2016年03月02日

【アジア新興経済レビュー】輸出不振は継続、内需も政策要因の剥落で変調の動き

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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1.生産活動 (韓国、台湾、タイ:1月、その他の国:12月)

(図表1)生産指数 アジア新興国・地域の生産指数の伸び率(前年同月比)は、輸出の低迷に加え、内需も政策要因剥落の影響で変調の動きがあり、低下傾向が強まった(図表1)。
フィリピンは前年同月比4.9%増と、主力の電気機械をはじめ非金属鉱物製品や機械・設備など9業種が二桁増を記録し、2ヵ月連続で上昇した。マレーシアは同2.7%増と、鉱業が不調であったものの、リンギ安による価格競争力の向上を受けて電気・電子製品をはじめとする輸出型製造業が堅調で前月から上昇した。
一方、韓国とタイは輸出不振に加えて昨年末の駆け込み需要からの反動が生じた自動車の生産が減少し、それぞれマイナスとなった。また台湾は同5.7%減と、内外の需要低迷や国際競争の激化を受けた電子部品や機械設備を中心に減少した。さらにインドは前年同月比1.3%減と、全体の8割弱を占める製造業の減少を受けて2期連続のマイナスとなった。

2.貿易 (韓国、台湾、タイ、インドネシア、インド:1月、その他の国:12月)

(図表2)輸出/(図表3)輸入 輸出(通関ベース)の伸び率(前年同月比)は、資源価格の下落や世界的な需要の減退による下押し圧力が掛かり、二桁マイナスが続く国・地域が多い(図表2)。
フィリピンは、主力の電子製品の好調が一次産品やその他製造品のマイナスを下支えしていることから本稿対象の7カ国・地域中で最もマイナス幅が小さい状況が続いている。
一方、韓国は主力の通信機器や半導体、自動車、鉄鋼などが軒並み減少し、3ヵ月・6ヵ月平均を下回った。またマレーシアは通貨安の恩恵で電気・電子製品が堅調を維持したものの、一次産品を中心に輸出が落ち込んだ。さらにインドネシアは価格下落の大きい石油・ガス製品の輸出を中心に低下し、9ヵ月連続の二桁マイナスを記録した。
 
輸入の伸び率(前年同月比)は、資源価格の下落と世界需要の鈍化による加工貿易の縮小を受けて大幅マイナスが続いているものの、景気刺激策や公共投資の執行加速による内需の持ち直しから輸出ほど低下傾向は見られなかった(図表3)。
フィリピンは同25.8%減と7ヵ月ぶりのマイナスに転じた。投資需要が旺盛な資本財は好調を維持したものの、消費財や原材料・半製品が大幅に減少したことが主因となった。これまで堅調を維持してきた内需が今後鈍化する可能性があり、今後の国内経済の動向は注意してみる必要がありそうだ。インドは国内経済の回復を背景に石油製品やその他コモディティの輸入がプラスに転じるなど、マイナス幅は縮小傾向にある。

3.自動車販売 (1月)

(図表4)新車販売台数 18月の自動車販売台数の伸び率(前年同月比)を見ると、フィリピンを除く国・地域が前月か低下し、昨年後半の政策要因の剥落で持ち直しの動きに変調が見られる(図表4)。
フィリピンは前年同月比27.6%増と、6ヵ月連続で+20%台を記録し、引き続きモータリゼーションの進行が続いている。またインドは同+3.7%と、堅調な景気に支えられて底堅い推移を示したが、2月末に発表された2016-17年度政府予算案で発表された自動車販売に掛かるインフラ税の導入が今後の重石となりそうだ。
一方、韓国は同4.7%増と、自動車に掛かる個別消費税の引下げ終了1により、11ヵ月ぶりのマイナスまで低下した。マレーシアは同11.9%減と、リンギ安を背景とする1月からの値上げ前に駆け込み需要が生じていた反動で大きく低下した。タイは同13.2%減と、自動車の物品税の見直し前の駆け込み需要の反動で4ヵ月ぶりの二桁減となった。インドネシアは同9.9%減と低下したものの、足元の景気は持ち直しつつあり、2ヵ月連続の利下げも追い風に今後上向く可能性はあるだろう。
 
1 政府は昨年8月に消費刺激策として、同月27日から年末までの期間限定で乗用車や大型家電製品に課される個別消費税を引き下げることを決めた。乗用車の個別消費税は従来の5%から3.5%に引き下げられた。今年2月には、景気浮揚策として昨年末に終了した自動車の個別消費税の引下げの6月までの延長が決まった。

4.消費者物価指数 (1月)

(図表5)消費者物価指数 1月の消費者物価上昇率(前年同月比、以下CPI上昇率)は、14年末の原油価格下落による物価下押し圧力が後退し、緩やかな上昇傾向にある(図表5)。
インドは前年同月比5.7%増と、豆類をはじめ香辛料、油・油脂といった食品価格を中心に5ヵ月連続の上昇となった。インドネシアは同4.1%増と、14年の補助金付き燃料価格値上げの上昇要因が剥落した前月から再び上昇に転じた。またマレーシアは同3.5%増と、昨年4月の物品サービス税(GST)による上昇要因が残存しているほか、原油安の一巡による下押し要因の剥落が影響して5ヵ月ぶりの3%台まで上昇した。
一方、韓国は昨年1月のたばこの大幅値上げによる物価上昇圧力が剥落して前月から低下した。またタイは前月から上昇したものの、国内ガソリン価格の値下げが響いて本稿対象7カ国中で唯一伸び率がマイナスとなっている。

5.金融政策 (2月)

(図表6)アジア新興国・地域の政策金利の状況 2月は韓国、タイ、インドネシア、フィリピン、インドの中央銀行で金融政策会合が開かれた。政策金利はインドネシアが引下げ、その他の会合では据え置きとなった。
インドネシアは18 日に景気浮揚に向けて2ヵ月連続の利下げに踏み切り、政策金利を0.25%引き下げて7.00%とした。インフレ率や経常収支など足元のマクロ経済環境の安定や先行きのインフレ圧力の弱さが材料視された。また預金準備率についても1.0%引き下げ、6.5%とした。
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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

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