コラム
2012年12月20日

対照的なフランスとドイツ~その問題点ばかりが似通っている日本の悩ましさ~

金融研究部 常務取締役 部長   前田 俊之

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この8月から毎月のシリーズで欧米諸国の年金制度のレポートを手がけている。先月はドイツ、今月はフランス編である。ユーロの統合の立役者であるこの両国ではあるが、その成り立ちの違いから抱える問題も様相が違っている。今回は失業率と出生率の二点から現状を紹介したい。

下の図1はフランスとドイツにおける失業率の推移を示している。2005年を境に失業率が低下し始めたのがドイツ、それと反対に2008年ごろから失業率の上昇が続いているのがフランスだ。
   一連のユーロ危機ではギリシャやイタリア、スペインの財政問題に目が行きがちであったが、フランスの現状に強い危機感を抱いている関係者は少なくない。例えば、英エコノミスト誌は先月のフランス特集のなかで、「ユーロ統合以降、ドイツとの経済格差が拡大している」と指摘している。

フランスとドイツの失業率比較

このような形で両国間の差が生まれる直接のきっかけとなったのはユーロ安だ。ドイツは2000年代前半のユーロ高に苦しみ、一時は失業率が10%を越える水準にまで達した。しかし、その間に産業界でのスリム化が進み、リーマンショック前後から始まったユーロ安によって、得意とする自動車などの分野での国際競争力が高まった。それとともに失業率は低下し、現在では過去30年で最も低い水準にまで達している。
   他方、フランスはドイツほどユーロ安の恩恵を受けていない。もともと農業や高級衣料など通貨の強弱の影響を受けにくい独自の分野を持つことがフランスの強みだが、その一方で自動車など本来であればユーロ安の恩恵に与るはずの産業での苦戦が伝えられる。その原因の一つとして指摘されているのが、企業が負担する社会保障コストの大きさである。フランスでは比較的恵まれた労働条件が既得権として認められていることが多く、これがフランス企業のコスト競争力を弱めているのだという。

次に下の図2は二つの国の出生率の推移である。こちらは2005年頃から2.00前後で推移しているのがフランス、1.35前後で推移しているのがドイツだ。

出生率の推移

フランスでは手厚い家族手当などの社会保障に加え、比較的早い段階から多様な保育システムを整備した。その結果、女性の社会進出が進んだにもかかわらず、他の先進国と比べて高い出生率を維持することが可能となっている。その背後にあるのは、「年金などの社会保障制度を維持するために国として必要な家族政策を行うのは当然の責務」との認識だ。
   これに対してドイツはというと、実は児童手当はフランスなみに手厚いものとなっている。しかし保育施設の整備が遅れていたことや保育時間の短さなどから、女性にとって育児の負担が大きく、これが低い出生率の理由のひとつだと指摘されている。また、戦前の苦い経験から国が家族政策に深く関与することについてタブー視されていたことも低い出生率と無関係ではないようだ。

さて、このフランスが抱える高い失業率とドイツが悩む低い出生率は、ともに日本にとっても深刻な問題であることは言うまでもない。

日本の現在の失業率は4.2%と先進国の中では低い水準にあるが、失業者の定義にあてはまらない潜在失業者や企業内失業者を反映させた場合の失業率は20%にも及ぶという試算もあるii。それに追い打ちをかけるように、製造業における新興国の台頭や長期トレンドとしての円高などの要因から、今後も日本国内での雇用機会が海外に流出することが予想される。こうした分析に基づけば、少子高齢化による労働力人口の減少を心配する前に、我々は今ある労働力人口を前提に、どのように雇用を確保するかについての答えを用意しなければならない。
   フランスではこれまで様々な雇用対策を行ってきたが、それが期待するほどの効果をもたらしていない。社会保障コストの高さを嫌い、企業が雇用を増やすことに二の足を踏んでいるからだ。しかし、その肝心な社会保障制度は複雑で、前のサルコジ政権は年金制度の改革にも大変な苦労をしている。これに対してドイツでは前のシュレーダー政権時代に行なった構造改革(法人税の引き下げ、社会保障の見直しなど)によって生産コストの圧縮に努めていたことが、現在の失業率の低下という結果をもたらしたと評価されている。

一方、出生率はというと、日本は1.39iiiとドイツの1.36と肩を並べる低さである。このまま行けば日本では次の50年の間に現役一人が高齢者一人を支える肩車型社会になることは避けられない。これからも肥大化する医療・介護費用や年金など社会保障制度のサステナビリティーに大きな影響を与えることは言うまでもない。
   肩車社会の問題は程度こそ違えどもドイツも同じ悩みを抱える。低い出生率の原因と言われてきた保育施設の不足についても最近はその充実にも力を入れてきているが、今のところ目に見えた成果は生み出せていない。それどころか、1歳から3歳まですべての子供に託児所への入所を保障するという法律が2013年から完全施行になるにもかかわらず、州による実際の整備が追い付かずにいる。このまま来年を迎えると、託児所を利用できない親が州を訴えることもできるので、今から弁護士が皮算用をしているという笑えない話も伝わっている。
   これに対して、フランスの出生率は2.00と先進国の中では高いグループの一つだ。家族手当や保育施設など制度を維持するためのコストの高さという問題や、独特の婚姻制度や移民家庭が出生率を引き上げているにすぎないとの指摘もあるが、こうした出生率の高さは長年に渡り積み上げてきた取り組みの成果であることは間違いない。

こうして見ると、フランスとドイツの両国はそれぞれ難しい課題を抱えているものの、雇用の問題と出生率の問題のどちらかに答えを見出している。少々荒い整理ではあるが、ドイツは社会保障コストの削減と引き換えに雇用を、そしてフランスは雇用機会の喪失と引き換えに出生率を選んできたと見ることもできる。答えの出し方は対照的であるが、それぞれの歴史を背負った上での判断ではないだろうか。
   それに対して日本の置かれている状況はどうか。これから同時に二つの問題の解決に挑まなければならない。頭の痛い話だ。しかも、問題はこの二つだけにとどまらない上に、将来世代に過大な「負担」の押し付けはできない。複雑に絡み合った問題の解決に向けて優先順位をどのようにつけるのか、我々が越えるべきハードルは高い。来年に控えた参院選に向けて、再び政党や政治家が足を引っ張り合う時間的な余裕はない。また、それを黙って見守る国民であってはならないであろう。


 
 フランスでは育児親休暇手当や乳幼児手当など第三子以降を対象とする家族手当が充実しており、これが第二子から第三子への子供数の増加および30代での出産数増加という結果を生んでいるとの分析がある

ii 「2050老人大国の現実」小笠原泰・渡辺智之、東洋経済新報社、2012

iii 出生率の数値は全て2011年
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金融研究部   常務取締役 部長

前田 俊之 (まえだ としゆき)

研究・専門分野
金融研究部統括

(2012年12月20日「研究員の眼」)

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