コラム
2009年07月08日

「小1の壁」 ~その先のワーク・ライフ・バランス~

生活研究部 研究員   天野 馨南子

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2009年7月1日、厚生労働省に「少子化対策統括本部」が設置され、同日第1回会合が開催された。これまでの厚生労働省の少子化対策について一元的かつ制度横断的な検討を行うとともに、諸々の施策を「少子化対策の推進」という観点から改めて捉えなおすことを目的としている。厚生労働審議官を本部長とする本部と総括審議官を事務局長とする事務局で構成され、事務局には具体的な対策の検討や広報を行う「少子化対策推進室」も設置されるという。今回は少子化対策として上記本部で今後是非検討されたい課題として、「小1の壁」を取り上げたい。「小1の壁」は先月6月に成立した改正育児介護休業法でも特に課題として触れられておらず、また企業のワーク・ライフ・バランス施策の中でもあまり進展が見られていない。しかしながら、働く親の間では非常に問題となっている課題である。

「小1の壁」とは共働き、またはシングルの親が、子を保育園から小学校にあげる際に直面する保育問題を指して言う。「小1の壁」には大きく分けて「質的な壁」「量的な壁」の2つの壁があると筆者は考えている。

まずは「質的な壁」であるが、認可保育園であれば、朝は早くから、夜は延長保育を利用してある程度遅くまで預かってもらえる。しかし小学校に上がり、「放課後児童クラブ」すなわち学童保育に子供を預けることになると、公的な学童保育は18時にきっちり終了(18時には門外にでる)とするところがほとんどで、親の迎えが間に合わなければまだ小学校低学年の子どもが一人で帰宅することになる。また夏休みなどの長期休暇が小学校にはあるため、この期間は朝から学童保育が子どもの保育を担うことになるが、朝9時から預かりという、フルタイムで働く親には過酷な預かり時間が設定されているケースが多い。保育時間の融通の無さが働く親の壁となっている。

そしてもうひとつ、認可保育園は児童福祉法によって明確に運営基準が定められているが、放課後児童クラブは「ガイドライン」のみである。ゆえに、定員は事実上なく、ガイドラインでは40人程度が望ましいとされているが、一箇所に71人以上を預かる大規模学童保育が14%、36人から70人を預かる学童保育が46.9%(ともに平成19年度)にものぼる(厚生労働省資料)。子どもの多さと監視者の少なさから大きな事故が起こるケースも報告されており、来年2010年からは大規模学童保育への公的補助金が廃止されることになっている。監視者の質についてもあくまでガイドラインのため、預ける親にとって保育園のような安心感が薄いのも学童保育の特徴である。

もうひとつの「量的な壁」であるが、放課後児童クラブの対象となる小学校1年から3年までの児童数に対する放課後児童クラブ供給率は2008年22.5%(厚生労働省資料、学校基本調査より「放課後児童クラブ登録児童数/小学校1年から3年の全児童」を算出)に過ぎず、また、申し込んだ学童保育に入ることが出来ない学童保育待機児童も2008年1万3千人にのぼる。小学校以上の子どもを持つ働く親にとっての公的保育支援は、決して手厚いものとはいえない。そればかりか前述のように、学童保育は新たに保育園では生じなかった質的な保育不安を働く親にもたらしている。

労働力調査において1997年以降、「男性雇用者と無業の妻からなる世帯」(いわゆる専業主婦とサラリーマン家庭)を雇用者の共働き世帯が凌駕する状況が続いており、年々その差が開いている(2008年825万世帯対1011万世帯)。また母子家庭世帯はこの10年間(国勢調査1995年対2005年)で1.4倍の約75万世帯に膨れ上がっている。

保育園や学童保育といった「第二の家庭」で幼少期を過ごす子供の割合が確実に増えてくることが見込まれる中、「第二の家庭」の質の向上と、親と子の絆を深めるための長時間労働抑制を主体としたワーク・ライフ・バランス政策の推進が、早急に望まれるところである。
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生活研究部   研究員

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
少子化対策・女性活躍推進

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