2015年11月30日

J-REIT市場の収益見通し~現在の市場環境下、5年間で14%成長を見込む~

金融研究部 主任研究員   岩佐 浩人

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1――J-REIT市場は調整局面入り。一方、業績は順調に回復

2015年に入り、J-REIT(不動産投資信託)市場は弱含みで推移している。過去3年にわたる大幅上昇の反動1>や世界経済の減速懸念などを背景に、市場全体の値動きを表わす東証REIT指数は1月の高値(1,990pnt)から9月の安値(1,509pnt)まで一時▲24%下落した。その後は中国や欧州、日本における追加の金融緩和期待から反発したものの、昨年末から▲9%の水準に留まる(図表―1)。
(図表-1)東証REIT指数(2014年12松=100、月末値)
このようにJ-REIT市場が調整局面入りする一方、業績は順調である。各社の開示する半年から1年先の1口当たり予想分配金を集計し、市場全体の分配金水準の推移をみると、東日本大震災後の2011年をボトムに反転し、足もとでは年率5%程度のペースで緩やかに回復している(図表―2)。当面、オフィス市況の改善や良好な資金調達環境が見込まれるなか、この先の業績悪化リスクはかなり限定的だと思われる。それでは、現在の環境下で今後の分配金成長はどの程度期待できるだろうか。

以下では、最初に、J-REITの運用状況と分配金増加に向けた資産運用会社の3つの運用戦略について確認する。次に、各運用戦略に係わるシナリオ(オフィス賃料、借入金利、物件取得要件)を想定し、簡易収益モデルのもと今後5年間の分配金水準を試算したい。
 
(図表-2)市場全体の予想分配金
 
 
1 2012年から2014年の東証REIT指数(配当除き)の上昇率は127%(年率32%)である。

2――J-REITの運用状況と3つの運用戦略

(図表-3)アセットタイプ別投資比率 J-REITは、エクイティ資金及び借入金を調達して賃貸不動産に投資し、賃貸事業収益(賃料収入-賃貸事業費用、Net Operating Income、以下NOI)を原資に利益のほぼ全額を分配金として投資家に還元する仕組みである。投資家のエクイティ持分は東京証券取引所で日々売買できるため流動性が高く、小口資金での不動産投資が可能となる。

7月末時点の運用不動産は市場全体で約3,000棟、金額にして13.7兆円に拡大している(図表―3)。アセットタイプ別の投資額(比率)は、オフィスビルが6.2兆円(45%)で最も大きく、商業施設2.6兆円(19%)、住宅2.4兆円(18%)、物流1.5兆円(11%)、ホテル0.5兆円(3%)の順に続く。市場の成長に伴い投資対象の多様化が進み、最近ではオフィスビルの比率が低下する一方、インターネット通販市場の拡大などを背景に需要の高まる大型物流施設の取得が増加し、物流の比率が上昇している。また、昨年秋以降、有料老人ホームなど高齢者向け住宅を専門に投資するヘルスケアREITが新たに3社上場した。
運用不動産の拡大と多様化は、市場全体の不動産キャッシュフローの安定性を確実に高めている。しかし、規模拡大と多様化だけでは投資家が受け取る分配金の増加は期待できない。テナントとのリレーションシップ強化や建物設備の修繕・更新など日々の管理運営をしっかりと行い、ポートフォリオ全体の品質と競争力を維持しなければならない。また、J-REITは借入金を活用して不動産を運用するため、財務の健全性を高めて信用力を強化することが大切だ。

これらのファンドマネジメント機能を担うのが資産運用会社である。資産運用会社は、(1)賃料や稼働率を引き上げるなどして既存物件の収益性を高める「内部成長戦略」、(2)エクイティ資金や借入金を調達し不動産を取得する「外部成長戦略」、(3)財務基盤を強固にして借入コストを低減する「財務戦略」、という3つの運用戦略をバランスよく駆使することで、1口当たり分配金の安定成長を目指す。具体的には、(1)内部成長戦略のもと既存物件のNOIを拡大する、(2)外部成長戦略のもと既存ポートフォリオを上回る利回りで物件を取得する、(3)財務戦略のもと支払利息を削減する、という3つのルートを通じて総資産利益率(ROA)を高めて、分配金の増加に取り組むことになる(図表―4)。
(図表-4)分配金増加に向けた3つの運用戦略

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金融研究部   主任研究員

岩佐 浩人 (いわさ ひろと)

研究・専門分野
不動産市場・投資分析

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