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病院の待ち時間の状況-紹介状の義務化は、大病院の待ち時間を短縮できるか?
基礎研REPORT(冊子版) 2016年1月号
保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
1――はじめに
近年、高齢化が進むに連れて、患者数が増え、大病院を中心に医療インフラが逼迫している。これに伴い、医療施設の機能分化が必要となっている。即ち、大病院は、急性期医療として、資源を集中投下し、専門分化を図ることが求められる。一方、一般診療所等には、地域包括ケアシステムの枠組みの中で長期療養として、総合的に地域医療を支える役割が期待される。
医療施設の機能分化が進めば、アクセスの制限が必要となる。原則として、患者は、まずかかりつけ医の診療を受ける。病状が重篤な場合等には、かかりつけ医が大病院等を紹介する。その際、紹介状が手交される。従来も、紹介状の仕組みはあるが、アクセスの制限にはあまり機能してこなかった。
本稿では、外来患者の現状を踏まえ、アクセスの制限について考える。1
2――外来患者の現状
3――外来患者の待ち時間の実態
4――待ち時間の問題に対する対処法
従来、多くの医療関係者等が、待ち時間への対処を検討・実施してきた。中には一定の効果を挙げたものもある。
しかし、待ち時間は改善しておらず、短縮の決定的な方策は見出されていない。これは、医療の中心にある、医師の診察において、時間の予測が困難なためと考えられる。医療機器等の性能は向上しているが、最終的に、医療は、医師と患者、即ち人と人の間で行われる。診療の際、例えば、患者の病状が通常と異なる場合や、簡単には病原が特定できない場合もある。誤診をすると、患者の命に関わる場合もある。つまり、医療は流れ作業のようには進められない。医師は、十分に時間をかけて診察を行う必要がある。
5―海外における患者の待機問題
この問題に対して、イギリスでは、総合医の紹介から最長でも18週以内に専門医の診療を受けられるよう、政府が目標を立てている5。目標の達成状況は、毎月、地域ごとに公表されている。その結果、待ち期間は短縮し、患者の満足度は向上している模様である。
6――大病院外来の紹介状義務化は、待ち時間にどのような影響を与えるか
2016年4月より、紹介状が義務化される。これにより、外来の機能分化を進め、大病院での専門医療の質を向上させる狙いがある。現在、中央社会保険医療協議会は、具体的な基準を議論している。例えば、対象の大病院の定義をどうするか。初診と再来の、特別の料金をどの水準にするか。救急医療など、紹介状なしでも特別料金を課されないための要件をどう設けるか。といった点である8。紹介状の義務化により、大病院の外来患者数が減少し、待ち時間が短縮される可能性はある。しかし、医療関係者からは、既に特別の料金を設定した大病院では、設定前後で外来患者数に顕著な減少は見られなかった、との指摘もなされている。紹介状の義務化が、待ち時間に与える影響は、現時点では、未知数と言える。
7――おわりに(私見)
従来、日本ではフリーアクセスが医療の前提となってきた。だが、単に、「いつでも、好きなところで受診可能」とするやり方は、医療現場に混乱をもたらしかねない。2013年の社会保障制度改革国民会議の報告書では、「フリーアクセスを(中略)『必要な時に必要な医療にアクセスできる』という意味に理解し(中略)、この意味でのフリーアクセスを守るためには、緩やかなゲートキーパー機能を備えた『かかりつけ医』の普及は必須(後略)」としている。地域包括ケアシステムを進めるためには、かかりつけ医によるプライマリケアと、大病院等での専門医療とに、医療施設の機能分化を進めることが必須である。大病院外来の紹介状の義務化も含めて、病院の機能分化を進め、医療制度全体の効率を高めていくことが必要と考えられる。
保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
(2016年01月08日「基礎研マンスリー」)
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