2016年08月08日

日銀ETF大量購入の問題点-マッチポンプの日本的手法と企業経営に悪影響の懸念

金融研究部 チーフ株式ストラテジスト・年金総合リサーチセンター兼任   井出 真吾

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■要旨

日銀のETF大量購入は株価の下支え効果が期待されるが、そもそも日銀が株価を押し下げている可能性がある。日銀は市場との対話を通じてETF購入の効果をより大きくできるので勿体無い。また、株価維持によって企業の経営監視機能が損なわれる懸念もある。

■目次

・ETF買い入れ枠を約2倍に拡大
・日銀自身が株価を押し下げている?
・企業経営に悪影響の恐れ

 

・ETF買い入れ枠を約2倍に拡大

ETF買い入れ枠を約2倍に拡大

7月29日、日本銀行はETF(上場投資信託)の買い入れ枠を年間6兆円に拡大すると決めた。従来の3.3兆円からほぼ倍増だ。アベノミクス始動直後の2012年12月~2013年4月、日経平均を9,000円台から1万4,000円程度まで一気に引き上げる原動力となった海外投資家の買い越し額(7.6兆円)に迫る金額である。世界経済の先行き不透明感が増すなか、日銀のETF大量購入による株価の下支え効果が期待される。

日銀はETF購入の狙いを「リスクプレミアムを下げるため」と説明している。リスクプレミアムとは平たく言えば“投資家がリスクを嫌がる度合い”である。リスクを嫌がらないようにすれば、投資家が株を買いやすくなるので株価上昇に繋がるということだ。株価維持策などの批判もあるが、この考え方は理論的に正しい。
 

・日銀自身が株価を押し下げている?

日銀自身が株価を押し下げている?

しかし、筆者は日銀の手法に問題というか、勿体無い点があると考えている。それは、日銀は金融政策の決定に際して、基本的に市場とコミュニケーションを取らない。欧米の中央銀行(FRB、ECB)の場合は、決定前に数日から数週間かけて情報を小出しにして市場の反応を探る。そうして自身の金融政策の内容を少しずつ市場に織り込ませる。

一方の日銀は昔ながらの秘密主義を貫いているため、市場では様々な憶測や疑心暗鬼が渦巻く。こうした思惑による短期志向の投機的な売買が市場の変動率(ボラティリティー)を高めている可能性がある。図1は日経平均の予想変動率を示す日経平均ボラティリティー・インデックス(日経平均VI)の推移だ。日銀が金融政策を決める決定会合開催日に向けて日経平均VIが高まり、決定後は低下する傾向が見られる。直近3回の決定会合では、10営業日前から前日まで平均約14%上昇した。

日経平均VIは別名“恐怖指数”と呼ばれ、市場の不安心理を示す指数とされる。図1の日経平均VIの動きは、日銀がどのような金融政策を決めるか情報が乏しいため決定日前日に向けて徐々に市場の不安定さが増し、日銀の決定内容が明らかになると落ち着きを取り戻す様子が表れているのだろう。

つまり、日銀自身が市場の変動率や不安を高め、結果的にリスクプレミアムを高めている(投資家を株式市場から遠ざけている)のではないか。そうだとすれば、日銀のETF大量購入によってリスクプレミアムを下げるといっても、そもそも自分で高めたリスクプレミアムを下げているに過ぎず、まさにマッチ・ポンプ(自分でマッチで火を点けて、自分でポンプで消すこと)だ。

これは実に勿体無い。もっと市場と対話をすれば無用にリスクプレミアムを高めることなく、ETF大量購入による株価引き上げ効果も大きくなるはずだし、政府の経済対策との相乗効果もより大きなものが期待できる。市場はわがままなので中央銀行と考え方が一致することは難しい。日銀は市場の言いなりになる必要などなく、自らの信念に基づいて金融政策を決めるべきだ。しかし、世界的な金融緩和の状況下においては、市場との対話によって考え方のギャップを縮めることも中央銀行としての責任ではないか。
【図1】日経平均ボラティリティ・インデックス
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金融研究部   チーフ株式ストラテジスト・年金総合リサーチセンター兼任

井出 真吾 (いで しんご)

研究・専門分野
株式市場・株式投資

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