コラム
2011年11月28日

「特例水準はもらいすぎ」の罠

保険研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター兼任   中嶋 邦夫

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「現在の年金額(特例水準)は、もらいすぎだ」というプロパガンダがメディアや世論を席巻している。

私は特例水準の早期解消に賛成だ。むしろ、3年間かけて解消するという厚労省案ではなく、特例水準にマクロ経済スライドを適用して2年間で解消してはどうかとすら考える。

しかし、「もらいすぎだから減額する必要がある」という理由付けには懸念を感じる。

懸念には、(1)「もらいすぎ」と言い切れるのか、(2)将来に禍根を残すのではないか、という2つがあるが、ここでは後者について論じたい。

今の年金財政に必要なのは少子高齢化にあわせた給付削減であり、その仕組みがマクロ経済スライドである。理解を得られやすそうな理由を持ち出し、それを強調して改正を推し進めるのは、問題の先送りに過ぎないのではないか。2~3年後に特例水準が解消されてマクロ経済スライドの適用を開始する際、「もらいすぎは、もう解消したのではないか。なぜ、さらに削減する必要があるのか」という問いが投げかけられるのではないかと、私は憂慮している。実際、日本よりも早く年金財政の自動健全化措置を導入したスウェーデンでも、いざ自動発動されるとなった際に削減を緩和する措置がとられた。(注1)

「少子化うんぬんでは政治の重い腰は上がらない」「とりあえず、実を取る必要がある」という声もあろうが、公的年金の運営には長期的な視野が必要で、単年度主義の予算運営とは趣が異なる。短期的な視野で行った理由付けが、その後の制度運営に影響することもある。

日本の人口は、これまで約100年かけて倍増し、これから約100年かけて半減する見通しだ。さらに重要なのは年齢構成で、約100年前には総人口の1割にも満たなかった65歳以上が、現時点で約2割に達し、100年後には約4割にも及ぶ。このような人口構成においても今後100年間の年金財政を維持するには、何らかの形で少子高齢化への対応が不可欠なのである。

そのことが理解された上で、建設的な議論が継続されることを期待したい。

人口構成の推移と見通し

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保険研究部   主任研究員・年金総合リサーチセンター兼任

中嶋 邦夫 (なかしま くにお)

研究・専門分野
公的年金財政、年金制度

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