2016年05月17日

【アジア・新興国】韓国における生命保険市場の現状 - 2015年のデータを中心に -

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中

文字サイズ

■要旨
  • 2015年における生命保険の世帯加入率は87.2%で、2014年の85.8%に比べて1.4%ポイント増加した。一方、世帯加入件数は3.5件で2013年の4.0件に比べて0.5件減少している。
     
  • 生命保険の商品別世帯加入率は、疾病治療重点保障保険が78.7%で最も高く、次が終身保険(34.6%)、年金保険(23.8%)、致命的疾病保険(12.3%)、貯蓄性保険(13.6%)、変額保険(5.3%)、教育保険(4.2%)の順であった。
     
  • 2015年第3四半期における生命保険会社の保険料収入総額は、前年同期の25.6兆ウォンから1.6兆ウォン(6.3%増)増加した27.2兆ウォンになった。保険料収入総額で個人保険が占める割合は94.1%(25.6兆ウォン)で、団体保険の5.9%(1.6兆ウォン)を大きく上回った。
     
  • 保険料収入を基準とした市場シェアは、大手3社(サムソン生命、ハンファ生命、教保生命)の割合が年々減少傾向にあるのが目立つ。2000年には79.9%であった大手3社の市場シェアは、2015年第3四半期には45.9%まで減少している。
     
  • 市場への特定企業の集中度を表すハーフィンダール・ハーシュマン・指数は、2010年0.2471から2015年第3四半期には0.1020まで大きく減少した。
     
  • 2015年第3四半期の韓国の生命保険会社の資産総額は707兆ウォン(対前年同期比10.4%増)で、運用資産の利回りは4.18%(対前年同期比0.29%ポイント減)に達している。
     
  • 韓国の生命保険会社は低成長時代に合わせた商品の開発やマーケティング戦略の確立のための取り組みを強化する必要がある。
     
  • 韓国の生命保険業界における一つ明るいニュースは、2016年から従業員数300人以上事業所に60歳定年制や退職年金への加入が義務化されることである。

■目次

1――はじめに1
2――加入状況
3――収支の概況
4――市場シェアの推移
5――資産運用
6――おわりに
 
1 本稿の内容は、金明中(2015)「韓国における生命保険市場の現状や今後のあり方」を修正、補完したものである。

1――はじめに

1――はじめに

韓国では少子・高齢化の急速な進展に伴い、社会保障に対する韓国政府の支出が継続的に増加している。そこで、社会的リスクに対する政府の公的制度と共に、自助努力としての民間保険の必要性に対する認識がますます広がっている。韓国の高齢化率は2014年現在12.7%でまだ日本より低い水準であるが、その進行速度は日本より速い2。2060年には高齢化率が39.9%に到達し、日本の高齢化率と変わらなくなることが予想されている。韓国政府としては、老後所得保障の2階部分として生命保険を含む民間保険の活性化を望んでいるが、最近の景気低迷などにより、とくに若年層の生命保険離れが進んでいる。

本稿では、韓国の保険研究院が毎年実施している「保険消費者アンケート調査」や、韓国生命保険協会の「2015年生命保険FACT BOOK」等を用いて韓国における生命保険市場の現状について紹介したい3
 
2 韓国の高齢化率に関しては、金明中(2015)「日韓比較(3):高齢化率 ―2060年における日韓の高齢化率は両国共に39.9%―」が詳しい。
2016年4月末現在、韓国において営業活動をしている生命保険会社は総25社である。

2――加入状況

2――加入状況

韓国保険研究院が2015に実施したアンケート調査4の結果によると、2015年における生命保険の世帯加入率は87.2%で、2014年の85.8%に比べて1.4%ポイント増加した。一方、世帯加入件数は3.5件で2013年の4.0件に比べて0.5件減少している。生命保険の加入率は2014年に6年ぶりに増加してから2年連続の増加となった(図表1)。
図表1 韓国における生命保険の世帯加入率や世帯加入件数の動向
生命保険の商品別世帯加入率は、疾病治療重点保障保険5が78.7%で最も高く、次が終身保険(34.6%)、年金保険(23.8%)、致命的疾病保険6(12.3%)、貯蓄性保険(13.6%)、変額保険(5.3%)、教育保険(4.2%)の順であった(図表2)。

疾病治療重点保障保険の加入率が高い理由としては、早いスピードで高齢化が進展していることや公的医療保険の自己負担率7が高いことが挙げられる。つまり、年齢が上昇するとともに病気にかかる確率も高くなり、一度病気にかかると治療期間も長期化していくが、公的医療保障制度である「国民健康保険」の重大疾病に対する保障性が低いために、人々が疾病治療重点保障保険への加入を高めたと考えられる。

一方、生命保険の個人加入率は2015年の79.3%から2014年には78.9%に減少した。2015年の既婚者の加入率(82.4%)や加入件数(1.7件)はそれぞれ、未婚者の加入率(65.0%)や加入件数(1.0件)を上回った。2014年調査と比べて、既婚者の加入率は増加したものの、加入件数は減少した。未婚者の場合は、加入率、加入件数ともに減少している。また、既婚者の中では子どものいる世帯の加入率が子どものいない世帯のそれより高く表れた(図表3)。
図表2 生命保険の商品別世帯加入率の推移/図表3 韓国における生命保険の個人加入率や個人加入件数の動向(婚姻状態や子どもの数別)
男女別の個人加入率は、女性(83.5%)が男性(74.2%)より高く、所得階層別には高所得層(82.5%)が中所得層(78.6%)や低所得層(71.1%)より加入率が高かった。但し、2012年以降、高所得層や中所得層の加入率が増加と減少を繰り返していることに比べて、低所得層のそれは継続的に増加傾向であった8

年代別の個人加入率は、40代(86.3%)が最も高く、次は50代(82.2%)、30代(80.0%)、60代以上(76.6%)の順であった。一方、20代の加入率は2014年の69.3%から67.2%に2.1%ポイントも減少し、全年代の加入率78.9%とは大きな差がある低水準となっている。

学歴別の個人加入率は、学歴が高いほど、加入率や加入件数が高いという結果が見られた。例えば、中卒以下の個人の加入率や加入件数はそれぞれ75.2%、1.2件で、高卒の76.2%、1.5件と大学在学以上の82.3%、1.7件より低かった。
 
4 韓国保険研究院(2015)「保険消費者アンケート調査」、調査対象:全国(済州道を除く)の満20歳以上の男女1,200人、 調査期間:2015年5月18日~2015年6月17日。
5 癌、過労死関連特定疾病、脳血管疾病、心臓疾患、糖尿病、女性慢性疾患、婦人科疾患などのような疾病の発病および治療にかかる医療費や生活費を保障する保険。
6 被保険者が致命的疾病(Critical Illness)にかかった時、死亡保険金の一部を生活費として支給する保険。被保険者や家族は、受領した一部の保険金を被保険者が亡くなる前の高額の治療費、生活費、看病費などとして使い、被保険者が亡くなると残った死亡保険金は遺族に支給される。
7 韓国における公的医療保険の自己負担率に関しては、金明中(2015)「日韓比較(8):医療保険制度-その3 自己負担割合―国の財政健全性を優先すべきなのか、家計の経済的負担を最小化すべきなのか―」が詳しい。
8 2012年62.5%、2013年67.5%、2014年68.7%、2015年71.1%。
Xでシェアする Facebookでシェアする

生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
    独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職

    ・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
    ・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
    ・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
    ・2021年~ 専修大学非常勤講師
    ・2021年~ 日本大学非常勤講師
    ・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
    ・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
    ・2024年~ 関東学院大学非常勤講師

    ・2019年  労働政策研究会議準備委員会準備委員
           東アジア経済経営学会理事
    ・2021年  第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員

    【加入団体等】
    ・日本経済学会
    ・日本労務学会
    ・社会政策学会
    ・日本労使関係研究協会
    ・東アジア経済経営学会
    ・現代韓国朝鮮学会
    ・韓国人事管理学会
    ・博士(慶應義塾大学、商学)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【【アジア・新興国】韓国における生命保険市場の現状 - 2015年のデータを中心に -】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

【アジア・新興国】韓国における生命保険市場の現状 - 2015年のデータを中心に -のレポート Topへ