コラム
2015年11月25日

坂道と車~あらためてブランドの大切さを考える~

金融研究部 常務取締役 部長   前田 俊之

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横浜では丘陵を食むように住宅地が広がっている。そして、そこには数多くの坂がある。元町から港の見える丘公園に至る谷戸坂を始めとして、坂はこの港町に彩りを添えている。しかし、ひとたびこの丘陵地の住民になると、坂はその表情を変える。

筆者の住む金沢区はもともと海食崖の広がる場所だ。その旧海岸線に沿うように鉄道が走る。最寄りの駅から家に向う凡そ1kmの間に100m近く登るような地形だ。この地に移る直前まで「この程度の坂は運動にもってこいさ」と嘯いていた筆者が、坂のきつさに音を上げるまで時間はかからなかった。

それ以来、我が家にとって車は不可欠な存在となった。通勤、通院、買い物と日常のすべてが車なしでは成り立たず、老親との同居が始まってからは、これに介護が加わった。国土の広い米国では車なしで生活できないとよく聞くが、同じ様な事がこの狭い日本でも起きている。
 

このように車が生活の一部になると、デザインや話題性よりも、とにかく毎日しっかりと動き、かつ修理など手間の掛からないことが重要になる。同じように感じるユーザーも少なくないはずだ。そんなユーザーの視点に立った調査の内容が10月の下旬に発表されたi

調査では購入から37~54ヶ月経過したユーザーに不具合の有無を確認している。その結果、ユーザーのうち3人に2人が「不具合はない」と回答し、100台あたりの不具合数は平均で72になったとのこと。これは国産ブランドの耐久品質の高さを示すそうだ。その一方で、走行距離別に不具合件数を見ると、距離が伸びるほど不具合の件数が増えるとの指摘もしている。車も機械なのだから、使用する条件が厳しくなれば、それに合わせて不具合も生じるということだろう。
 

筆者はこの10年ほどの間に、同じ国内メーカーの車を2台乗り継いできた。残念ながらその記憶は必ずしも芳しいものではない。最初の1台は年甲斐もなく選んだSUVと呼ばれる車だ。乗り始めて3年目あたりからエンジンオイルの減り方が急に早くなった。しかし、定期点検に出しても異常は検出されず、ディーラー担当者の「あの坂道、エンジンには結構厳しいものがありますよ」との一言に納得をしていた。

2台目はいわゆるHYBRIDと呼ばれる車だ。こちらは1年目から異常を感じた。車庫から出た直後の1分間ほど、車体の後部から軋む音が聞こえた。この時も異常は検出されず、「新しい車種は微妙なことから音が出るものですよ。しかも毎日あの坂ですからね」との説明。横浜の坂は人に厳しいだけでなく、車に対しても厳しいのだと妙に納得をした。
 

しかし、これには後日談がある。ディーラーから「無償でエンジンを修理します」と連絡が入ったのは、1台目の保証期間が切れる直前のことだった。どうやらシリンダーの精度に問題があったようだ。そして、次の1台はというと、購入してから3年ほどたって連絡があった。「軋み音の原因を見つけたので、問題となる部品を交換します」とのこと。先に紹介した調査に基づけば、2台連続して不具合に遭遇する確率は1/9である。見事にこの狭き門を通過してきたわけだ。

筆者は悩んだ。坂と暮らすかぎりこれからも車は必要だ。だとすれば次の車はどのように選べばよいのかと。それは二つの解釈の間での堂々巡りだ。一つは「メーカーの品質管理に問題があるのだから、今までとは別のメーカーを検討すべきだ」というもの。二度あることは三度ある、との考え方だ。そしてもう一つは「さすがに三回連続で不具合に遭遇する確率は低いし、対応は遅くても最後はきちんと解決してくれたではないか。もう一回信じてみよう」というものだ。いわば、こちらは三度目の正直との考え方である。
 

ここ数ヶ月の間に、ブランドを巡って誰もが驚くようなニュースが国内外に流れている。マンションであれ車であれ、高額なものを購入する際に消費者が頼りにするのはブランドだ。そのブランドの当事者の発するコメントが報道のとおりだとすれば、消費者は腰を抜かすどころではない。消費者の気持ちを「二度あることは三度あるさ」にするか、それとも「三度目の正直があるかも」とするかは、ブランドの当事者の対応次第だろう。ちなみに、車の不具合を坂のせいにしたディーラーに、一時は不信感を抱いた筆者だが、今は三度目の正直に賭けてもよいかと感じ始めている。消費者の心理はかくも微妙だ。
 

 
 
i 調査はJ.D.パワー アジア・パシフィック2015年日本自動車耐久品質調査SM(VDS)
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金融研究部   常務取締役 部長

前田 俊之 (まえだ としゆき)

研究・専門分野
金融研究部統括

(2015年11月25日「研究員の眼」)

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