2015年12月22日

日本の生命保険業績動向 ざっくり30年史(3) 保険料収入・保険金支払など 銀行窓販で、復調?

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩

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2年金
 
年金支払は、保有契約の増加にリンクして順調?に増加している。ここ2年ほどは、銀行窓販が好調なことから急増している。団体年金と個人年金を分けられなかったが、増加分は個人年金が主であると思われる。

ただし、現状では個人年金といっても終身年金ではなく確定年金がほとんどであるし、そもそも支払うまでに準備金を用意できているはずの仕組みなので、年金支払いが急増したからといって直接会社収支に悪影響を及ぼすものではない。

これが仮に将来、例えば終身年金が主流となって、大きな長寿リスクを引受けることになれば、より慎重な対応(保険料や準備金の設定)が必要になると考えられるが、今のところその気配はない。
3給付金
 
【給付金】
給付金といっても、上のグラフ内に示したように様々な種類がある。

「一時給付金」が最も多く変動も大きい。一時給付金の内容は各社ごとに異なるので一律にはいえないが、どうやら年金を何年分か一括して受け取ると、年金ではなく給付金という名前で支払われ、それが多いようだ。

次に多いのが「生存給付金」で、学資保険など数年おきに比較的少額だがまとまったお金を受け取れるタイプの保険から発生するものである。

この2つは、満期保険金同様、支払いの準備はされており、収支に直接影響を与えることは少ないと考えられる。

問題はここからである。「入院給付金」は、所定のけがや病気で入院した際に支払われる給付金で、手術を受けると「手術給付金」も支払われる。これまでは安定した支払金額で推移してきたが、第3分野1商品の販売が好調なことから、入院給付金は今後増加すると予想される。

第3分野は、病気の発生率の将来動向に依然不透明な部分もあろうし、それに応じた充分な保険料水準となっているかどうかも一部不透明なまま商品化されているかもしれない、と考えられている。また、医療技術の進展、医療制度の変更などにも左右され、今後の動きには注意しておく必要がある。

「死亡給付金」は、主に個人年金保険で「年金を受け取る前に死亡した場合の定められた給付」が多いと思われる。個人年金保険保有契約の増加により、これも増加傾向にある。
 
1 人の生死に係るような終身保険、定期保険など生命保険を第1分野、自動車保険や火災保険などの損害保険を第2分野というのに続き、医療保険、介護保険など、その中間でどちらともいえないものを第3分野という。現在は生命保険会社、損害保険会社両方で扱える。
4解約返戻金・その他返戻金
 
【個人保険の解約・失効率の推移(対年度始保有 金額ベース)
まずは、個人保険の解約・失効率の推移をみると、上のグラフのように、もともと1980年頃は、保有契約高の10%程度という相当に多い解約・失効があったわけである。それが、新契約の好調、保有契約の増加とともに次第に改善されてきた。しかし、いくつかの保険会社が破綻するような1990年代後半にあっては、生命保険会社そのものへの不信から、解約が増加していった。

近年はそれが落ち着き、各社が新契約獲得だけではなく、既契約の保全にも注力度合を増してきたということもあって、今までで最も解約・失効の少ない時代になっており、これはこれで望ましい傾向である。

その結果としての解約返戻金は、(残念ながら、保険種類別のデータにできていないのだが、)同様の傾向ではあるのだが、1990年代の突出した年度は、個人保険ではなく団体年金分野の解約返戻金であろう。

また近年は解約・失効率が低下傾向であるにもかかわらず、解約返戻金は急増している。ここでは会社ごとには示さないが、個人年金保険の販売が急増していた会社で大きな解約返戻金額となっているので、一時払個人年金の解約が増加したものであろう。
 
【解約返戻金・その他返戻金】
解約返戻金に関する収支ということで補足する。解約返戻金は、解約時の準備金そのものか、それ以下の金額(加入から日の浅い(数年とか)契約)に設定することが一般的なので、実は準備金の取り崩しによる「解約益」という利益が出ることが多い。しかしそれは、将来の収入保険料により賄われるべきだった、経費等の回収にあたると考えられており、素直に喜ぶわけにはいかない。また、解約以後、当然のことながら保険料が収入されなくなるので、明らかにマイナスの影響である。(これも通常はそうだというだけで、実際にはケースによる。その契約の予定利率が5.5%という高い水準だったら?)

その他返戻金というのは、保険契約の諸変更に伴い、責任準備金に変更が生じる際の精算金である。契約転換が多かった頃は、転換に伴う精算金のため金額規模も大きかったが近年はそれほどでもない。(1988年以前の統計では、解約返戻金とその他返戻金の内訳がすぐには入手困難だったので、上のグラフでは合算で表示している。)

3――事業費の推移

【事業費】
事業費の内訳については、あまり詳しいデータがない。それこそざっくりとみることにする。事業
費は人件費関係と物件費関係に大別できる。(各社のディスクロージャー資料を、30年みれば、その金額もわかるのだが、今回はご勘弁いただきたい。)

人件費の中には、契約獲得に応じた営業職員への報酬が含まれるので、1980~90年代の新契約好調期には増加し、その後新契約の減少に伴い減少した。

物件費については、特に国内大手社において保有契約の減少や厳しい収支状況に対応して経費節減が叫ばれ、物件費関係は極力削減されてきたという傾向がある。現在では、窓販において銀行に払う手数料が増加していると想像できるが、ここでは詳細は捉えられていない。

その後、外資系・損保系生保の新規参入に伴い、そうした会社では当然初期投資的な意味合いもあり、契約も増加する中で事業費は増加してゆく。近年の事業費増加はその反映であろう。2
 
2 念のため、毎回注記しておく。全体を通して、文中のグラフについては、インシュアランス生命保険統計号(各年度版)(保険研究所)に基づくものである。グラフ化は筆者。なお、破綻や合併がある年度などにおいて、一部データに不明点や不整合がある箇所もあるが、業界全体の長期のトレンドをみるという主旨からご容赦頂きたい。
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保険研究部   主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任

安井 義浩 (やすい よしひろ)

研究・専門分野
保険会計・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1987年 日本生命保険相互会社入社
     ・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
     2012年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2015年12月22日「基礎研レター」)

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