2016年09月07日

雇用促進だけではダメ!?地域活性化のカギは○○が移住したくなる街づくりだ-国勢調査からみる5年間の都道府県別人口移動の状況

基礎研REPORT(冊子版) 2016年9月号

生活研究部 主任研究員 井上 智紀

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総務省統計局より順次結果の公表が続いている「平成27年 国勢調査」によれば、わが国の2015年10月現在の総人口は1億2,711万人と、5年前(1億2,806万人)から94万7千人の減少となっている。6月末に公表された抽出速報集計より、都道府県別の人口の増減についてみると、北海道および福島県では10万人以上、青森県、岩手県など8県では5万人以上、それぞれ減少する一方で、東京都、神奈川県、埼玉県、愛知県では5万人以上増加している[図表1上]。これを、2010年時点の人口で除した増減率としてみると、5年前に比べ秋田県および福島県では5%以上、青森県、岩手県など12県では3%以上、それぞれ減少したことがわかる[図表1下]。
 
 
5年間の人口の増減および増減率
このような人口の増加・減少を、各都道府県からの転出入、すなわち社会移動と、出生・死亡からなる自然増減に分解してみると、ほとんどの都道府県で自然増減が社会移動を上回っており、この5年間に人口が増加した8都県についても東京都など3都県を除けば自然減の状態となっている様がみてとれる[図表2]。また、宮城県や岡山県など人口全体としては減少していても、社会移動による増加が自然増減の影響を緩和している府県もみられている。このような社会移動による人口増加率の上位には、大都市圏や大都市圏のベッドタウンとして人口の流入が続く都府県が並ぶなか、鹿児島県や島根県など、大都市への通勤圏外にあっても、社会移動による人口が増加している自治体もあるようである。このことは、国全体として当面、人口減少が避けられないと予測されるなかでも、移住の促進などの取組が、地域における人口減少の抑制につながっていることを示している。実際に、社会移動の状況を年齢階層別にみると、これらの自治体における社会移動に伴う人口増は30代が中心となっている県が多くなっている。こうした自治体では、雇用の創出等、移住促進に向けた取組が奏功しているものと考えられよう。

現役世代の地方への移住には、安定的な雇用の確保も肝要ではある。しかし、家族形成期にある30~40代の転出入の状況について自治体により明暗が分かれていることは、地方への移住・定住を促進する上で雇用の確保が必要十分な条件ではないことを意味している。求められているのは、「その地域」で生活することの魅力について、これらの世代に具体性をもって理解されることにあるのではないだろうか。国全体として人口減少が続くなか、地域独自の魅力を高め、移住希望者の発掘や移住後の定住につなげていくことができるか、地域における創意工夫が問われている。
 
人口増減率の内容
 

 
  1 日本人人口では138万6千人減少していることから、この間、外国人(国籍不詳を含む)が約44万人増加したことになる。
  2 総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」によれば、福島県では震災の影響から2011~2012年にかけて顕著に転出が増加していたものの、2013年以降は落ち着きを取り戻している。
  3 実際に、鹿児島県や島根県などの社会増となっている自治体と他の自治体との間で、有効求人倍率の差異が確認できないこともその証左といえよう。
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生活研究部   主任研究員

井上 智紀 (いのうえ ともき)

研究・専門分野
消費者行動、金融マーケティング、ダイレクトマーケティング、少子高齢社会、社会保障

経歴
  • プロフィール
    ・1995年:財団法人生命保険文化センター 入社
    ・2003年:筑波大学大学院ビジネス科学研究科経営システム科学専攻修了(経営学)
    ・2004年:株式会社ニッセイ基礎研究所社会研究部門 入社
    ・2006年:同 生活研究部門
    ・2018年より現職
    ・山梨大学生命環境学部(2012年~)非常勤講師
    ・高千穂大学商学部(2018年度~)非常勤講師
    ・相模女子大学(2022年度~)非常勤講師

    所属学会等
    ・日本マーケティング・サイエンス学会
    ・日本消費者行動研究学会
    ・日本ダイレクトマーケティング学会
    ・日本マーケティング学会
    ・日本保険学会
    ・生命保険経営学会

    ・一般社団法人全国労働金庫協会「これからの労働金庫のあり方を考える研究会」委員(2011年)

(2016年09月07日「基礎研マンスリー」)

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