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日銀の金融緩和策にふさわしいETFはどれか
金融研究部 上席研究員 チーフ株式ストラテジスト 井出 真吾
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4月4日午後、日本銀行が「大胆な金融緩和」の導入を決定したことが伝わると、日経平均株価は取引終了までの1時間強で500円近く急上昇した。期待を上回る緩和策を株式市場は大いに歓迎したとみてよいだろう。日銀が決めた緩和策は、資金供給量(マネタリーベース)や保有する長期国債および上場投資信託(ETF)を2倍に増やすこと、買い入れる長期国債の平均残存期間を2倍以上に延ばす等だが、ここでは日銀が購入するのにふさわしいETFとは何か考えてみたい。
ETFとは証券取引所に上場している投資信託の総称である。通常の投資信託との大きな違いは「上場している」ことと、「株価指数等に連動する」というだけで、日本株を投資対象としたETFの多くは通常の投資信託と同じように個別企業の株式を組み入れる。では、日銀のETF購入にはどのような効果が期待されるのだろうか。ごく単純に言えば、日銀がETFを購入するとそのETFの価格が上がり、これに連動してETFに組み入れられている個別企業の株価も上がるというメカニズムだろう。つまり、日銀がETFを通じて株式市場に資金供給することで、株価を押し上げる資産効果が期待される。
ところで、東京証券取引所に上場しているETFのうち、日本株を対象としたものは約70種類ある。日経平均株価指数や東証株価指数(TOPIX)に連動するタイプのほか、特定の業種別株価指数に連動するタイプなど様々だ。日銀は1年間に1兆円規模でETFを買い入れるとしており、購入対象のETFには資産規模や売買高の大きさが求められる。しかし、これだけでは十分ではないと筆者は考える。
前述のとおりETFは株価指数に連動するように個別企業の株式を組み入れる。例えばTOPIXに連動するETFの場合は、ある企業の株式の組入比率をTOPIXにおける構成比と等しくする。日経平均連動型のETFでも同様だ。一方、TOPIXや日経平均では個別企業の株価に基づいて構成比が決まるので、ある企業の株価が他社よりも値上がりすると株価指数やETFにおけるその企業の構成比も増える。つまり、日銀のETF購入は「値上がりした企業により多くの資金を投入する行為」にほかならない。
これは本当に適切か、簡単な例を考えてみよう(下図参照)。A社とB社の実力に見合う株価はいずれも100円で、株価指数(およびETF)に占める構成比は1.0%ずつで等しいとする。ところが、市場での株価はA社120円、B社80円となっている(市場の株価は実力どおりとは限らない)。するとA社は1.2%、B社は0.8%と実力とかけ離れた構成比になる。このETFを1兆円購入する場合、実力見合いなら100億円(=1兆円×1.0%)ずつ投入されるところだが、実際はA社に120億円、B社には80億円が投入されることになる。
言うまでもなく日銀がETFを購入する目的は株式投資で儲けることではなく、資産効果などを通じて日本経済を活性化させることだ。そうであれば、実力より過大評価されているA社よりむしろ、過小評価されているB社にこそ資金が投入されるべきではないだろうか。しかし、そのようなETFが存在しない以上、日銀としてはどうしようもない。
対策はあるか。一つのアイデアは、売上高や営業利益などの大きさに応じて構成比を決める方法だ。財務データを用いても企業の実力を完全に把握することは不可能だが、株価に基づく構成比より効率的に資金投入される可能性がある。また、既存のETFを購入すると、実力より株価が高くなっている(割高な)企業に多く投資することになるため、その後の値下がりで損失を被る恐れもある。こういったリスクも軽減できるかもしれない(日銀は儲けることが目的ではないと述べたが、損失を抱えることは好ましくないだろう)。
本稿のタイトル「日銀の金融緩和策にふさわしいETFはどれか」に自答すれば、「単に株価指数が上がればよいなら既存のETFで十分に役割を果たせる。しかし、資金供給効果を高めるには、企業の実力をより的確に反映したETFの登場に期待したい」である。実際、海外には売上高や利益額などで構成比を決めるETFがある。また、より本質的な議論としては、企業が実力を高められるよう、政府・企業の一丸となった取り組みが進むことを期待したい。
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