コラム
2011年12月26日

コンビニより歯科診療所が多い現実をどう考えるべきか!

生活研究部 准主任研究員   金 明中

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今から13年前、日本に来て受けた最初の感想は、人々が親切であることや街がよく整理され綺麗であること、筆者が住んでいた韓国の仁川より物価が高いことであった。それから少し時間が経って新しく気づいたことがコンビニエンストア(以下、コンビニ)の数の多さである。読者の中にはジェネレーションギャップを感じている方がいるかも知れないが、その頃の韓国ではソウルの中心部を除くと、コンビニよりは「グモンカゲ(穴ほど小さい店であるという意味)」と呼ばれる零細的な小店が多数を占めていた。こういう「グモンカゲ」の大体はおばあさんかおじいさんが仕事や暇つぶしを兼ねて運営するとことが多く、品物がよく備えられ、体系的に運営されているコンビニとその効率や成果などを比較すると負けが決まっているのは当然のことである。しかしながら、そこには今のコンビニとは異なる何かがあった。その何かは、今でも私の心の中に刻まれており、私を癒してくれる。さて、思い出話はここまでにして本論に入りたい。

2011年10月時点における日本のコンビニの数は44,062店で、5年前の39,631店に比べて、4,431店も増加した。計算上では1日に2.4店ずつ増加したこととなり、コンビニは私たちの生活に欠かせない存在になった。

ところで、最近大学の授業を準備しながら偶然に気づいて驚いたのが歯科診療所の数の多さだ。なんとその数がコンビニの数より多い。厚生労働省の「医療施設調査」によると、2010年10月の歯科診療所の数は68,384ヶ所で同時点におけるコンビニの数43,268店をはるかに上回っている。なぜ、日本には歯科診療所が多いのだろうか。

その最も大きい要因としては「毎年輩出される歯科医師国家試験合格者の数が多い」ことが挙げられる。厚生労働省では現在の歯科医師数を維持するためには歯科医師の国家試験合格者数が約1,200人程度必要だと発表しているが、実際の毎年の合格者数はその2倍水準である2,400人前後である。

国としては歯科医師の過剰を抑制しようと2004年から歯科医師国家試験の難易度を上げ、合格率を下げる対策を実施している。政策の効果か、確かに歯科医師国家試験の合格率は2004年度(第97回)の74.2%から2011年度(第104回)には71.0%まで低下した。しかしながら、いまだに現在の歯科医師数を維持するために必要な歯科医師1,200人の2倍近くが毎年合格しており、歯科医師の減少には至っていない。

その理由を理解するためには「私立大学等経常費補助金配分基準」に目を通す必要がある。その内容には「医学・歯学の正規の課程を修めて当該年度の前年度末に卒業した者の医師・歯科医師国家試験の合格率が70%未満の大学は医学・歯学研究科に係る補助項目のうち、大学院高度化推進特別経費の補助金を交付しないものとする。」というものである。そこで、大学側は国からの補助金が減ることを避けるために、卒業試験を厳しくすることによって合格見込みの低い学部生を留年させ70%以上の合格率を確保する方法を取っていると考えられる。

歯科医師数の増加は、歯科医師一人当たりの患者数の減少につながり、歯科診療所の実際の収入を減らす可能性が高い。実際、賃金センサスのデータを参考にすると、2008年に780万円(平均年齢35.7歳)であった歯科医師の平均年収は、2010年には724万円(平均年齢34.8歳)まで、7.2%も減少した。一方、同期間における医師の平均年収は1,104万円(平均年齢40.0歳)から1,143万円(平均年齢40.2歳)まで、むしろ3.6%も増加するという結果になった。両者における平均年齢の差が平均年収に影響を与えていることは確かであるが、医師の平均年収は増加しているのに、歯科医師の方は減っている点はより慎重に考える必要がある。歯科医師の収入が減った理由としては、長期間にわたって歯科医師の数は増加していたのに歯科診療に対する医療費総額は2.5兆円程度に留まっていた点が考えられる。すなわち、パイの大きさは変わっていないのに供給だけが増え、競争が激しくなった結果だと言える。

その結果を反映するように、最近の私立歯科大学の定員割れが目立つ。私立歯科大学は全国に17の大学があるが、2010年度には11の大学で、2011年度には10の大学で定員割れを起こしていた。私立歯科大学の募集定員総数が 2006年度の2,215人から2011年度には1,825人まで減っているにもかかわらず定員割れは続いている。すなわち、彼らが夢見ていた将来の安定的な収入が減っている中で、6年間3,000万円もかかる学費を負担しながら私立歯科大学に通うメリットがだんだんなくなってきているのがその大きな理由である。

少子高齢化が進んでいる日本の現実を考えると、国民の歯科医療を将来担う優秀な若手人材を養成することは何より重要なことである。しかしながら、現在の供給の仕組みや制度を維持したままでは、今後医療の質の低下や医療サービスの供給過剰というモラルハザードが続く恐れがある。政府は必要な歯科医師の数をより厳密に把握し、歯科大学の定員をすばやく調整する必要がある。また、ある程度の点数を取れば合格するという現在の「絶対的合格基準」から医療供給サービスが維持できる上位何人までを合格にする「相対的合格基準」を導入し、需給のバランスを取る必要があるだろう。

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生活研究部   准主任研究員

金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
社会保障論、労働経済学、日・韓社会保障政策比較分析

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