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- 米国の証券ブローカーに対する受託者責任導入を目指すSEC -保険募集人の視点を踏まえて
2008年に発生した金融危機を受けて米国の抜本的な金融規制改革を推進するため、2010年にその根拠となるドッド・フランク法が成立した。同法はいわゆる金融システミック・リスクに対応するための新たな監督体制を構築するのみではなく、一方で金融サービスを利用する顧客の保護を充実する役割を果たすものでもあった。
このような顧客保護充実の一環として、証券規制を担当するSEC(証券取引委員会)は、証券ブローカー(証券業者およびその営業担当者)に対して受託者責任(Fiduciary Duty)を課すための規則を制定する権限を持つこととなった。
ここでいう受託者責任とは大雑把に捉えると、証券ブローカーは顧客の最大利益に資するように活動しなければならないというルールであり、顧客から見て類似の機能を果たすと見られている投資アドバイザー(投資顧問業者およびその営業担当者)に対してはすでに法令に基づき導入されている。一方、現在、証券ブローカーに対しては、証券アドバイスが顧客との取引に付随して行われ、かつ顧客から報酬を受け取らない場合には、受託者責任が適用されていない。しかしながら、証券投資を行う顧客から見ると両者の区別があいまいで、それぞれに適用されるルールが異なり、混乱が生じているとの指摘が従来なされていた。
このような状況を改善し、顧客保護の充実を図るために、SECは内部の調査も含め証券ブローカーに対する受託者責任導入の是非について検討してきた。
ところで、これらの動きを保険の観点から見ると、とくに拡大する年金業務において存在感を増している変額年金の販売に関して影響が出てくることになる。すなわち、変額年金は保険であると同時に投資リスクを契約者が負担するために証券としても位置づけられていることから、受託者責任の導入はその販売に影響を及ぼすことになる。
具体的に見ると、変額年金を販売する者は、保険募集人として州の保険規制に服すると同時に、証券ブローカー(またはその登録代理人)として連邦証券規制(自主規制機関の規制を含む)にも服さなければならない。したがって、証券ブローカーに対して受託者責任規制が導入されることになれば、現在以上に規制が厳しくなると販売関係者からは認識されている。
SEC自身はここしばらくの間、顕著な動きを見せてこなかったが、ようやく2013年3月になって受託者責任導入にともなうコスト・ベネフィット分析を行うための情報提供を関係者に対して要求する行動に出た(「データ・情報リクエスト」の公表)。SECの考え方は、最終確定していないとは言うものの、基本的には、(1)投資アドバイザーのみでなく証券ブローカーにも同様の受託者責任を導入する、(2)その受託者責任は現在、投資アドバイザーに対して適用されているレベル以上のものである、という方向である。
SECは今回のデータ・情報リクエストでは、主として次のようなデータ・情報の提供を求めている。
(ⅰ)現在の証券ブローカー、投資アドバイザーの監督体制、市場に関するデータ・情報(コスト・ベネフィットの観点から)
(ⅱ)両者に適用する同一の受託者責任の内容に関するデータ・情報
なお、SECは未確定としつつも受託者責任の具体的イメージとして、(1)忠実義務(業者と顧客の間の利害衝突事項の開示など)、(2)注意義務(顧客のニーズに即した推奨など)を挙げている。
(ⅲ)上記(ⅱ)の同一受託者責任に代わる手段についてのデータ・情報
証券ブローカーに対する受託者責任導入については賛否両論あるが、ちなみに生保系の全国規模の募集人団体(NAIFA、約20万人の会員・その関係者で構成)は、導入に懸念を表明している。なお、NAIFAの会員は、主として生保の販売を行う一方、約3分の2が変額年金等の販売ができる証券ブローカーの(登録)代理人でもある。
NAIFAは、受託者責任が導入された場合には、コンプライアンスコスト等のコスト負担が増加するため、最終的なコスト負担先である零細な顧客は、業者の選択肢が狭められ、適切な投資サービスの利用が困難になるとして、受託者責任の導入が顧客の最適利益につながらない旨の意見を表明している。
SECのデータ・情報リクエストに関する関係者のパブリック・コメントは2013年7月5日に締め切られることになっており、これらを受けてSECが具体的にどのような規則案を提案してくるか、新たな規制であるだけに業界関係者にとっては、その影響が少なくないもの見られていることから、今後のSECの動きには引き続き注目していく必要があるものと思われる。
小松原 章
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