コラム
2015年08月13日

高齢者の消費力のポテンシャル-高齢者市場開拓に向けた参考情報

生活研究部 主任研究員   前田 展弘

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少子高齢化、人口減少が進むわが国において、かつてから経済の内需を支える潜在力として高齢者の消費に期待する見方がある。国内の高齢者の人口は今後も増加し続け2040年には約3800万人に到達する。さらに世界の高齢者人口はやがて10億人を超えていく見通しである。「人口=市場」と捉えたときに、拡大を続ける高齢者市場を如何に開拓できるかは、個々の企業のみならず国内経済全体の発展に大きく関わることである。この点、新聞報道によれば2014年度末の家計の金融資産残高は1708兆円、その約6割(1025兆円)が高齢者に偏っているとされる。しかし、年金を主な収入源として暮らす高齢者にどれだけの消費力があるのか、懐疑的な見方をする人は少なくない。貧困にあえぐ高齢者の姿を報じるメディアも散見され、高齢者の財布の紐は固いということもよく言われる。高齢者世帯の貯蓄と所得の分布の状況から、「ストックリッチ・フロープアー(貯蓄は豊かだが所得は少ない)」ということだったり、貯蓄高の格差から高齢者は二極化している(一部の富裕層とそれ以外の大宗)ということをよく見聞きする(具体的な貯蓄・負債、所得等の状況については後掲データ参照)。果たして高齢者と消費に係わる実態はどうなのだろうか。

そこで高齢者の毎月の家計の状況を今少し丁寧にみたのが図表1である。国民生活基礎調査(厚生労働省)のデータをもとに、「可処分所得額」と「家計支出額」の関係を世帯ごと(かつ世帯主の年齢別)に照合した結果を示している。可処分所得額と家計支出額の大きさを比べ、毎月の収支がマイナスになっていると予測される世帯を【A】に、収支が均衡していると予測される世帯を【B】に、収支がプラスになっていると予測される世帯を【C】のグループとして区分した。その結果(A~Cに分けた世帯数の割合)をみると、世帯全体では「A16% B33% C51%」の状況であった。注目する高齢者世帯についてみると(65歳以上計の部分)、「A17% B42% C41%」という状況であった。なお、この結果は、家計支出額が毎月一定とした上で年間の可処分所得額と比べているため、大きな買物だったり、旅行に行くなどで一時的に増加する支出までを見込めていない。したがって、より正確な実態としては、C⇒B、B⇒Aに区分される世帯が増える可能性があることを考慮する必要がある。

図表1:家計収支タイプ別の世帯の分布割合(「可処分所得」と「家計支出額」の照合による推計)

ここで注目される、約4割の高齢者世帯が収支をプラスさせている可能性があるということをどのように解釈すべきだろうか。表出されたこれらの結果の背景にある「貯蓄」や「世帯(人員)」や「就業」の状況まで捕捉できていないため一概に述べることは本来避けるべきではあるが、少なくとも「高齢者は使えるお金がないから“使えない”」という見方は一面を見ているに過ぎないことは言えるであろう。また一方で、「高齢者世帯の4割はお金が余って余裕がある」という見方も適切ではないだろう。可処分所得が300万円未満の世帯が56.3%を占めるなかで、「余裕がある」という表現は違和感を与えるに違いない。より実態に近い解釈を考えると、「手元には使えるお金はあるけど“使わない”世帯が約4割もある」ということではないだろうか。“余分なものは買わない”ことに徹しながら生活を切り詰め、結果として収支のプラスを確保しているのが実態と考える。

では、なぜ使わないのか。その理由は、貯金の目的を聞いた調査結果(図表2)からも明らかなように、「将来に向けた備え(病気や介護が必要になった時など、万一の場合の備えのため)」が最も大きな理由と考えられる。ただもう一つの理由として、貯蓄するよりも積極的に消費したいと思えるほどの商品サービスが市場にない、ということもあるのではないだろうか。貯金の目的に該当することではないが、「使わない」理由としてはその要因になっていると考える。この点、やみくもに高齢者の消費を促すようなことは避けるべきではあるが、高齢者の市場を活性化させるには、「使わない」を「使える」「使いたい」に変えるような市場からのアプローチが必要である。

図表2:貯金の目的(50歳以上の回答)

ではそのために民間企業として何ができるだろうか。本稿では僅かな指摘に止まるが、前述の「使わない」理由のうち前者の将来不安ということの軽減に向けては、保険や信託といった金融商品に期待したい。ライフサイクル仮説に従うように、安心して貯金をしっかり“使い切れる”ことをサポートするような、そうした画期的な商品が開発できないかと考える。また後者については、あらゆる商品サービスについて、「これなら買ってもいい、利用してもいい」と思わせる魅力づくり、付加価値づくりが求められる。家電業界では、“小さく・軽く・贅沢に“というコンセプトにもとづく商品が登場するなど、シニアを意識した商品開発が進んでいることが確認されるが、こうした高齢者のニーズを踏まえた対応(いわゆる”シニアシフト“)があらゆる業界各社において推進されていくことを期待したい。

高齢者の消費力は前述した「所得」の面だけに止まらず、「貯蓄」も合わせれば相応のポテンシャルがあると考える。その消費力を引き出せるかどうかは個々の企業の業績のみならず、日本全体の経済にも大きな影響をもたらすことにもなる。難しいテーマではあるが、国民の豊かな長寿の実現のため、また日本社会の発展のためにも欠かせられないテーマであるだけに、新たな金融商品の開発といったことも含めて、業界各社のシニアシフトに向けた取組みに期待したい。筆者としても高齢者の消費力が活かされる市場の創造に向けた研究を深化させていきたいと考えている。

(参考)高齢者の経済状況に関する諸データ

(参考)高齢者の経済状況に関する諸データ2



 
  1 前田展弘「人口減少未来における成長視点-世界の高齢者市場を射程に入れたイノベーション-」(ニッセイ基礎研/研究員の眼、2015.6.9)
  2 日経新聞(2015年7月7日朝刊)による報道
  3 可処分所得とは、所得から所得税、住民税、社会保険料及び固定資産税を差し引いたものであり、「所得」はいわゆる税込みの額であるのに対し、「可処分所得」は手取り収入に相当する
  4 この家計支出額は、平成26年5月中の家計上の支出金額(飲食費、住居費、光熱・水道費、被服費、保健医療費、教育費、教育娯楽費、交際費、冠婚葬祭費、その他の諸雑費など)である
  5 ライフサイクル仮説とは、個人の消費行動はその個人が一生の間に消費することのできる所得の総額(生涯所得)を念頭におき、死ぬ時に貯蓄残高がゼロになるように消費する、という消費・貯蓄理論
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生活研究部   主任研究員

前田 展弘 (まえだ のぶひろ)

研究・専門分野
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)、超高齢社会・市場、QOL(Quality of Life)、ライフデザイン

(2015年08月13日「研究員の眼」)

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