2003年10月14日

マンションの事務所利用に注目する -小規模オフィスビルにおける需要創造の新たな視点

  松村 徹

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東京のオフィス市場は、不景気による需要減退とオフィス供給の集中が重なるいわゆる「2003年問題」で低迷しているが、中長期的な需要喚起策として、住宅市場に潜在化しているオフィス需要を顕在化させるという方法がある。つまり、東京では都心部の賃貸マンションを事務所として利用する企業や個人が多いため、彼らをマンション市場からオフィス市場に誘導することで一定の需要創造効果を期待するというものである。

8年前に東京都が行った実態調査(注1)によると、港区では法人によるマンション利用が調査戸数全体の3割にのぼった。また、これら法人が利用する住戸形式は、ワンルームや1DKなど小規模なものが6割以上を占めていた。この調査結果を基に試算すると、当時の港区だけで20~30万mのオフィス需要がマンション市場に潜在化していたと推測される。最近では、このような小規模事業者はSOHO(スモールオフィス・ホームオフィス)とも呼ばれて注目されており、全国500万事業所(うち法人188万、個人315万)で1,500万人以上が働くとされる(注2)。SOHOでは自宅を利用する在宅ワーカーも多いが、調査結果のように都心部のマンションを事務所として利用する事業者もかなりの数にのぼるとみられる。

また、当時の調査では、マンションが事務所として利用されているのは、居住性が重視されたためではなく、オフィスビルより賃料が安く、24時間利用できる点が評価されたためであった。ところが、現在ではマンションより賃料単価の安いオフィスビルや、24時間利用可能なオフィスビルは珍しくない。また、SOHOの事業展開においてIT(情報通信技術)活用が不可欠となっているだけに、電話回線数が限られるなどITインフラ面で劣るマンションより、情報化対応が当然となっているオフィスビルの方が有利といえる。さらに、オフィスビルはマンションより都心立地傾向が強いため、積極的に事業拡大を図ろうとするベンチャー企業などSOHO事業者の活動拠点として魅力的である。都心商業地は顧客である大企業が集まり、移動や通勤にも便利なことから、事務所を置くメリットは大きい。

このようにみれば、マンションの事務所利用者は、テナント不足に悩む既存の小規模ビルにとって有望な顧客であるといえよう。既存のオフィスビルを住宅に用途転換(コンバージョン)してオフィス市場から撤退するのでなく、小規模ビルでしか対応できないオフィス需要を開拓するという行き方である。もちろん、現在、SOHO事業者をターゲットに、ITインフラや共用会議室などを売り物にした賃貸マンションや短期滞在型マンションの新規供給も増えているだけに、ビル側も最新の情報通信設備や空調設備、警備システムを標準装備としておく必要がある。

また、従来のオフィスビルの概念を打ち破る価値再生手法にも、確かなニーズがあることが明らかになってきた。たとえば、オフィス利用を想定しながらキッチン・シャワールーム・トイレといった居住設備を備えたビルや、内装を利用者が自由に作り込めるようスケルトン状態で貸し、原状回復義務を課さないビルが話題となっている。これらのビルは、都心という立地条件を活かしながら、居住機能、内装のデザイン性や自由度など、通常のオフィスビルでは採用されなかったり軽視されたりしてきた部分を付加価値としているのである。いずれも、昼夜の区別なく自由に仕事をするベンチャー企業やデザイナーなどのSOHO事業者が注目しており、従前のオフィスビルとしての賃料を大きく上回って成約したケースもある。

SOHO事業者は、IT化の進展や業界再編などに伴う事業機会の拡大を背景に今後も都心部での増加が見込まれることから、マンションとオフィスビルで顧客を取り合う構図はあるものの、既存小規模ビルの需要開拓の方向として検討に値すると思われる。

※ 日刊建設工業新聞2003年10月14日『所論/諸論』掲載原稿に加筆修正したもの

松村 徹

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