コラム
2014年10月20日

安定な戦略ってご存じですか?-生き残るためにはどういう戦略が必要か?

保険研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター兼任   篠原 拓也

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社会では、一定のルールのもとで、様々な競争が繰り広げられている。産業界では商品の販売や収益の増加のために企業間で競争が行われており、政治の世界では各政党が政策の実現を通じて支持率獲得の競争を展開している。組織の内部でも部門間の競争があり、更にその中では個々人の競争にまで行き着く。そもそも競争は、ありとあらゆる生物にとって生存という究極の目標を達成するために逃れられない宿命とも言える。そのうちの1つが人間の社会の競争だと見ることができるだろう。

競争に際して、各競争者は、意識的に、もしくは無意識のうちに、ある戦略を採っている。ゲーム理論は、このような競争環境やその中での戦略について研究する学問分野である。
   競争環境ごとにいろいろな戦略が考えられるが、その中には、安定な戦略というものがある。競争者が全員その戦略を採った場合、他の戦略を採っている競争者の侵入を防ぐことができるような戦略である。安定な戦略を採った集団は、他の戦略を採った競争者からの攻撃に耐えられる。

例えば、初対面の人と挨拶をする場合を考えよう。日本の人同士で挨拶をする場合、お辞儀をすることが一般的だ。これは、長い時間をかけて根付いた、日本の文化・習慣に基づくものであろう。しかし、日本の人が、アメリカに行ったときには握手をする場合が多い。アメリカでは、握手が一般的だからだ。逆もしかりで、アメリカの人が日本に来ると、それまであまりしたことのないお辞儀をすることが多い。つまり挨拶をするときに、日本ではお辞儀、アメリカでは握手をするというのが、安定な戦略になっていると言える。

次に、製薬会社の競争の例を考えてみよう。製薬業界は新しい薬剤の製造競争が激しいことで有名である。ある製薬会社が「新規開発戦略」をとって新しい薬剤を開発して販売すれば、特許をとれて一定期間市場を独占できるが、常にそのような画期的な薬剤が開発できるという保証はなく、開発には莫大なコストもかかる。これとは対照的に、他社が開発した薬剤と同じものを製造し、その薬剤の特許期間切れと同時に、ジェネリック医薬品として低価格で販売する「二番手戦略」も考えられる。

仮に、二番手戦略を採っている会社がA社だけで、他の会社は全て新規開発戦略を採っていたとしよう。このときは、まず、新規開発戦略を採っている会社の中では、開発に成功した会社だけが利益を得る。開発に成功しなかった他の会社は利益を上げることができない。一方、二番手戦略を採っているA社は特許期間切れと同時にジェネリック医薬品を販売し、確実に利益を得ることができる。
   逆に、新規開発戦略を採っている会社がB社だけで、他の会社は全て二番手戦略を採っていたとしよう。この場合は、B社は他の会社に開発・製造を先んじられる恐れはなく、じっくりと製薬の開発研究を行い、いつしか開発に成功して確実に利益を上げることができる。一方、二番手戦略を採る会社間では厳しい販売競争が繰り広げられ、獲得する利益は限られることになる。
   このように、新規開発戦略も二番手戦略も、安定な戦略にはなっていない。

それでは、製薬会社の競争において、安定な戦略というのはどういうものだろうか。新規開発戦略と二番手戦略を併用する混合戦略がその答えとなる。他の競争者の戦略を見て、新規開発戦略を採る会社が少ない場合は新規開発戦略の比重を高め、二番手戦略を採る会社が少ない場合は二番手戦略の比重を高めるのである。

この戦略をとる場合、(1)他の競争者を観察すること、(2)自らの戦略を臨機応変に変更すること、(3)長期的に利益を獲得するという視点を持つことが、成功の鍵となる。ただ実際には、他の競争者といっても、多くの会社があり、どの会社を重点的に観察し、自らの戦略を変更するかという選択の問題が発生する。即ち、「どの戦略を採用するかを決めるための戦略」が必要となる。これは、これまでの単純な戦略よりも1つ次元の高いメタ戦略と呼ばれている。製薬会社の競争の混合戦略の例では、新規開発戦略と二番手戦略をどのような比率で混合し、その混合比率はどのような基準で見直していくか、といったことがメタ戦略となる。

製薬会社だけではなく、多くの企業がこうしたメタ戦略の検討・推進を求められている。大切なのは、メタ戦略を考えることを通じて、自らの置かれた環境を広く、深く、長い期間、認識するようになることである。そして、1人ひとりの競争者が、自らの能力と、周囲の環境を踏まえながら、メタ戦略を実践することが集積して、社会全体の成熟化が図られていくのではないかと考えられる。

戦略などというと、どこか物騒で、きな臭い感じがして嫌だ、という人がいるかもしれない。ぎすぎすした競争社会は味気なくて非人間的だ、という意見もあるだろう。しかし、新しい戦略の検討や過去に立てた戦略の評価を通じて、個々の競争者が、よりよく社会に適合しようと努力することが、最終的には社会全体の安定した発展につながっていくと考えれば、このような戦略の議論を行うことも有益だと思われるが、いかがだろうか。

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保険研究部   主任研究員・年金総合リサーチセンター兼任

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品、保険計理

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