2016年02月02日

医療の国際数量比較-日本の医療は世界一か?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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4――医療資源の比較

1日本は、医師数は少なく、看護師数は他国並みで、薬剤師数は多い
続いて、医師数を比較してみる。プライマリ・ケアの制度があるものの、その運用が緩やかなドイツやスウェーデンなどでは、医師数が多い5。一方、日本は、主要国の中では医師数が少ない。
図表8. (7)医師数 (人口千人あたり)
次に、看護師数を見てみよう。スイスやデンマークが多い。これは、医療の一部を看護師に担わせるべく、その養成に取り組んだ結果と見られる。日本は、主要国の中位に位置している6

一方、薬剤師数は、日本が多い。スイスやデンマークでは少なく、看護師数とは対照的となっている。日本では、薬剤師の調剤が、医療において重要な役割を果たしている様子がうかがえる。
図表9-1. (8)-1看護師数 (人口千人あたり)/図表9-2. (8)-2薬剤師数 (人口千人あたり)
2日本は、病院数や病床数が、他国よりも充実
続いて、病院数を見てみよう。病院数では、日本が他国を圧倒している。ドイツやフランスは、地方の医療の充実を進めた結果、比較的、病院数が多い。一方、アメリカやカナダは、病院数が少ない。
 
図表10. ⑨病院数 (人口百万人あたり)
次に、病床数を見てみる。日本は、病床数が突出して多い。多くの国で、病床数を削減して、医療費の抑制を図っている。日本は、医療施設の整備を進めて、医療を充実させてきたと言える。
 
図表11. (10)病床数 (人口千人あたり)
3日本のCTやMRIなどの設備の充実ぶりは、他国を圧倒
続いて、高度医療機器であるCTの配備数を見てみよう。その配備数で、日本は、他国を圧倒している。各国とも配備の充実により、医療の質を向上させる途上にある。
 
図表12. ⑪CT台数 (人口百万人あたり)
最後に、MRIの配備数を見てみよう。ここでも、日本の配備は、他国より進んでいる。イタリアやデンマークでは、配備数が大きく伸びている。アメリカは、日本についで、配備数が多い。
 
図表13. (12)MRI台数 (人口百万人あたり)
 
5 イギリスでは、プライマリ・ケアが確立しており、総合医の紹介がなければ、専門医や病院での受診はできない。これは、総合医のゲート・キーピング機能と呼ばれ、医療資源の効率的な使用につながっている。しかし、ドイツやスウェーデンは、この機能が弱いため、医療資源使用の効率化に、つながっていないものと見られる。
6 なお、イギリスは、看護師の定義を変更した影響により、図表上、看護師数が減少している。実際には、漸増している模様。

5――おわりに (私見)

以上の統計指標の比較から、得られた内容を振り返ると、次のとおりとなる。
(医療制度)  
クオリティー面 日本は、平均寿命や乳児死亡率が優れており、医療の質は世界トップクラス
コスト面 日本の医療費は、高齢化に伴って、主要国の中位程度まで増加
アクセス面 日本は、医療機関への受診が容易で、利用頻度が高い
(医療資源)  
医療スタッフ面 日本は、医師数は少なく、看護師数は他国並みで、薬剤師数は多い
医療施設面 日本は、病院数や病床数が、他国よりも充実
医療設備面 日本のCTやMRIなどの設備の充実ぶりは、他国を圧倒
 
これらのことから、日本の医療について、次のように、まとめることができる。
・これまで日本は、低い医療費で、質の高い医療に、容易にアクセス可能な制度を確立してきた。
・その制度は、医師数を増やす代わりに、医療施設や設備を充実させることで構築してきた。
・しかし、現在、コスト面で、日本の優位性は徐々に薄れつつある。
・今後、世界一高齢化が進む日本では、医療の更なる効率化を図ることが不可欠、と考えられる。
 
なお、医療の国際比較を行うにあたり、統計を用いて定量的に見るだけでは、不十分である。本来的には、統計とともに、医療を含めた、社会保障制度全般について、これまでの歴史・経緯や、今後の制度変更の見通し等を、あわせよむ必要があろう。引き続き、多面的な国際比較を行い、それを踏まえて、今後の日本の医療制度のあり方について、議論を重ねる必要があるものと考えられる。
 
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

(2016年02月02日「基礎研レター」)

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