2016年09月09日

マネー統計(16年8月分)~不動産向け貸出が増加、消去法的な普通預金への資金流入が継続

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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2.マネタリーベース: 概ね目標達成ペース

9月2日に発表された7月のマネタリーベースによると、日銀による資金供給量(日銀当座預金+市中に流通するお金)を示すマネタリーベース平均残高は前年比で24.2%の増加となり、伸び率は前月(同24.7%)からやや低下。内訳のうち、日銀当座預金の伸び率が前年比32.0%と前月(32.6%)から低下したことが主因だが、日銀券発行高の伸び率も前年比5.7%と前月(5.9%)からやや低下した。

マネタリーベースの伸び率は6ヵ月連続で緩やかに低下しているが、その主因である日銀当座預金の伸び率低下は分母にあたる前年の残高増加に伴うもので、日銀当座預金の前年比増加額は、概ね75兆円弱で推移している(図表6~7)。
 
金融政策との関係では、現行の金融政策におけるマネタリーベース増加目標は「年間約80兆円増」であり、単純計算では月当たり6.7兆円増が必要になるが、8月月末残高の前月末比増加額はわずか0.6兆円に留まっている。8月も7月同様、国債・国庫短期証券の発行超過(発行-償還)が多額にのぼり、これに伴って資金が吸収されたためであり、季節要因の色彩が強い。実際、季節調整済みのマネタリーベース平均残高でみると前月差8.2兆円増と、目標達成ペースを上回っている。
(図表6) マネタリーベース伸び率(平残)/(図表7) 日銀当座預金残高(平残)
(図表8)マネタリーベース残高と前月比の推移 また、同ベースにおいて、今年に入ってからの1-8月の平均月間増加額は6.6兆円となり、1-7月平均の月6.3兆円からやや加速している。依然として目標達成ペースの月6.7兆円を若干下回っているものの、特段問題ないペースに戻ったと言える(図表8)。



 

3.マネーストック: 消去法的な普通預金への資金流入が継続

日銀が9月9日に発表した8月のマネーストック統計によると、市中に供給された通貨量の代表的指標であるM2(現金、国内銀行などの預金)平均残高の伸び率は前年比3.3%(前月改定値は3.4%)、M3(M2にゆうちょ銀など全預金取扱金融機関の預貯金を含む)の伸び率は同2.8%(前月は2.9%)と、それぞれ前月から小幅に低下した。
(図表9) M2、M3、広義流動性の動き/(図表10) 現金・預金の動き/(図表11) 投資信託と準通貨の動き
M3の内訳では、現金通貨の伸び率が前年比5.6%(前月改定値は5.8%)、準通貨(定期預金など)の伸び率が▲1.2%(前月は▲1.0%)、CD(譲渡性預金)の伸び率が▲15.3%(前月改定値は▲14.7%)とそれぞれ低下する一方、預金通貨(普通預金など)の伸び率が8.0%(前月改定値は7.9%)と上昇した。預金通貨の伸び率上昇はマイナス金利政策がスタートした本年2月以降、7ヶ月連続であり、伸び率は2003年3月以来の高水準となった。実額では、前年同月と比べて42.6兆円も増加している(1月時点では21.8兆円増)(図表9~10)。

マイナス金利導入以降に市場金利が低下したことで、企業や金融機関において短期証券等での運用が困難となったほか、定期預金の金利もほぼゼロとなったことで、普通預金に大量の資金流入が続いている。
 
M3に投信や外債といったリスク性資産等を含めた広義流動性の伸び率は前年比1.7%(前月改定値は1.9%)と大きく低下。1月時点の3.6%から急激な低下が続いている。

内訳のうち、既述のとおりM3の伸びが小幅に低下したほか、残高が比較的大きい金銭の信託(前年比伸び率:前月▲3.4%→当月▲4.1%)や投資信託(元本ベース・前年比伸び率:前月7.9%→当月7.3%)の伸びも引き続き低下したことが響いた。

投資信託については、マイナス金利の影響で運用難に陥ったMMFが販売停止となり、一部で払い戻しが行われているという特殊要因もあるが、マネー全体の動きとして、(1)定期預金離れ、(2)リスク性資産への流入停滞、(3)消去法的な普通預金選好、という流れが続いている。
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2016年09月09日「経済・金融フラッシュ」)

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