2016年03月08日

欧米生保市場定点観測(毎月第二火曜日発行)超高齢者死亡率の推定-超高齢では、年齢とともに死亡率は上昇するのか?

保険研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター兼任   篠原 拓也

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■要旨

保険や、年金の数理計算において、死亡率は、不可欠の要素である。死亡率に関する研究は、人口学者、アクチュアリー等の間で広く行われている。
一般に、平均寿命が伸びると、年金の受給者や、医療・介護のサービスを受ける人が増える。これは、公的保険制度の保険者や、保険会社にとって、重大なリスクとなる。欧米では、このリスクへの対応に向けて、死亡率の研究が、進められている。
このうち、イギリスでは、アクチュアリー会が、高齢者死亡率の報告書を公表した。この報告書は、日本においても、参考になるものと考えられる。本稿では、その内容をもとに、今後、注目すべき高齢者死亡率を見ていくこととしたい。


■目次

1――はじめに
2――高齢者死亡率が注目される理由
  1|社会保障制度の設計において、高齢者人口想定のベースとなる
  2|保険会社等が、企業年金や生命保険等を提供する上で、数理計算の前提となる
  3|介護事業者等が、事業計画を立案する際に、参考となる
  4|金融商品の販売者が、年金資産等の運用商品を開発するにあたり、参考となる
  5|保険会社等が、長寿リスクを金融市場で取引する際に、取引の基準となる
  (参考) 先進諸国の高齢化の現状と見通し
3――高齢者死亡率を把握する際の留意点
  1|データの量が乏しく、不安定となるため、補整が必要となる
  2|住民登録等の行政管理の正確性が乏しく、安定性が低下することがある
  3|健康良好者の影響が出やすい
  4|超高齢期には、死因が3大疾病から肺炎や老衰へと変化する
4――高齢者死亡率の推定方法
  1|多くの種類の中から、死亡率の推定に用いる関数を定める
  2|回帰分析法と補外法の2つの方法により、係数を定める
5――高齢者死亡率の推定に伴う論点
  1|超高齢では、死亡率は上昇し続けるのか ?
  2|超高齢では、健康状態や社会的要因によらず、死亡率は1つに収れんしていくのか ?
6――おわりに (私見)

1――はじめに

1――はじめに

生命保険、医療保険や、年金の数理計算において、死亡率は、不可欠の要素である。死亡率に関する研究は、人口学者、アクチュアリー等の間で広く行われている。第2次大戦後、先進国を中心に、死亡率は低下し、平均寿命の延伸、即ち長寿化が見られる。その先頭に立っているのが、日本である。
一般に、平均寿命が伸びると、年金の受給者や、医療・介護のサービスを受ける人が増える。これは、公的保険制度の保険者や、保険会社にとって、重大なリスクとなる。このリスクは、生存リスクもしくは、長寿リスク(longevity risk)と呼ばれている。特に、欧米諸国の生保会社では、年金が主要商品として取り扱われているため、長寿リスクへの対応に向けて、死亡率の研究が、精力的に進められている。老年医学では、超高齢者とされる85歳以上の人1の死亡率への関心が、高まりつつある。
このうち、イギリスでは、2015年10月に、アクチュアリー会の高齢者死亡率作業部会が、次の報告書(以下、本稿では、単に、「報告書」と呼称。) を公表した。
“Initial report on the features of high age mortality”Continuous Mortality Investigation High Age Mortality Working Party (Working Paper 85, Oct. 2015)
この報告書は、高齢者の死亡率に焦点を当てて、調査・研究の動向や、それに基づく論点の抽出を含んでいる。特に、その推定に関して、示唆に富んでおり、日本においても、参考になるものと考えられる。本稿では、その内容をもとに、今後、注目すべき高齢者死亡率を見ていくこととしたい。
 
1 これに対し、65~74歳を前期高齢者、75~84歳を後期高齢者と区分けすることが多い。
 

2――高齢者死亡率が注目される理由

2――高齢者死亡率が注目される理由

そもそも、なぜ高齢者死亡率が注目されるのか。そこには、いくつかの理由がある。

1社会保障制度の設計において、高齢者人口想定のベースとなる
代表的な社会保障制度として、公的年金制度や公的医療保険制度などがある。これらの制度設計では、将来の給付と、そのための財源の手当て(保険料、税金等)をバランスさせることが必要である。また、加入者間で、給付や費用負担について、公平性を保つ必要もある。そのために、高齢者死亡率を用いて、給付対象の高齢者人口の推移を想定することが欠かせない。

2保険会社等が、企業年金や生命保険等を提供する上で、数理計算の前提となる
保険会社等が企業年金制度を設計したり、生命保険・医療保険等を開発する上で、死亡率は欠かせない。特に、終身年金や、終身に渡る死亡保障・医療保障を行う上では、高齢者死亡率は、保険料や各種準備金等の数理計算に、必須となる。

3介護事業者等が、事業計画を立案する際に、参考となる
介護事業者等は、事業計画の立案にあたり、対象地域の高齢者人口を見積もり、介護需要を想定する必要がある。高齢者死亡率は、高齢者の人口動態を見積もる際の大切な要素であり、サービス体制(事業拠点・人員等)や、業務の財務健全性を見る上で、不可欠となる。

4金融商品の販売者が、年金資産等の運用商品を開発するにあたり、参考となる
金融商品の販売者は、年金資産等の運用のために、投資信託等の運用商品を開発し、販売している。運用商品の需要者である高齢者の人口を見積もる際、高齢者死亡率が参考になる。

5保険会社等が、長寿リスクを金融市場で取引する際に、取引の基準となる
保険会社等は、長寿リスクに備えて、取り扱っている保険等に対応して、長寿リスクの分散や移転を行っている。そこで用いられる、長寿リスクの再保険、スワップ取引等の価格設定や、リスク管理にあたり、高齢者死亡率が基準となる。
 
(参考) 先進諸国の高齢化の現状と見通し
日本の高齢化率(総人口に占める65歳以上の人口の割合)は、2014年に26.0%と高い水準にある。2060年には39.9%まで上昇する見通しとなっている2。先進諸国も、日本ほどではないものの、高齢化率の上昇が見通される。高齢化率が7%以上の社会は「高齢化社会」、そのうち14%超の社会は「高齢社会」と呼ばれ、高齢化社会になってから高齢社会に達するまでの年数は「倍化年数」と呼ばれる。日本は倍化年数が24年と短い。日本は、欧米諸国よりも、急速に高齢化が進みつつある。
 
図表1-1. 高齢化率の推移/図表1-2. 倍化年数の比較
 
2 高齢化率の2014年の数値は、「人口推計」(総務省)による。2060年の数値は、「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)」(国立社会保障・人口問題研究所)の出生中位・死亡中位仮定による。
 

3――高齢者死亡率を把握する際の留意点

3――高齢者死亡率を把握する際の留意点

高齢者死亡率には、その把握を行う際に、いくつか留意すべき点がある。

1データの量が乏しく、不安定となるため、補整が必要となる
高齢者は、生存者数が少なく、実績から取得できる死亡率の安定性が低い。男女別・年齢別に、高齢者死亡率を設定する場合、性別・年齢で区分すると、各区分の規模は小さくなる。年齢によっては、データ自体が存在しないこともあり、死亡率が不安定となりやすい。このため、実績データをそのまま使用することは、適切とは言えず、何らかの補整が必要となる。

2住民登録等の行政管理の正確性が乏しく、安定性が低下することがある
海外では、国によっては、人口動態の捕捉について、住民登録等の行政管理に疎漏があり、誕生日等のデータの正確性に疑問が生じる場合がある。また、死亡届の記載内容が誤っていたり、届出が遅れたり、ひどい場合には届出自体が行われなかったりするケースがある。特に、超高齢者の場合、届出の遅延が、死亡率の安定性の低下につながりやすい。

3健康良好者の影響が出やすい
当たり前のことだが、高齢者は、高齢まで生存した人である。即ち、高齢者集団からは、病弱のために早世した人が除かれている。従って、健康状態の良好な人が多く残存しているものと言える。例えば、女性の場合、乳がんにかかりやすい年齢のピークは、40~50歳代であり、女性の高齢者は、その年齢を乗り越えた人と言える。特に、超高齢者になると、その傾向が顕著になる。

4超高齢期には、死因が3大疾病から肺炎や老衰へと変化する
日本で、年齢層別に死因を見ると、70歳代までは、悪性新生物、心疾患、脳血管疾患のいわゆる3大疾病が上位を占めている。しかし、80歳代では、脳血管疾患に代わり、肺炎が死因の第3位となる。90歳代前半では、心疾患が死因の第1位となる。そして、それ以降は、老衰、心疾患、肺炎の順となる3。即ち、超高齢者では、主要な死因が変化する。このことが、死亡率に影響を与える可能性がある。
このように、一般に、高齢者の死亡率は不安定と言える。一例として、公的統計をもとに試算したところ、次の図表のとおり、超高齢者の死亡率は不安定となった。死亡率を、1つの方法だけで設定することは難しい。多様な考え方に基づいて、試行錯誤を重ねつつ、設定していくべきであろう。
 
図表2-1. 男性死亡率 (人口1000人あたり)/図表2-2. 女性死亡率 (人口1000人あたり)
 
3 死因順位は、「平成26年人口動態統計月報年計(概要)」(厚生労働省)による。
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保険研究部   主任研究員・年金総合リサーチセンター兼任

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品、保険計理

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