- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 経済 >
- 労働市場 >
- デフレ期の成長企業がサービス業の生産性に与えた影響 -なぜ均質で高水準のサービスが社会を疲弊させるのか-
■要旨
世界の中で日本だけがデフレに長く苦しんできた。しかしそうした経済環境の中でも、売上を伸ばし雇用を増やしてきた成長企業、成長セクターは存在する。本稿ではそうした企業を抽出して、特徴を調べた。その結果、デフレ期の成長企業はIT関連か消費サービス関連であり、独自性のあるサービスを掘り起こしたり、ITを活用し規模の経済も含めて価格競争力を高めたりした企業群であることがわかった。
つぎに成長企業が多く属する消費サービス・セクターの労働生産性に焦点を当てて実証分析を行った。労働生産性の産業間の比較・評価には慎重であるべきだが、サービス業は平均的に製造業よりも労働生産性が低いという通説を確認した。一方で、サービス業であっても平均的製造業よりも生産性の高い企業も存在することも明らかになった。つまりサービス業の問題点は、生産性の高い企業と低い企業が混在することにある。
日本のデフレの原因の一つとして名目賃金の低下が挙げられている。特に非製造業の賃金低下が顕著である。その理由は、IT化・ネットワーク化によって規模の経済を享受しオペレーション・コスト低減に成功して生産性を高めた企業に対抗するため、生産性の低い企業は賃金を下げざるを得なかったからだと考えられる。また、そうせざるを得なかったのは、高品質・高価格という価格戦略が取れないからであり、その背景には均質で高水準の日本式サービスがある。つまりサービスの品質が高いことが当然視され、それが付加価値を生みにくくなっている。
1980年代までの高物価時代は、サービスに対しても暗黙のうちに高い価格付けがなされていた。しかし時代が変わったにもかかわらず、均一で高品質のサービスは日本の文化であり国民性の反映であるとの共同幻想によって、サービスの品質と価格の関係は市場による適正な評価から歪められることになった。その結果、生産性の高い企業に対して、生産性の低い事業者は高品質サービスを高価格で提供することによって棲み分け・共存するという選択肢がなく、賃金を下げることによってしか対抗できなくなった。また、低賃金にもかかわらず日本スタンダードのサービス提供を強要された労働者サイドは必然的に疲弊していくことになった。
遅澤 秀一
研究・専門分野
公式SNSアカウント
新着レポートを随時お届け!日々の情報収集にぜひご活用ください。
新着記事
-
2024年05月07日
今週のレポート・コラムまとめ【4/30-5/2発行分】 -
2024年05月02日
為替介入再開、既に連発か?~状況の整理と今後の注目ポイント -
2024年05月02日
米FOMC(24年5月)-予想通り、6会合連続で政策金利を据え置き。量的引締めペースの減速を決定 -
2024年05月01日
ユーロ圏消費者物価(24年4月)-総合指数は横ばい、コア指数は低下 -
2024年05月01日
ユーロ圏GDP(2024年1-3月期)-前期比0.3%、プラス成長に転じる
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年04月02日
News Release
-
2024年02月19日
News Release
-
2023年07月03日
News Release
【デフレ期の成長企業がサービス業の生産性に与えた影響 -なぜ均質で高水準のサービスが社会を疲弊させるのか-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
デフレ期の成長企業がサービス業の生産性に与えた影響 -なぜ均質で高水準のサービスが社会を疲弊させるのか-のレポート Topへ