- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- >
- 証券市場 >
- 日銀、言葉なきメッセージ
10月31日、日本銀行は金融政策決定会合で「金融政策の維持」を決定した。市場にはETF(上場投資信託)の買入増額を期待する声もあるが、会合後の記者会見でも黒田総裁からそのようなコメントは聞かれなかった。
そもそも日銀がETFを買い入れるのは、間接的に株価を下支えするだけでなく、「リスク性資産に投資しても大丈夫ですよ」というメッセージを伝え、株式市場に資金を呼び込むためのアナウンスメント効果が大きいと思われる。今回、市場が買入増額を期待していたにもかかわらず、日銀が示唆すらしなかったことをどう解釈すればよいのだろうか。
日銀のETF買入をめぐっては、午前のTOPIX(東証株価指数)が前日終値よりも1%以上下落した場合にETFの買入を実施する「1%ルール」がウワサされてきた。今年1月以降で買入を実施した日について午前のTOPIX下落率と買入額を図示してみると、実際に1%以上下落した日が多かった。ところが9月中旬以降は1%に満たない小幅な下落でも買入を実施するケースが増えた。
9月中旬というのは「安倍首相が消費税増税を決断」と大きく報道されたタイミングにぴたりと重なる。うがった見方をすれば、消費税増税の決定をきっかけに景気悪化の懸念から株が売られ、安倍政権に対する批判の高まりと内閣支持率低下という最悪シナリオは、日銀としては何としても避けなければならない。そのためには「1%ルール」のハードルを下げてETF買入をこまめに実施し、市場との対話を強化しようと考えたのだろうか。
一方、1回あたりのETF買入額は減少傾向にある(8月=208億円、9月=176億円、10月以降=131億円)。これは、2兆5,000億円という2013年末の残高見通しに照準を合わせつつ、買入頻度を高めると同時に1回あたりの買入額を小口化しているものと推測される。
2兆5,000億円という数字は見通しに過ぎないので超過しても構わない。しかし、もし超過すると「想定よりも株価下支えの必要性が高まったのでは?」などと余計なツッコミを招く恐れもあるので、“見通し”という言葉以上に日銀はこのラインを重視しているのかもしれない。
このように、日銀は明確な言葉こそ発していないが、株式市場と丁寧に接する意思があり、それを行動で示しているように感じる。昨年11月14日に野田前首相が衆議院解散を宣言してからまもなく1年。株式市場が再び高値を目指せるかは、企業業績や成長戦略はもちろんだが日銀の金融調節も重要なカギを握る。引き続き株式市場との丁寧な対話姿勢に期待したい。
(2013年11月05日「研究員の眼」)
03-3512-1852
- 【職歴】
1993年 日本生命保険相互会社入社
1999年 (株)ニッセイ基礎研究所へ
2023年より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会認定アナリスト
井出 真吾のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2024/08/07 | 新NISAスタートから半年 理想を追ったら資産が半分に!?-長期投資で大失敗しないために | 井出 真吾 | 基礎研マンスリー |
2024/06/24 | 新NISAスタートから半年 理想を追ったら資産が半分に!?~長期投資で大失敗しないために~ | 井出 真吾 | 基礎研レポート |
2024/05/07 | ストライクゾーン高めの日本株 | 井出 真吾 | ニッセイ年金ストラテジー |
2024/02/07 | 新NISA、「毎月投資」か「1月一括投資」か | 井出 真吾 | 基礎研マンスリー |
公式SNSアカウント
新着レポートを随時お届け!日々の情報収集にぜひご活用ください。
新着記事
-
2024年10月11日
ふるさと納税の新たな懸念-ワンストップ特例利用増加で浮上する課題 -
2024年10月10日
米国のベンチャー業界におけるジェンダー問題への取り組み -
2024年10月10日
企業物価指数2024年9月~輸入物価は下落したが、国内企業物価は前月から伸び拡大~ -
2024年10月10日
日本の不妊治療動向2022-2022年の総治療周期数は543,630件と、前年より45,490件の増加、治療ピークは42歳で保険適用年齢の制限が影響か- -
2024年10月10日
実効性と成果が問われ始めた企業のサステナビリティ推進-稼ぐ力との両立を目指す「サステナブルマーケティング」とは
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年07月01日
News Release
-
2024年04月02日
News Release
-
2024年02月19日
News Release
【日銀、言葉なきメッセージ】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
日銀、言葉なきメッセージのレポート Topへ