コラム
2016年05月31日

AI(人工知能)とBI(ベーシック・インカム)-「仕事を奪われる」のか、「仕事から解放される」のか?

社会研究部 主任研究員   土堤内 昭雄

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先日、政府は名目GDP600兆円に向けた成長戦略「日本再興戦略2016」(案)を公表した。その中で、人工知能(AI)やロボットの活用による「生産性革命」をひとつの課題に掲げ、第4次産業革命の実現に伴う新たな有望成長分野の創出を打ち出している。具体策の例として、東京五輪・パラリンピックが開催される2020年には無人自動走行による移動サービスや高速道路での自動走行が可能となるよう、2017年までに必要な実証を可能とする制度やインフラ面の環境整備を行うとしている。

先週の本欄では、人口減少時代の経済成長のためには、人工知能やロボットによる労働の代替化は不可欠だが、それらが知的分野を含む社会の広い範囲におよぶと、多くの人の雇用や所得が奪われるのではないかと述べた。同戦略にも、『技術や産業の変化にあわせて、人材育成や労働市場、働き方を積極的に変革していかなければ、雇用機会は失われ、雇用所得は減少し、中間層が崩壊して二極化が極端に進んでしまう』と書かれている。

これまで、生産性の低い分野が労働市場から駆逐された場合、雇用者は職業訓練等を通じてスキルアップを図った。また、付加価値の高い職業に就くために高等教育を受けてきた。しかし、人工知能やビッグデータを活用したロボットが代替する労働は、単にルーチン的な仕事や身体的な補助業務に留まらない。高等教育や一定の創造力を必要とする職業も人工知能に替わられる可能性があるのだ。労働人材の流動化には、従来の職業教育や高等教育の提供だけでは対応が難しいのではないだろうか。

最近の人工知能は、グーグルの「アルファ碁」がプロ棋士に勝ったり、本格的な小説を創作したりと、人間本来の創造的領域まで踏み込んできている。その結果、これまで人間以外には困難と考えられてきた既存の多くの仕事がAIやロボットに奪われるかもしれない。今後は、働く意欲や能力を有していても、労働市場で仕事に就けずに所得を得られない中間層が現れるだろう。その時、中間層の崩壊を防ぐためには、どのようにして日常生活に必要な所得を確保したらよいのだろう。

ひとつは最低所得保障(BI:ベーシック・インカム)の導入が考えられる。AIが生み出す経済価値をBIとして全ての国民に再配分し、経済成長に重要な分厚い中間層の個人消費の底上げを図るのだ。その結果、人間は「仕事を奪われる」のか、「仕事から解放される」のか、どうなるのだろう。AI(人工知能)による仕事の代替とBI(ベーシック・インカム)による所得保障は、従来の労働観を根底から揺さぶり、『人間は何のために働くのか?』という根源的な問いを投げかけることになるかもしれない。
 
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社会研究部   主任研究員

土堤内 昭雄 (どてうち あきお)

研究・専門分野
少子高齢化・家族、市民社会・NPO、都市・地域計画

(2016年05月31日「研究員の眼」)

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