2016年08月08日

日銀ETF大量購入の問題点-マッチポンプの日本的手法と企業経営に悪影響の懸念

金融研究部 主席研究員 チーフ株式ストラテジスト 井出 真吾

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企業経営に悪影響の恐れ

日銀のETF大量購入が株価を下支えする仕組みは極めてシンプルだ。日銀の購入によってETFの市場価格が上昇すると、ETF構成銘柄の現物株との間に価格差が生じる。すると、割安な現物株に買い注文が入り、現物株の株価も上昇するということだ。例えば日銀が日経平均連動型ETFを購入すると、日経平均を構成する225銘柄の現物株が相対的に割安になるので、これら企業の株価が上昇しやすくなる。図2はETFを通じて日銀が間接的に株式を保有する割合を試算したものだ(6%以上の企業)。これら企業の株価は今後も日銀のETF大量購入によって下支えもしくは引き上げられることが期待される。

株価が値上がりするのは好ましいように思われがちだが、企業経営への弊害も想定される。というのも、前述のように日銀によるETFの大量購入によって個別企業の株価が下支えされるため、株価が経営内容を正しく反映できなくなる恐れがある。たとえば企業の経営内容に改善点が生じても、株価が下がらなければ株主が問題視せず放置するかもしれない。また、経営者が株主の評価を通じて経営課題に気づく機会を逸してしまう恐れもある。
【図2】日銀の間接的な株式保有割合が大きい企業
ポケモンGO!が大ヒットとなった任天堂は、据え置き型ゲーム機に長く拘ってきたが、株主の強い要請も踏まえてスマートフォン向けゲームに舵を切った。株価は株主による経営監視機能を備えているが、日銀の買い支えによってそれが機能不全となる懸念がある。これは企業にも株主にも不幸なことだし、日本経済や日本株市場の健全な発展を阻害しかねない。
 
さらに言うと、日銀は大量購入したETFを将来どうするのだろうか。これも気がかりである。国債は満期があるので保有し続ければ自然と日銀から無くなる。ところがETFには満期がないので、いずれ日銀は“売る”というアクションを起こすことになる。今は“買う”というアクションで株価を下支えしている時期だからよいが、超金融緩和政策の出口では何が起こるのか心配の種は大きい。時限立法で日銀保有ETF管理機構のようなものを作って少しずつ売却するのだろうか。それでも、図2に示したような間接的に大量保有されている企業の株価には大きな下押し圧力がかかることが想定される。市場に影響が出ないように処分できるとも思えないのだが・・・。
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金融研究部   主席研究員 チーフ株式ストラテジスト

井出 真吾 (いで しんご)

研究・専門分野
株式市場・株式投資・マクロ経済・資産形成

経歴
  • 【職歴】
     1993年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 (株)ニッセイ基礎研究所へ
     2023年より現職

    【加入団体等】
     ・日本ファイナンス学会理事
     ・日本証券アナリスト協会認定アナリスト

(2016年08月08日「基礎研レター」)

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