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「データの時代」と「プライバシーの時代」の両立-欧州、米国カリフォルニア州、日本におけるクッキー規制
立教大学ビジネススクール 大学院ビジネスデザイン研究科 教授 田中 道昭
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- 現在、顕在化しているデジタル化の問題の一つが、個人情報保護やプライバシーを巡る問題意識である。デジタル・プラットフォーマーは、ユーザーの膨大な個人データを蓄積し、それをユーザー・エクスペリエンスの向上や新サービスの開発に生かしてきた。ユーザーも、自分のデータを提供する見返りとして、無料のサービスなど様々な恩恵を受けてきた。しかし、個人情報がどう使われているのかユーザーに対し不透明であることやプライバシー侵害のリスクなどの観点から、欧米では個人情報保護がさらに強化される傾向にある。
- 欧州の一般データ保護規則(GDPR)、米国カリフォルニア州の消費者プライバシー法(CCPA)、日本の2020年改正個人情報保護法といった個人情報保護をめぐる法制度が厳格化されている。ここでの重要なポイントが「クッキー規制」の強化である。クッキーは、ユーザーがインターネット・ブラウジングをする際利便性を向上させる機能を持つ一方、プライバシー侵害のリスクやセキュリティに関する弊害をもたらすリスクをはらんでいる。これらリスクを背景とした「クッキー規制」の強化を通して、クッキーは個人情報として扱われるようになってきている。
- 「クッキー規制」の強化によって大きな影響を受けているのは、デジタル広告にかかわる広告代理店やアドテック・ベンダーなど広告業界である。アドテック・ベンダーは、ターゲティング広告のためにクッキー(「サードパーティクッキー」)に依存してきた。しかし、「クッキー規制」の強化によって、クッキーを含む個人情報の第三者提供、利用・取扱いが法律上制限される。クッキーの取扱いに規制がかかれば、リターゲティング広告の精度は落ち、それに依存してきたこれまでのアドテック・ベンダーのビジネス手法は困難になってきている。
- 「今後、クッキーはどうなるのか」について、5つに整理することができる。第一に、クッキーは法令上個人情報として取り扱われる。第二に、デジタル広告業界がこれまでターゲティング広告に利用してきたクッキー(「サードパーティクッキー」)の利用が法令上制限される。第三に、ユーザーのブラウザレベルでトラッキング認定されるクッキーを無効化するトラッキング防止が浸透することから、法令上だけでなく技術上も、デジタル広告から「サードパーティクッキー」が締め出される。第四に、ユーザーが訪問するWEBサイトが直接発行するクッキー(「ファーストパーティクッキー」)や事業者による個人データの取得、利用、取扱いについてユーザーが明確に同意したデータ(「0パーティデータ」)が重視され、ユーザーと事業者間の「継続的で良好な関係性」がより重要となり、メディアと広告の関係に変化が生じる。そして第五に、「サードパーティクッキー」に依存しないデジタル広告の手法が使用されるようになる。
- CES2020でパネルディスカッション『チーフプライバシーオフィサー・ラウンドテーブル:消費者は何を求めているのか?』が開催され、アップルとフェイスブックのチーフプライバシーオフィサー、連邦取引委員会のコミッショナーらが登壇した。そこでは、プライバシー保護へ積極的に取り組んできたアップルでさえも、プライバシーや個人情報保護に関して厳しい目を向けられた。プライバシー保護やその規制強化の流れはもはや不可逆となってきており、アップル、グーグルらデジタル・プラットフォーマーは今後さらなる厳しい目にさらされることになるであろう。
- 「データの利活用」と「プライバシー重視」を両立させなければならない時代が到来している。このような中で日本がとるべき対応は、「データの利活用」「プライバシー重視」の状況を冷静に分析し、より的確な答えを見出だしていくことである。そして、むしろ後発の利益を意図的に享受するような、さらにはその両立において世界をリードするような戦略的な動きをとっていくべきである。
■目次
1――デジタル・プラットフォーマーと顕在化するデジタル化の弊害
1|「デジタル化されたものは破壊される」
2|「データの利活用」と「プライバシーの保護」を両立させる
2――「データの時代」と「プライバシーの時代」の両立
1|欧州・米国・日本で「クッキー規制」が強化されつつある
2|【欧州】一般データ保護規則(GDPR)
3|【米国カリフォルニア州】消費者プライバシー法(CCPA)
4|【日本】個人情報保護法
5|米国アドテック・ベンダーの苦境
6|結局、クッキーはどうなるのか?
3――CES2020であらわになった根強い批判
1|チーフプライバシーオフィサー(CPO)・ラウンドテーブル
2|周回遅れにある日本に求められるもの
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