- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 不動産 >
- REIT(リート) >
- ファンドマネーによる新市場開拓、その限界と不動産会社の役割
コラム
2009年07月15日
J-REIT(不動産投信)や私募ファンドが運用する資産は、ピーク時には取得価格ベースで20兆円をはるかに超えていたとみられる。不動産がファンド間で転売される都度得られたキャピタルゲインの多くは、投資家に分配された後、新たな不動産ファンドに再投資されてきた。では、不動産ファンドビジネスとそれが生み出した巨額のキャピタルゲインで、われわれの生活は豊かになったのだろうか。
まず、マンション用地が、ファンドへの転売を前提に高値で取引された結果、建築費の高騰も相まって、新築分譲マンションの販売価格が大幅に上昇した。ファンドブームで多額の報酬を得た不動産金融関係者を別とすれば、好景気にもかかわらず所得がそれほど増えなかった一般的なエンドユーザーにとって、マイホームがむしろ遠のく結果となった。
一方、際限なく増加する投資マネーの受け皿として運用対象の拡大を図ろうとしたファンドは、外国人や富裕層向けの高級賃貸マンションという既成市場にも参入したが、分譲マンションと同等の基本構造・設備を持つミドルクラスの都市型賃貸マンション、という新しい市場を開拓した。これによって、個人地主の土地有効活用(節税対策)や個人投資家向けとして建設された小規模・安価・安普請のアパート・マンションに飽き足らなかった、都市居住志向の強い若者やDINKSなど、新たな賃貸住宅需要の掘り起しに成功した。
そもそもファンドは利益を内部留保できず、そのほとんどを投資家に分配する仕組みである。膨大なキャピタルゲインを得た投資家にとって、新しい不動産ニーズの開拓や不動産開発の技術革新に再投資する義理はない。もちろん、投資家のため忠実に働くファンド運用者は、長期的視点で運用することを旨とするJ-REITも含めて、運用不動産について減価償却費の範囲で改修工事は出来ても、収益向上が期待できない大きな設備投資などには、投資家や市場の評価が得られそうにない限り躊躇せざるを得ない。
しかし、ファンドの組成に関わり、機関投資家と同じ船に乗って投資資金を提供し、開発を主導して様々な手数料を得た不動産会社は、その利益の一部を将来のために内部留保し、新分野に再投資することができる。ミドルクラスの都市型賃貸マンション市場の拡大は、やや怪我の功名的なところもあるが、ファンドマネーの活用で新分野が開拓された好例であろう。
金融危機以来、リスクマネーがやせ細り、不動産ファンドの多くは開店休業中に近い状況にあるが、自らのリスクで環境配慮型不動産(グリーンビルディング)の開発や地球環境対策に積極的に取組んでいる不動産会社も少なくない。これは、彼らが将来の新規事業や新技術に先行投資するために必要な内部留保を蓄積することが可能な仕組みを持つためである。また、不動産は外部経済・不経済効果が大きく公共性の強い財でもあることから、企業の社会的責任という認識が、ある程度経営にビルトインされているためとも考えられる。
人口減少時代に入った日本において、経済活動や生活の新しい基盤や空間を創造していくという志なくしては、不動産業として生き残りが難しくなりつつあるだけに、ファンドマネーを利用して得た利益の一部を、先行的な試みに再投資していくことは経営にとって重要な課題であろう。カネ儲けは否定しないが、儲けたカネで何をするのか、不動産会社の役割を今一度考えてみる時期ではないだろうか。
まず、マンション用地が、ファンドへの転売を前提に高値で取引された結果、建築費の高騰も相まって、新築分譲マンションの販売価格が大幅に上昇した。ファンドブームで多額の報酬を得た不動産金融関係者を別とすれば、好景気にもかかわらず所得がそれほど増えなかった一般的なエンドユーザーにとって、マイホームがむしろ遠のく結果となった。
一方、際限なく増加する投資マネーの受け皿として運用対象の拡大を図ろうとしたファンドは、外国人や富裕層向けの高級賃貸マンションという既成市場にも参入したが、分譲マンションと同等の基本構造・設備を持つミドルクラスの都市型賃貸マンション、という新しい市場を開拓した。これによって、個人地主の土地有効活用(節税対策)や個人投資家向けとして建設された小規模・安価・安普請のアパート・マンションに飽き足らなかった、都市居住志向の強い若者やDINKSなど、新たな賃貸住宅需要の掘り起しに成功した。
そもそもファンドは利益を内部留保できず、そのほとんどを投資家に分配する仕組みである。膨大なキャピタルゲインを得た投資家にとって、新しい不動産ニーズの開拓や不動産開発の技術革新に再投資する義理はない。もちろん、投資家のため忠実に働くファンド運用者は、長期的視点で運用することを旨とするJ-REITも含めて、運用不動産について減価償却費の範囲で改修工事は出来ても、収益向上が期待できない大きな設備投資などには、投資家や市場の評価が得られそうにない限り躊躇せざるを得ない。
しかし、ファンドの組成に関わり、機関投資家と同じ船に乗って投資資金を提供し、開発を主導して様々な手数料を得た不動産会社は、その利益の一部を将来のために内部留保し、新分野に再投資することができる。ミドルクラスの都市型賃貸マンション市場の拡大は、やや怪我の功名的なところもあるが、ファンドマネーの活用で新分野が開拓された好例であろう。
金融危機以来、リスクマネーがやせ細り、不動産ファンドの多くは開店休業中に近い状況にあるが、自らのリスクで環境配慮型不動産(グリーンビルディング)の開発や地球環境対策に積極的に取組んでいる不動産会社も少なくない。これは、彼らが将来の新規事業や新技術に先行投資するために必要な内部留保を蓄積することが可能な仕組みを持つためである。また、不動産は外部経済・不経済効果が大きく公共性の強い財でもあることから、企業の社会的責任という認識が、ある程度経営にビルトインされているためとも考えられる。
人口減少時代に入った日本において、経済活動や生活の新しい基盤や空間を創造していくという志なくしては、不動産業として生き残りが難しくなりつつあるだけに、ファンドマネーを利用して得た利益の一部を、先行的な試みに再投資していくことは経営にとって重要な課題であろう。カネ儲けは否定しないが、儲けたカネで何をするのか、不動産会社の役割を今一度考えてみる時期ではないだろうか。
このレポートの関連カテゴリ
松村 徹
研究・専門分野
公式SNSアカウント
新着レポートを随時お届け!日々の情報収集にぜひご活用ください。
新着記事
-
2024年05月07日
今週のレポート・コラムまとめ【4/30-5/2発行分】 -
2024年05月02日
為替介入再開、既に連発か?~状況の整理と今後の注目ポイント -
2024年05月02日
米FOMC(24年5月)-予想通り、6会合連続で政策金利を据え置き。量的引締めペースの減速を決定 -
2024年05月01日
ユーロ圏消費者物価(24年4月)-総合指数は横ばい、コア指数は低下 -
2024年05月01日
ユーロ圏GDP(2024年1-3月期)-前期比0.3%、プラス成長に転じる
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年04月02日
News Release
-
2024年02月19日
News Release
-
2023年07月03日
News Release
【ファンドマネーによる新市場開拓、その限界と不動産会社の役割】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
ファンドマネーによる新市場開拓、その限界と不動産会社の役割のレポート Topへ