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社員のセカンドキャリア徹底支援!「健康経営」があなたの会社を強くする-ジェロントロジーからの提案
基礎研REPORT(冊子版) 2016年5月号
生活研究部 上席研究員・ジェロントロジー推進室兼任 前田 展弘
1―― 注目が集まる「健康経営」
2――現役世代と高齢者の健康~50代の将来不安の高まり
何かといえば、将来に対する「不安」である。不安が多いことは“精神的”な健康を悪化させる。不安がない(少ない)こと、将来に希望を見出せることが、精神的に望ましく健康にも良いと考えることは異論のないところであろう。
しかしながら、多くの従業員は将来不安を抱えている。特に顕著なのが50代である。内閣府が毎年実施する「国民生活に関する世論調査」の結果を見ると[図表2]、「現在の生活に対する満足度」は50代が最も低く、「日常生活での悩みや不安を抱いている人の割合」も50代が最も高い。その悩みや不安の原因で最も多いのが「老後の生活設計」、つまり「将来に対する不安」である。一般的な社会調査の結果であり、企業に勤めている従業員の状況としてそのまま当てはまるかどうかは検証が必要ではあるが、退職時期が現実的に近づいてくるなか、老後生活に対する不安が高まることはむしろ従業員に限った場合のほうが顕著と推察する。さらに近年では役職定年の早期化の動きも見られ、当該層のモラルダウンが起きていることもよく見聞きする。健康経営として、特定の年代に焦点を当てることが適切かどうかは検討を要するが、仕事も熟練し、脂の乗り切った当該層の多くが、将来不安を抱えながら仕事を続けているであろう事実は、健康経営としても見過ごせないことと考える。
3――退職後を見据えた新たな健康経営の取組視点
1|リタイアメント研修の見直し
一つは、セカンドキャリアの“開発”に重きを置いた「リタイアメント研修」の充実である。大企業を中心に多くの企業は50代前後の従業員を対象に、退職前研修あるいはライフプラン研修といった名称のもと、退職後を見据えた研修が行われている。しかし、多くの退職者や中高年の方々からは、「企業で行われた研修は、年金や社会保険の話が中心で、実際のセカンドライフづくりには参考にならなかった」といった声をよく聞く。図表3は、過去10年間(2001~2010年度)における110団体(民間56・官公庁54)の事例について、「プログラムのテーマとその採用率(研修のテーマとして採用された割合)」を集計したものになるが、確かにそうした声がうなずける。採用率の上位をみると、経済(お金)、健康、年金・退職金、諸制度説明、社会保障制度が並んでいる。これらのことも重要ではあるが、実際のセカンドキャリアにつながるような話は少ない。まだまだ活躍できるし、長い老後生活を新たなキャリアで支えたいと考える人は少なくない。そうしたニーズに応えるには、例えば、起業の方法をレクチャーし支援する、農業や福祉などこれまでとは違うキャリアづくりの可能性を示した上で実際に指南する、海外での活躍の可能性を示し支援する、さらにきめ細かな取り組みを考えれば、従業員個々の自宅のある地域の求人情報や高齢者の活躍機会に関する情報を提供するといったことが考えられないだろうか。
2|退職従業員に対する働きかけ
もう一つは、退職した従業員に対する取り組みの充実である。退職した後もアクティブに活動し続けられることを現役時代から展望できることが、現役層にもポジティブな影響をもたらすと考えるものである。
多くの企業は自社の退職者組織・団体があり、その中での退職者同士の交流が行われている。多くは交流会、懇親会が継続的に行われているくらいであろう。自社の価値観や文化を共有した退職者は自社の最も近い応援団であることに違いはなく、そうした退職者を交流会だけでのつながりに止めておくことは企業にとって非常にもったいない。高齢化の進展とともに、今後ますます活動できる退職者は増えていく。経営として退職者という貴重な資源を有効活用する観点からも、退職者との関わりを再考すべきときが来ているように考える。例えば、高齢者向けの商品サービスの開発を行うのであれば、退職者はモニターとして協力してもらえるだろうし、営業が必要なときには率先して自社の商品サービスをPRしてもらえるに違いない。このように退職後も新たな役割が期待されることは、退職者にとってはセカンドライフの充実につながる。現役層にとっても退職後をポジティブに展望できるようになるであろう。現役層のためにも、退職者を活かす新たな仕掛けを考案し展開していくことも健康経営として重要なことと考える。
4――セカンドキャリアの開発支援を健康経営に
経営にとって、退職後のことは関係ない、何かすれば世の中から「肩たたき」として批判されると考えられていたかもしれないが、従業員のセカンドキャリアの「開発」を経営が支援することを否定する従業員はいないであろうし、世の中からみても“従業員に優しい企業”として逆に称賛されるに違いない。新たな健康経営の取組視点として一考いただければ幸いである。
生活研究部 上席研究員・ジェロントロジー推進室兼任
前田 展弘 (まえだ のぶひろ)
研究・専門分野
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)、超高齢社会・市場、QOL(Quality of Life)、ライフデザイン
03-3512-1878
- 2004年 :ニッセイ基礎研究所入社
2006~2008年度 :東京大学ジェロントロジー寄付研究部門 協力研究員
2009年度~ :東京大学高齢社会総合研究機構 客員研究員
(2022年度~ :東京大学未来ビジョン研究センター・客員研究員)
2021年度~ :慶応義塾大学ファイナンシャル・ジェロントロジー研究センター・訪問研究員
内閣官房「一億総活躍社会(意見交換会)」招聘(2015年度)
財務省財務総合政策研究所「高齢社会における選択と集中に関する研究会」委員(2013年度)、「企業の投資戦略に関する研究会」招聘(2016年度)
東京都「東京のグランドデザイン検討委員会」招聘(2015年度)
神奈川県「かながわ人生100歳時代ネットワーク/生涯現役マルチライフ推進プロジェクト」代表(2017年度~)
生協総研「2050研究会(2050年未来社会構想)」委員(2013-14、16-18年度)
全労済協会「2025年の生活保障と日本社会の構想研究会」委員(2014-15年度)
一般社団法人未来社会共創センター 理事(全体事業統括担当、2020年度~)
一般社団法人定年後研究所 理事(2018-19年度)
【資格】 高齢社会エキスパート(総合)※特別認定者、MBA 他
(2016年05月11日「基礎研マンスリー」)
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