPI上昇率(寄与度) タイの16年8月のCPI上昇率は前年同月比0.29%増(前月:同0.10%増)となり、3ヵ月ぶりに上昇した(図表3)。

主要品目別に見ると、食品・飲料は同1.88%増(前月:同1.83%増)と干ばつの影響が燻って小幅に上昇した。また原油価格下落の一巡により、運輸・通信が同1.44%減(前月の同2.03%減)と上昇したほか、住宅・家具も同1.32%減(前月:1.41%減)と上昇した。このほかタバコ・酒類は同13.09%増と2月のタバコの物品税引き上げを受けて二桁増が続いている。

また7月のコアCPI上昇率(生鮮食品とエネルギー除く)は同0.79%増(前月:同0.76%増)と2ヵ月ぶりに上昇したものの、概ね1%を下回る水準を維持している。

CPI上昇率は依然としてタイ銀行(中央銀行)のインフレ目標の範囲内(1-4%)を下回る低水準に止まっているが、中央銀行はインフレ率が年後半に目標圏内まで上昇すると予想している。景気の緩やかな回復が続くなかでは、中央銀行は今後の金融政策余地を確保する観点から政策金利を据え置くものと考えられる。
(図表4)マレーシアCPI上昇率(寄与度) マレーシアの16年8月のCPI上昇率は前年同月比1.5%増(前月:同1.1%増)と上昇した(図表4)。CPI上昇率は、2月に同4.2%増を記録した後、景気の低迷と昨年4月のGST(物品・サービス税)導入による物価押上げ効果の剥落を受けて低下してきたが、8月は通貨安に伴う輸入インフレによって上昇した。

主要品目別に見ると、運輸は同6.7%減(前月:9.9%減)、通信は同2.4%減(同2.3%減)とそれぞれマイナス幅が縮小した。また酒類・タバコは同19.7%増と、昨年11月のタバコ税と今年3月の酒税の見直しによって引き続き高水準となった。一方、食品・飲料は同3.5%増(前月:同3.8%増)と、7月のレバラン(断食明け大祭)後の需要減退や干ばつの影響が和らぎ低下した。食品・飲料の内訳を見ると、肉類(同6.9%増)は高い伸びとなったものの、野菜(同3.1%増)や海産食品(同5.2%増)、果物(同3.9%増)が前月に続いて低下した。また住宅・光熱は同2.1%増(前月:同2.4%増)と、小幅に低下した。

食品とエネルギーを除いたコアCPI上昇率は同2.2%増(前月:同2.0%増)と、小幅に上昇した。

中央銀行は16年のインフレ率は前年比2~3%増と予想し、また足元のインフレ圧力は弱まっているものの、9月7日の金融政策会合では金融政策を据え置き、2会合連続の利下げとはならなかった。
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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

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