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- 2050年のCO2削減目標をコミットした企業-「低炭素杯2016」の『ベスト長期目標賞』受賞企業が決定
2――業種特性を反映する “2050年脱カーボン戦略”
1|自動車業界
自動車業界におけるCO2排出量削減の長期目標設定ではニッサンとホンダが先行したが、トヨタが昨年10月に、より包括的な“脱エンジン車戦略”あるいは“脱化石燃料車戦略”とも言える2050年目標を公表した。プロダクトでは新車のCO2排出量の9割削減をめざすが、これは電気自動車(蓄電池搭載)や燃料電池自動車(水素タンク搭載)が主流となることを意味する。事業プロセスではグループ全体および製品ライフサイクルでCO2ゼロをめざす。3社とも2050年目標を達成するために、マイルストーンとして2020年頃を目途とした実践的な中期環境計画も策定・公表している。
20世紀はガソリンやディーゼルを燃やすエンジン車の世紀であった。しかし、環境問題を契機に、21世紀は電気自動車や燃料電池自動車の脱エンジン車の世紀となるだろう。これは単にCO2排出量の削減問題にとどまらず、むしろ自動車そのものの在り方、結果として自動車メーカーの生き残り戦略に直接かかわる。誰でも車が作れるという意味で「ビッグ3からスモール100へ」と言われるが、このことを踏まえて、各社とも経営トップが2050年のCO2削減目標を明確にコミットしている。
飲食品業界におけるCO2排出削減の長期目標設定については、アルコールを主体とする飲料メーカーの2社が先行する。キリンとサントリーのいずれも、2050年にバリューチェーン全体のCO2排出量を半減することをめざす(基準年は異なる)。飲食品そのものがCO2を排出する訳ではないが、素材や容器包装の調達や販売にかかわるCO2排出量を削減することをめざす。前述の企業と同様に、経営トップが明示的にコミットしており、2015年ないし2020年のマイルストーンも明確である。
ただし、この業界では世界的な人口増加を背景に生物資源や水資源の枯渇が材料調達のリスクとなっており、生産地とともにいかに持続可能な調達を確保するかが中長期的な経営課題となっている。両社とも長期環境ビジョンにおいて、このまま対策をとらない場合の“持続不可能”な将来予想を踏まえて、気候変動を基本としつつ、自社のバリューチェーンから生じる環境負荷(廃棄物、水資源、容器包装)を地球容量とバランスさせることをめざす。
建設業界におけるCO2排出削減の長期目標設定については、大手ゼネコン2社が先行する。大林組と大成建設のいずれも、2050年に自社や施主の建物使用時のCO2排出量を80~85%削減することをめざす(基準年は異なる)。また、施工時の建機使用などでのCO2排出量削減も図る。
建物は自動車と似たところがあり、事業プロセスよりもプロダクトの使用段階でのC02排出量が多く、既に再生可能エネルギーを活用したZEB(ゼロエネルギービル)も実用化されており、技術開発は規制強化を背景に競争力(提案力)そのものとなってきた。両社とも定量的なマイルストーンを明示し、トップコミットメントは統合報告書にて明快に表明されている。
3――“2050年脱カーボン戦略”に向けた共通点
これまで見てきたように超長期の“脱カーボン戦略”は製造業が先行しているが、既に金融業を含めて非製造業でも検討されている。今後、先進事例を参考にしつつ、企業価値の向上促進と毀損防止にむけて、自社の事業特性に対応する2050年を見据えたCO2排出量削減の長期目標の設定が日本企業に拡がることを期待したい。
川村 雅彦
研究・専門分野
(2016年01月29日「基礎研レポート」)
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