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- 医療保険改革を巡る経済的視点 -高齢者医療保険を中心に-
1.
国民医療費の増加が続いている。この原因として、(1)人口の高齢化による老人医療費の拡大、(2)診療報酬の公定化による人為的引き上げ、(3)医療機関による需要誘発、などが挙げられる。この結果健康保険組合の財政は急速に悪化しており、医療保険改革による医療費削減が求められている。
2.
医療保険改革に関する経済的視点は、国民皆保険など制度のプラス面を維持しながら、医療の効率化により財政悪化を抑え、制度の維持可能性を高めることにある。そのためには保険に伴うモラルハザードの削減が求められる。現行制度では過度の給付によるモラルハザードが、保険財政の圧迫と経済厚生の低下を招いている。
3.
現行の医療保険におけるモラルハザードを計測し、保険の成立条件を求めると、既に老人保健制度単独では保険として成り立たっていない。また現行の社会保険方式も、高齢化の進行で2025年には保険政策上の意義を失う。モラルハザードを削減し、医療保険の維持可能性を高めるには、自己負担の引上げや保険の適用除外の拡大を図り、公的保障と民間部門の役割分担を明確にする必要がある。
4.
特に医療費削減への影響から重要となるのが高齢者医療保険改革である。現行の老人保健制度は事実上現役世代から高齢者への所得移転が生じており、これが世代間の不公平やモラルハザードの拡大を招いている。このため年金制度改革と同様に、最低限度の保障に対する税方式の適用と、それを超える部分への積立方式の導入を検討すべきである。最低限度の基準は、支払能力、疾病別コスト、治療段階などで区分し、償還払い制を採用することでモラルハザードの回避を図る。また積立部分については個人勘定だけでなく世代内ファンドなどでリスクをプールする。積立方式への移行に際しては、いわゆる「二重の負担」問題が懸念されるが、医療給付は確定債務でないため、医療の効率化や段階的移行により影響を軽減することができる。
世代重複モデルによるシミュレーション結果では、現行方式から積立方式に移行した方が効用水準(生涯の消費額)は改善することが示されており、経済の効率性と世代間の公平性の両面から、制度の抜本改革が望まれる。
山田 剛史
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