コラム
2005年01月07日

資産運用とモデル活用のあり方

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1. モデルが持つ2つの役割

資産運用の世界において、モデルには2つの異なる活用方法を見出すことができる。

ひとつは、売買判断の答えを求める「意思決定」ツールとしての活用である。例えば、金融工学的な考えに基づき、統計的な手法を駆使して構築した売買サインに従って投資を行う、いわゆるクウォンツ運用的活用がある。また、経済変数の予測値などを使い、証券価格の将来パスをモデルによって予測し、資産配分を行うような手法も、意思決定に直結したモデルの活用方法として挙げることができよう。

もうひとつは、売買判断を支援する「シミュレーション」ツールとしての活用である。これは、運用者が自分の想定した複数の投資環境に対し、証券価格がどのように反応するかを見る際に、モデルを活用する方法である。具体的には、住宅ローンを担保に証券化されたMBS(モーゲージ債;Mortgage-Backed Securities)運用を行う際に、ローン債権のキャッシュフロー変化についての分析に用いられる、期限前償還モデルなどを挙げることができよう。


2. 2つの活用方法の違い

資産運用では、これまで、市場に対する感応度を高めることで収益を狙う、いわゆる「ベータ」志向が強かった。そのため、例えば、長期金利や株式市場といった、市場全体の将来予測を行う過程で、モデルの活用余地を探るケースが多かった。しかし、最近は、市場変動による収益のブレをコントロール可能な範囲に抑え、個別証券などに内在する投資価値を的確に判断することで収益確保を目指す、いわゆる「アルファ」志向が強まってきた。そうした状況のもと、売買判断を下す道具としてのモデル活用以上に、運用者の投資判断を支援する道具として、個別証券の感応度や割安・割高度合いを測ることができるようなモデルの活用余地を探るケースが多くなってきたように思われる。

ここで注目すべきは、上記2タイプを比較した場合、同じモデルでも、それを操る運用者の立場が異なる点である。まず、「意思決定」型のモデルには、投資判断に運用者の主観を挟み込む余地がほとんどないと言っても良い。モデルは、必ず1つの答えを出すことになる。したがって、運用者はいかに自分が信じることのできるモデルを作ることができるかが重要になる。一方、「シミュレーション」型のモデルには、運用者の主観が入り込む余地がある。すなわち、運用者が自分で様々なシナリオをモデルに入力することで、結果を無限大に引き出すことができる。出てきた結果をどう料理するかは、運用者の腕前次第である。


3.運用者とモデルの接点

前述の通り、「意思決定」型のモデルについては、出された結果が唯一の答えであるため、モデルの精度や入力した予測変数の正否が致命的となる。「シミュレーション」型のモデルについても、当然精度は重要だが、むしろ、モデルの特性を理解しつつ、最終的に運用者が定性的な投資判断を加えることができる実務経験と専門知識が、それ以上に重要な要素になる。

冒頭に少し触れたMBS運用にモデルの活用が不可欠なのは、良く知られたことだ。ただし、そこで用いるモデルは、必ずしも投資判断の答えを出すといったものではなく、あくまで運用者の投資判断を支援する道具としての側面が強い。様々なシミュレーションを通じて出した答えに、自分の経験、すなわち、定性的判断を加えることで、モデルと運用者が有機的に結合する。したがって、例えば、モデルを使って住宅ローンの期限前償還を正確に予測するのが大事なのではなく、むしろ、期限前償還の速さやタイミングが変化することで、証券価格がどのように反応するか、また、現実がモデルの出した答え通りになるか否か、といった分析ができるようになって、初めてMBS運用におけるモデルの有効活用が可能になる。


4.問われる運用者の能力

たとえクウォンツ運用でなくても、投資行動を数式で説明できるモデルの使い勝手は良い。確かに、とかく数字で全てを表現する傾向が強い資産運用の世界においては、モデルの結果のみを唯一の正解と受け止める方向に傾きがちであるし、また、運用実務者以外の当事者の信用も受けやすいといったような側面はあろう。

しかし、主観が入り込む余地を完全に閉ざしたクウォンツ運用でない限り、運用判断を下す際には、あまり「意思決定」型のモデルに依存し過ぎるべきではないだろう。モデルには、癖や特性があるとともに、過去のパターンがこれからも続くことが前提となっている。ある程度のジャッジメンタルな部分を残した運用であるならば、結局のところ、こうしたモデルの特性と市場の実勢の見極めができるような、運用者自身の経験、判断力、資質に、運用の巧拙が依存していることを忘れてはならないだろう。


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