2016年09月20日

「脱・産みの苦しみ出産社会」を目指して-少子化社会データ再考:国際的に見た女性活躍と脱少子化に不利な日本のある特徴とは-

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子

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2女性活躍推進策としての効果

無痛分娩の普及は、単に少子化対策としてだけでなく、女性活躍にも効果があると思われる。

産後の回復の早さがメリットである無痛分娩は、より早期に職場復帰を望む女性にとって追い風となる。また、女性が育児休業期間を決める際に、キャリアの断絶や職場でのいづらさ、部署変更にならない程度の期間で復帰、などを気にして決めているケースもあり、職場での周囲との調和重視派女性に対しても十分、無痛分娩は選択する価値がありそうである。

では、一体どれくらいの期間、働く女性が育児休業を取得しているのかをみてみることにする。
【図表4】実際に取得した産前産後休暇+育児休業期間別の取得者数割合(%)
図表4からは意外に早期に復帰をしている女性が多いということがわかる。

日本は先進国には珍しく、子育て期の30代女性の労働力率が20代や40代の女性よりも低くなる女性労働力率のM字カーブが残っている。ちなみに、労働力率の谷底となる30代女性の労働力率は2014年で71%4である。このようなM字カーブを生み出す、すなわち、女性が出産を機に就業継続を断念する理由の一つに、「資生堂ショック」に代表されるコンフリクト問題がある。

資生堂ショックは、育児休業取得者ではなく、育児中の制限勤務者と通常勤務者とのコンフリクトから発生したものであった。しかし資生堂ショックに限らず、一般的に、育児支援関連制度利用者と、制度利用対象とならない独身または子育て期にあたらない従業員との間のコンフリクト問題が存在する。育児支援制度利用者の業務のしわ寄せが他の従業員の不満を引き起こす、というコンフリクトである。

育児休業期間に対する要望は様々である。先進国の中で女性活躍も出生率も高い数値をキープしているフランスにおいても、当然のことながら3ヶ月で復帰する女性から3年間育児休業を取得する女性まで存在し、多様な休業期間の選択がおこなわれている。

にもかかわらず、今までの日本の子育て支援策は「少しでも長く育児休業を取得したい人はどうしたらよいか」という視点からの政策に主眼が置かれてきた。

これは子育て期間を長く取得したい女性にとって大変望ましい動きである。しかし、ここで筆者が指摘したいのは、その一方で「早期復帰したくても産後の回復が遅れて希望通りにはいかない」女性を減らす政策も、女性活躍推進・子育て支援として大切な政策の一つなのではないか、ということである。

育児休業取得期間について興味深いベルギーのデータがある。

ベルギーは、世銀レポートによれば2015年合計特殊出生率が1.82と、現在の日本が目指している出生率1.8を2005年以降達成し続けている国である。このベルギーでは、産休後5に取得可能な育児支援のための勤務(完全休業または短時間勤務併用)のタイプが3タイプもある(図表5)。
【図表5】ベルギーの育児支援勤務制度(3タイプから選択可能)
そしてこのタイプの中でベルギーの女性に最も選択されているのは「タイプ2」である(中島2012)。

1日の勤務時間を4/5にして1年3ヶ月の短時間勤務で育児を優先する方法もあるが、半年でのフルタイム復帰が一番選択されている、というデータは「3歳児信仰」「母性信仰」などと呼ばれているわが国の育児にまつわる諸々の概念と相反するものとなっている。
 
 
 
4 総務省統計局「労働力調査(長期時系列)」
5 母親休暇:産前6週間、産後9週間は就労が禁止されている。日本の産休制度にあたる。
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生活研究部   人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進

経歴
  • プロフィール
    1995年:日本生命保険相互会社 入社
    1999年:株式会社ニッセイ基礎研究所 出向

    ・【総務省統計局】「令和7年国勢調査有識者会議」構成員(2021年~)
    ・【こども家庭庁】令和5年度「地域少子化対策に関する調査事業」委員会委員(2023年度)
    ※都道府県委員職は就任順
    ・【富山県】富山県「県政エグゼクティブアドバイザー」(2023年~)
    ・【富山県】富山県「富山県子育て支援・少子化対策県民会議 委員」(2022年~)
    ・【三重県】三重県「人口減少対策有識者会議 有識者委員」(2023年~)
    ・【石川県】石川県「少子化対策アドバイザー」(2023年度)
    ・【高知県】高知県「中山間地域再興ビジョン検討委員会 委員」(2023年~)
    ・【東京商工会議所】東京における少子化対策専門委員会 学識者委員(2023年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する情報発信/普及啓発検討委員会 委員長(2021年~)
    ・【主催研究会】地方女性活性化研究会(2020年~)
    ・【内閣府特命担当大臣(少子化対策)主宰】「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府男女共同参画局】「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府委託事業】「令和3年度結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査 企画委員会 委員」(内閣府委託事業)(2021年~2022年)
    ・【内閣府】「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017年~)
    ・【内閣府】地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016年~2017年)
    ・【内閣府特命担当大臣主宰】「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016年)
    ・【富山県】富山県成長戦略会議真の幸せ(ウェルビーイング)戦略プロジェクトチーム 少子化対策・子育て支援専門部会委員(2022年~)
    ・【長野県】伊那市新産業技術推進協議会委員/分野:全般(2020年~2021年)
    ・【佐賀県健康福祉部男女参画・こども局こども未来課】子育てし大県“さが”データ活用アドバイザー(2021年~)
    ・【愛媛県松山市「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会】結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017年度~2018年度)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータアドバイザー会議委員(2020年度~)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータ活用研究会委員(2016年度~2019年度)
    ・【中外製薬株式会社】ヒト由来試料を用いた研究に関する倫理委員会 委員(2020年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する意識調査/検討委員会 委員長(2020年~2021年)

    日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
    日本労務学会 会員
    日本性差医学・医療学会 会員
    日本保険学会 会員
    性差医療情報ネットワーク 会員
    JADPメンタル心理カウンセラー
    JADP上級心理カウンセラー

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