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日韓比較(8):医療保険制度-その3 自己負担割合―国の財政健全性を優先すべきなのか、家計の経済的負担を最小化すべきなのか―

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中
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さらに、日本には高額療養費制度という仕組みもある。高額療養費制度とは、同一月(1日から月末まで)に医療機関や薬局の窓口で支払った医療費の自己負担額が一定額を超えた場合に、その超えた金額を支給する制度である。高額療養費制度は、家計に対する医療費の自己負担が過重なものとならないよう、医療費の自己負担に一定の歯止めを設ける仕組みであり、最終的な自己負担額となる毎月の「負担の上限額」は、加入者が70歳以上かどうかや、加入者の所得水準によって分けられる2。
2015年1月からは、負担能力に応じた負担(応能負担)とする観点から、70歳未満の方の所得区分を細分化し、自己負担限度額をきめ細かく設定する見直しが行われた。70歳未満高齢者の改正前後の所得階層別自己負担限度額と70歳以上の自己負担限度額の詳細は表1と表2の通りである。
韓国より高齢化が進んでいる日本では自己負担割合に年齢を反映するとともに所得が少ない層の経済的負担を軽くする政策を実施している。一方、韓国でも高齢者や児童に対して自己負担割合の減額措置を実施しているものの、日本に比べて減額水準が低く、制度の基本的な仕組みとしては所得を基準(特に、高額医療費の自己負担上限額)に自己負担割合を適用しているものとなっている。昨今、日本でも健康保険の自己負担比率を含めて一定所得以上の高齢者の負担を増やそうとする動きが続いていることを考慮すると、日本の政策プランナーにおいて韓国の制度を比較対象として検討することは意義あることであるだろう。
最近、韓国における大きな変化は日本の高額療養費制度と類似の「本人負担上限制」を2013年から実施していることである。韓国の本人負担上限制は、日本の高額療養費制度のように年齢による区分がない変わりに、所得基準をより細分化している。今後韓国の少子高齢化が日本以上に進むことを考えると、日本の制度を参考して、本人負担上限制に年齢基準を反映することも議論する必要がある。
公的医療保険の実施において国の財政健全性を優先すべきなのか、家計の経済的負担を最小化すべきなのか、今後も議論が続くだろう。
1 対象年齢は自治体ごとに異なる。
2 厚生労働省のホームページから引用。
3 日本のように年齢による区分はなく、保険料額によって所得水準を7段階に区分している。
(2015年10月06日「研究員の眼」)
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生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任
金 明中 (きむ みょんじゅん)
研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計
03-3512-1825
- プロフィール
【職歴】
独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職
・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
・2021年~ 専修大学非常勤講師
・2021年~ 日本大学非常勤講師
・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
・2024年~ 関東学院大学非常勤講師
・2019年 労働政策研究会議準備委員会準備委員
東アジア経済経営学会理事
・2021年 第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員
【加入団体等】
・日本経済学会
・日本労務学会
・社会政策学会
・日本労使関係研究協会
・東アジア経済経営学会
・現代韓国朝鮮学会
・韓国人事管理学会
・博士(慶應義塾大学、商学)
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