2007年12月26日

賃貸版計画修繕積立制度の創設に向けて -賃貸住宅における計画修繕普及のための制度構築に関する研究-

社会研究部 准主任研究員   塩澤 誠一郎

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平成18年に制定された住生活基本法において、量から質への住宅政策の転換が明確に打ち出され、それを受けた200年住宅ビジョンに謳われているように、現在、住宅を社会的資産と捉え、超長期に循環利用できる質の高い住宅ストックの形成が住宅政策の基本課題となっている。住宅の資産価値を長期にわたり維持するためには「計画修繕」が不可欠であるが、特に個人経営による賃貸住宅は計画的に修繕を行うという考え方が浸透しておらず、不良ストックが増加し、スクラップアンドビルドが繰り返される現状がある。そこで、長期修繕計画の策定とそれに基づいて修繕資金を積み立てる仕組みを柱とした、計画修繕積立制度の構築を目的に、賃貸住宅オーナーへのヒアリング調査、長期修繕計画事例の比較検討に基づく賃貸版長期修繕計画の作成、既存積立金融商品の比較検討などを行った。その結果、制度構築に向けて考慮すべき点として以下が明らかになった。

1.
賃貸住宅オーナーに対するヒアリングから計画修繕積立制度に求められる要素として、長期修繕計画の策定に関しては、管理会社や施工業者が作成した長期修繕計画の妥当性を公的機関や専門家が判断する仕組みが求められており、積立商品については、税制上のメリットがあること、運用収益よりは積み立て分が確実に現金化で
きる元本保証型であること、急に修繕が必要になった場合に柔軟に現金化できることなどの商品性が求められている。加えて、大規模修繕を実施する際に、修繕工事見積額の妥当性についての評価や、見積もりの前提となる建物劣化状況の診断、さらには信頼できる施工業者の斡旋などについて、公的機関や専門家によるサポートを求める声が目立ち、こうしたことも含めて制度構築を考える必要があるという示唆を得た。
2.
賃貸版長期修繕計画を作成し、賃貸住宅における修繕資金需要の特徴を捉えると、十数年周期で必要になる共用部分の大規模修繕と、新築から10 年程度経過後に毎期必要になる住戸内設備交換・修繕に対応する積立が必要になることが明らかになった。
3.
次に、この長期修繕計画を基に、家賃の一部を修繕資金として積み立てて修繕費に充当するシミュレーションを行った。この結果、単独の積立では修繕のタイミングに資金が不足する可能性があることが判明した。
4.
そこで、複数の積立商品の組み合わせによるパッケージ商品化の検討を行った。その結果、資金需要にはマッチするものの、複数商品の組み合わせは複雑になり、賃貸住宅オーナーにとって理解しにくく、かつ商品を提供する側も説明が難しいものになることが予想され、普及を図るための商品としては適していないと判断した。
5.
したがって、単一の積立商品と融資の組み合わせにより資金需要に対応する制度を構築することとして、資金需要にマッチするかどうかのシミュレーションを行ったところ、その可能性が高いことが判明した。このことから、単一の積立商品を基本に融資との組合せによる制度構築を目指すこととした。
6.
融資と組み合わせることにより既存の様々な積立商品も応用できると考えられる。様々な賃貸住宅オーナーの事情に応じて選択可能となるように、なるべく多様な積立商品を提供することが制度普及上望ましいと思われ、そのためには多くの金融機関の参画が鍵を握る。そこで、賃貸住宅の着工戸数から積立の市場規模を試算する
と、新規着工分全てが積立を行う想定では、年間約476億円の規模になる。また、築20年までの非木造で積立を行っていない民営借家全てが制度を利用して35年間の積立を行ったと仮定すると、年間約5,146億円の積立規模になる。
以上をふまえて、「1.計画修繕により建物を良好に保つための専門的な支援措置、2.融資と組み合わせた積立商品開発、3.安定した賃料収入の確保等、修繕積立制度を成立させるための仕組み作り」といった要素を含めた制度として、公的機関が制度実施主体となる計画修繕積立制度の全体像を描いた。それは、賃貸住宅オーナーが「長期修繕計画の策定」「長期修繕計画に基づく修繕費の積立」「一括借上契約による安定収益の確保」の3つを条件に制度実施主体と計画修繕積立制度契約を結び、この契約によって、制度実施主体がオーナーに、「建物維持管理サポート(計画修繕実施における専門的支援)」「融資保証枠[コミットメントライン]の設定(積立に応じて修繕資金の融資保証枠を与える措置)」「積立商品のあっせん」という3つのサービスを提供するものである。
なお、本研究は2006年度に財団法人住宅改良開発公社の委託により、ニッセイ基礎研究所が実施した調査研究に基づいている(1)。この制度を社会インフラとして整備、普及させることが社会政策上重要な意義を持つと考えることから、ここに論文としてまとめ発表することとした。本稿執筆を了承いただいた財団法人住宅改良開発公社に深謝申し上げる。

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社会研究部   准主任研究員

塩澤 誠一郎 (しおざわ せいいちろう)

研究・専門分野
都市・地域計画、土地・住宅政策、文化施設開発

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