- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 不動産 >
- REIT(リート) >
- マイナス金利後に変化したJ-REIT市場の資金フロー~多様な投資家の参入が市場の安定を育む
コラム
2016年05月31日

文字サイズ
- 小
- 中
- 大
日本銀行が1月末にマイナス金利政策を発表してから4ケ月が経過し、この間、前例のない事態に国内の金融市場は大きく揺れ動きました。債券市場では10年国債利回りがプラスからマイナスとなり、外国為替市場では急激な円高ドル安が進行。株式市場では日経平均株価が一時1万5千円を割り込みました。このようにマーケット環境が変動するなか、J-REIT(不動産投資信託)市場では海外資金の流入を背景に東証REIT 指数が12%上昇しています1。
東京証券取引所の投資主体別売買統計によると、2月以降、J-REIT市場の資金フローに大きな変化が生じました(図表1)。まず、大幅な買いに転じたのは「海外投資家部門」で、2月から4月にかけて2,622億円を買越しました2。なお、「海外投資家部門」は2月から3月に株式を約4兆円売越しましたので、海外投資家全体でみるとマイナス金利を契機に「REIT買い・株売り」の判断を下したと言えます。次に、それまで12ケ月連続でJ-REITを買越していた「投資信託部門」は、一転して1,523億円を売越しました。3ケ月連続で月100億円以上の売越しは初めてのことです。
東京証券取引所の投資主体別売買統計によると、2月以降、J-REIT市場の資金フローに大きな変化が生じました(図表1)。まず、大幅な買いに転じたのは「海外投資家部門」で、2月から4月にかけて2,622億円を買越しました2。なお、「海外投資家部門」は2月から3月に株式を約4兆円売越しましたので、海外投資家全体でみるとマイナス金利を契機に「REIT買い・株売り」の判断を下したと言えます。次に、それまで12ケ月連続でJ-REITを買越していた「投資信託部門」は、一転して1,523億円を売越しました。3ケ月連続で月100億円以上の売越しは初めてのことです。
投資信託協会の資料によると、J-REIT投資に特化した公募投資信託(J-REIT投信)の資産額は3.7兆円で、市場時価総額の約3割を占める最大の投資主体です。資金フローを見てみると、基準価額の上昇したJ-REIT投信を売却する一方、円高に振れて下落した海外REIT投信の購入を増やしており、公募投信の最終投資家である個人は逆張りの投資志向を強めたようです。
ところで、海外資金の流入によるJ-REIT市場の上昇と言えば、前回の「不動産ミニバブル」が想起されます。06年12月から07年5月に「海外投資家部門」はJ-REITを4,452億円買越し、東証REIT指数は42%上昇しました。しかし、その後は下落に転じリーマン・ショックを経て、東証REIT指数はピーク時の約1/4へと暴落します。
今回、海外投資家の買いに対してJ-REITの最大投資家である個人(投資信託経由)が売り向かうことで、ファンダメンタルズから乖離した一方向の価格高騰は回避されました。また、J-REIT市場における投資家層の偏りは依然課題ですが、その裾野は着実に広がりを見せています。日本銀行は金融緩和の一環として年間900億円の取得方針を掲げ、GPIFなど長期の年金資金も流入し始めています。さらに大口機関投資家の新規参入が予定されるほか3、制度改正によって自己投資口取得や他社REITとの合併4などJ-REIT自らが購入主体になることも可能です。
今後とも、投資方針や投資ホライズンなどの異なる多様な投資家がJ-REIT市場に参入し、投資家層の厚みが増すことで、市場の価格発見機能や安定性が一層高まることに期待しています。
1 マイナス金利政策発表の前日(1/28)から5/27までの上昇率
2 ただし、外国籍の通貨選択型J-REIT投信を含む
3 「ゆうちょ銀行は金融庁の認可を前提にREITにも投資」(日本経済新聞、2016年4月22日)
4 2015年以降、「正ののれん」を計上する3件の合併が発表された
ところで、海外資金の流入によるJ-REIT市場の上昇と言えば、前回の「不動産ミニバブル」が想起されます。06年12月から07年5月に「海外投資家部門」はJ-REITを4,452億円買越し、東証REIT指数は42%上昇しました。しかし、その後は下落に転じリーマン・ショックを経て、東証REIT指数はピーク時の約1/4へと暴落します。
今回、海外投資家の買いに対してJ-REITの最大投資家である個人(投資信託経由)が売り向かうことで、ファンダメンタルズから乖離した一方向の価格高騰は回避されました。また、J-REIT市場における投資家層の偏りは依然課題ですが、その裾野は着実に広がりを見せています。日本銀行は金融緩和の一環として年間900億円の取得方針を掲げ、GPIFなど長期の年金資金も流入し始めています。さらに大口機関投資家の新規参入が予定されるほか3、制度改正によって自己投資口取得や他社REITとの合併4などJ-REIT自らが購入主体になることも可能です。
今後とも、投資方針や投資ホライズンなどの異なる多様な投資家がJ-REIT市場に参入し、投資家層の厚みが増すことで、市場の価格発見機能や安定性が一層高まることに期待しています。
1 マイナス金利政策発表の前日(1/28)から5/27までの上昇率
2 ただし、外国籍の通貨選択型J-REIT投信を含む
3 「ゆうちょ銀行は金融庁の認可を前提にREITにも投資」(日本経済新聞、2016年4月22日)
4 2015年以降、「正ののれん」を計上する3件の合併が発表された
(2016年05月31日「研究員の眼」)
このレポートの関連カテゴリ

03-3512-1858
経歴
- 【職歴】
1993年 日本生命保険相互会社入社
2005年 ニッセイ基礎研究所
2019年4月より現職
【加入団体等】
・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター
・日本証券アナリスト協会検定会員
岩佐 浩人のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/03/21 | J-REIT市場の動向と収益見通し。財務負担増加が内部成長を上回り、今後5年間で▲7%減益を見込む~シナリオ別のレンジは「▲20%~+10%」となる見通し~ | 岩佐 浩人 | 基礎研レポート |
2025/02/07 | Jリート市場回復の処方箋 | 岩佐 浩人 | 基礎研マンスリー |
2025/01/24 | Jリート市場回復の処方箋 | 岩佐 浩人 | 研究員の眼 |
2024/12/04 | Jリートの不動産運用で問われる「インフレ対応力」 | 岩佐 浩人 | ニッセイ年金ストラテジー |
新着記事
-
2025年05月01日
ユーロ圏GDP(2025年1-3月期)-前期比0.4%に加速 -
2025年04月30日
2025年1-3月期の実質GDP~前期比▲0.2%(年率▲0.9%)を予測~ -
2025年04月30日
「スター・ウォーズ」ファン同士をつなぐ“SWAG”とは-今日もまたエンタメの話でも。(第5話) -
2025年04月30日
米中摩擦に対し、持久戦に備える中国-トランプ関税の打撃に耐えるため、多方面にわたり対策を強化 -
2025年04月30日
米国個人年金販売額は2024年も過去最高を更新-トランプ関税政策で今後の動向は不透明に-
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2025年04月02日
News Release
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
【マイナス金利後に変化したJ-REIT市場の資金フロー~多様な投資家の参入が市場の安定を育む】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
マイナス金利後に変化したJ-REIT市場の資金フロー~多様な投資家の参入が市場の安定を育むのレポート Topへ