2016年07月07日

東京のマンション、実はそこまで高くない!?-修正年収倍率による東京のマンション市場の分析

基礎研REPORT(冊子版) 2016年7月号

金融研究部 主任研究員 佐久間 誠

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1――はじめに

東京のマンション価格が高騰している。2015年の東京都の新築マンション価格は、6,779万円と前年比8.4%上昇した。ミニバブル期のピークである2008年の5,993万円を大幅に上回り、不動産市場の過熱感を懸念する声もある[図表1]。

その一方で、マンション価格上昇を後押しする材料もある。住宅ローン金利の低下だ。代表的な住宅ローン金利であるフラット35借入金利を見ると、2008年は2%台後半から3%前後で推移していたが、2009年中頃から低下基調となり、2016年5月には1.08%と過去最低を更新した[図表2]。

現在の不動産市場をバブルとする主張もあるが、住宅ローン金利低下を考慮した場合、東京マンション市場はファンダメンタルズからどれほど乖離しているのだろうか。換言すれば、住宅ローン金利低下は住宅取得者の負担をどれほど軽減したのだろうか。

本稿では、まず住宅価格のファンダメンタルズ指標である年収倍率の動向を確認する。次に、年収倍率に住宅ローンの要素を加えた修正年収倍率を使い、東京マンション市場を分析した
 
東京都新築マンション価格の推移、フラット35借入金利の推移

2――年収倍率による分析

1|年収倍率の概要

年収倍率は、下記数式の通り、住宅取得者の年収に対して住宅価格が何倍かを示したものである。年収倍率が高いほど、住宅が買いにくく、住宅価格の割高感が強いことを示す。
 
年収倍率=平均住宅価格/平均年収

 年収倍率はシンプルでわかりやすいため、メディアや政府などに取り上げられることも多い。また一般に年収倍率は5倍以内が適正だと言われることがある。一方、年収倍率の平均的な水準は地域などによって異なり、東京のマンションの場合、恒常的に5倍を上回っている。従って、5倍を上回るからと言って、一概に住宅価格が割高だと判断できるものではない。


2|年収倍率の推移

2015年の東京都の年収倍率は9.8倍と前年比10.5%上昇した[図表3]。ミニバブル期のピークである2008年の8.6倍を超え、バブル期のピークである1989年の14.1倍に次ぐ水準まで上昇している。年収倍率からは、東京マンション市場の過熱感は強いと言える。

2015年に年収倍率が上昇した理由は、所得が伸び悩む中、マンション価格が上昇したことだ。マンション価格は6,779万円と前年比8.4%上昇した一方、平均年収は690万円と前年比1.9%減少している[図表4]。

なお、マンション価格上昇・所得減少の傾向は2015年に限ったことではない。マンション価格は2000年代前半を底に下値を切り上げているのに対して、平均年収は1990年代前半をピークに減少を続けている。安倍首相が経済界に賃上げを要請するなど、官主導の所得向上に向けた動きは見られる。但し、賃上げも停滞気味で、いまだ底打ちと判断できるほど所得は上昇していないのが現状だ。
 
東京都の年収倍率の推移、東京都のマンション価格と平均年収の推移

3――住宅ローンの要素を考慮した修正年収倍率による分析

次に、年収倍率に住宅ローンの要素を加えた指標を修正年収倍率とし、その動向から東京マンション市場を分析する。

1|修正年収倍率の概要

修正年収倍率は、下記数式の通り、住宅ローン総返済額が住宅取得者の年収に対して何倍かを示した指標である。また住宅ローン総返済額は、住宅ローン借入元本と住宅ローン総利息額に分解することができる。

  修正年収倍率=住宅ローン総返済額/平均年収
  修正年収倍率=(住宅ローン借入元本+住宅ローン総利息額)/平均年収

修正年収倍率では、年収倍率の長所である、わかりやすさを損ねないことを重視した。従って、時間価値やインフレ率、賃金上昇率などの要素は考慮していない。


2|修正年収倍率の推移

2015年の東京都の修正年収倍率は12.3倍と前年比7.8%上昇した[図表5]。過去数年と比較しても特段高い水準ではなく、依然としてミニバブル期のピークである2008年の12.8倍より低い。修正年収倍率は、現在のマンション価格がファンダメンタルズから逸脱していると判断できるほどの動きを示してはいない。

修正年収倍率の上昇が緩やかな理由は、住宅ローン金利低下が住宅ローン総返済額を押し下げていることだ。その押し下げ幅を把握するために、ミニバブル期のピークである2008年からの住宅ローン総返済額の変動要因を確認する[図表6]。マンション価格上昇により住宅ローン借入元本が787万円増加した一方、住宅ローン総利息額は1,256万円減少した。その結果、住宅ローン総返済額は469万円減少した。同期間における住宅ローン金利の低下幅は約1.3%である。また住宅ローン総利息額の減少幅はマンション価格の約2割に相当し、住宅ローン金利低下が同程度の値引き効果をもたらしたと見ることもできる。

修正年収倍率は、市場で懸念されているほどの過熱感を示しておらず、東京マンション市場が一概にバブルと判断できるほどの動きではない。住宅ローン金利低下がもたらした実質的な値下げ効果の影響が大きいことがわかる。
東京都の修正年収倍率の推移、東京都の住宅ローン層返済額の変動要因

4――おわりに

住宅ローン金利低下により住宅取得者の負担はそれほど増えていないが、留意すべき点もある。購買力改善の要因が、住宅取得者の所得向上ではなく、住宅ローン金利低下によるものだということである。住宅ローン金利は、既に下限近くに達しており、低下余地は限られる。金利低下によるマンション価格押し上げは今後期待しづらい。購買力改善の牽引役を、住宅ローン金利低下から所得向上に引き継ぐことができるかが、東京マンション市場の先行きを占う上で重要になるだろう。
 

 
  2 年収倍率は、東京都の75m2の新築マンションを購入した場合を想定して計算。
  3 修正年収倍率は、住宅ローンを利用して東京都の75m2の新築マンションを購入した場合を想定して計算。住宅ローン総支払額を計算する際の前提は下記の通り。
・返済期間:30年
・借入金利:2003年9月以前=旧公庫融資基準金利、2003年10月以降=フラット35借入金利
・返済方法:元利均等返済
・頭金:なし
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金融研究部   主任研究員

佐久間 誠 (さくま まこと)

研究・専門分野
不動産市場、金融市場、不動産テック

経歴
  • 【職歴】  2006年4月 住友信託銀行(現 三井住友信託銀行)  2013年10月 国際石油開発帝石(現 INPEX)  2015年9月 ニッセイ基礎研究所  2019年1月 ラサール不動産投資顧問  2020年5月 ニッセイ基礎研究所  2022年7月より現職 【加入団体等】  ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター  ・日本証券アナリスト協会検定会員

(2016年07月07日「基礎研マンスリー」)

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