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2025年10月28日

試練の5年に踏み出す中国(前編)-「第15次五カ年計画」の5年間は、どのような5年か

経済研究部 主任研究員 三浦 祐介

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1――中国共産党の重要会議「四中全会」で「第15次五カ年計画」(2026~30年)の党原案を採択

中国では、2025年10月20日から23日にかけて、第20期中央委員会第4回全体会議(以下、「四中全会」)が開催され、26年~30年の国政運営のマスタープランとなる「中共中央による第15次五カ年計画制定に関する建議」(5カ年計画の党原案)が審議、採択された。今後、26年3月に開催予定の全国人民代表大会(全人代)の場で再度修正が加えられ、計画が最終決定される予定だ。

今後5年の政策の基盤となる5カ年計画は、中期的な中国経済の展望を考えるうえで重要な文書として、毎回国内外の注目を集め、今回の5カ年計画は、米国での第2次トランプ政権発足による米中摩擦の激化や、長期化する不動産不況を背景とする内需冷え込みなど課題が山積するなかで採択された。「内憂外患」の環境下、中国は今後どのようなスタンスで国政運営を行っていくのだろうか。本稿では、第15次5カ年計画の要諦が盛り込まれた「四中全会」終了後の声明文(以下、コミュニケ。概要は図表1)に散りばめられた文言を頼りに、今後の方向性を考察してみたい。

2――「第15次五カ年計画」の5年間は、どのような5年間か

2――「第15次五カ年計画」の5年間は、どのような5年間か

1|2035年目標の達成に向けた「中間折り返し地点」としての5年
中国では、新中国建国100周年となる2049年までに「社会主義現代化強国」を建設することが長期的な目標として掲げられている。17年開催の第19回党大会には、それに向けた第1段階として、20~35年にかけて「社会主義現代化を基本的に実現する」という目標も設定され、目下、まずはこの目標を達成することに全力が注がれている1。第14次五カ年計画(21~25年)、第15次五カ年計画(26~30年)、第16次五カ年計画(31~35年)という3つの5カ年計画を通じて、段階的に達成を目指す構えだ。

前回の第14次五カ年計画期間を振り返ると、コロナショックに始まり、不動産不況、そして米中摩擦の激化など、「極めて異例であり、極めて非凡」な5年間であった。これらの問題が相次ぐ中でも、金融危機の発生など最悪の事態を回避してきた点には一定の評価ができる一方、強権的なコロナ対策や不動産不況の長期化による内需不振など、課題も残った。

今回の5カ年計画は、そうした成果と課題を引き継いだうえで次の5年につなげる中間折り返し地点という位置づけとなる。今後5年の取り組み如何が、最後の5年の政策運営、ひいては2035年目標達成の難易度を大きく左右する重要な時期といえよう。コミュニケにおいても、「『第15次五カ年計画』期間は(中略)社会主義現代化の基本的実現に向けたプロセスにおいて、過去と未来をつなぐ重要な位置づけにある」ことが強調されている。
(図表1)「第14・15次五カ年計画」の概要
 
1 第2段階は2035~21世紀中葉。
2|対米摩擦を中心に「試練」の5年
もっとも、取り巻く環境は依然として厳しい。コミュニケでは、第15次五カ年計画を取り巻く環境について、「深刻かつ複雑な変化に直面しており、戦略的なチャンスとリスク・挑戦が併存し、不確実かつ予測困難な要素が増大している」と指摘したうえで、「時化(しけ)のような、ときには疾風怒濤のような大きな試練に勇敢に対処」すべしと述べ、全党を鼓舞している。実際、第14次五カ年計画期間には、世界各地での地政学リスクの高まりや生成AIの急速な普及、国内総人口の減少など、国内外で様々な変化が生じ、今後もその傾向が続く見込みだ。

とくに念頭に置かれているのは、米中摩擦と考えらえる。米中摩擦を巡っては、25年10月末に米中首脳会談が実施され、米中交渉がいったんの合意に至る可能性はあるが、当面の交渉動向にかかわらず、トランプ政権の任期(29年1月まで)が終わるまで、予見可能性の低い状態が続く見込みだ。その後も、米中間には広範にわたる課題が存在するなか、本質的には不安定な状況が続くことが予想される。米中摩擦の長期化が予想されるなか、摩擦が激しくなれば国内経済には少なからずダメージが及ぶ恐れがある一方、米国の内向き志向は、中国が国際社会でのプレゼンスを強める好機ともなる。このほか、上述の生成AIなど、社会のゲームチェンジャーとなり得る技術の発展も、中国にとってリスクともチャンスともなり得る。こうした「試練」を乗り越えていくことができるか、習近平政権の手腕が再び問われることになるだろう。
3|前政権が残した「負の遺産」処理に向けた仕上げの5年
コミュニケで明示はされていないものの、第15次五カ年計画は、胡錦涛前政権が残した「負の遺産」の処理を仕上げる5年間という意味合いもありそうだ。

振り返ると、習政権が2013年に発足した後の主要な経済課題は、高度経済成長からのシフトダウンや成長がもたらしたひずみへの対応であった。政権発足後には「ニューノーマル」というスローガンを打ち出し、高度成長から中高速成長への移行と適応の必要性を印象づけた。その後、4兆元の景気対策で膨れ上がった債務に伴う金融リスクへの対応と、成長に伴う格差拡大で取り残された貧困層の貧困脱却、そして深刻化した環境汚染の防止という3つが、建党100周年(2021年)までの目標であった「小康社会」(ややゆとりのある社会)実現に向けた重要課題として位置付けられ、対策が進められた2

その後の展開をみると、20年までにすべてを完了するわけにはいかなかったものの、段階的に進展してきた。まず「達成」とされたのは、貧困脱却だ。22年開催の第20回党大会では、「脱貧困の堅塁攻略、小康社会の全面的な建設という歴史的任務をやり遂げた」とされた。

それに続く成果となりそうなのが、金融リスクへの対応だ。習政権はこれまで、過剰生産業種や地方政府の隠れ債務、不動産といったセクターの過剰債務問題のほか、シャドーバンキングや中小銀行の破たん懸念など金融システムの問題に順次、対策を打ってきた。これら取り組みは、目下の不動産不況に代表されるように経済への副作用をもたらした一方、不動産業の負債比率は20年をピークに着実に低下しているなど成果も上がりつつある(図表2)。こうしたなか、最近の政策動向や政府発表などをみると、党指導部・政府は、最悪期を脱したとみなし始めた節がある3。今回のコミュニケでも、第15次五カ年計画の党原案に関して金融リスクを示唆する言及はみられず4、目下の焦点である不動産についても、民生(国民生活)改善の文脈で「不動産の質の高い発展を推進する」と言及されたのみであった。

残る課題である環境汚染の防止については、コミュニケで「汚染防止の堅塁攻略と生態系の最適化を引き続き深く推進する」とされ、対策を継続する方針が示された。汚染防止に関しては、大気や水質、土壌など様々な分野の目標があるが、代表的なものは、20年の国連総会で習主席が宣言した「2030年までのカーボン・ピークアウト(温室効果ガス排出量の頭打ち)実現、2060年までのカーボン・ニュートラル(温室効果ガス排出量の実質ゼロ)の実現」だろう。コミュニケでも、「カーボン・ピークアウトの達成を積極的かつ着実に進める」とされている5

今後開催される第21回党大会(27年)、第22回党大会(32年)を念頭に、第13次五カ年計画から第15次五カ年計画の各期間において、貧困脱却、金融リスク対応、汚染防止について解決、あるいは解決への道筋をつけたことを、政権の主要な成果と位置付けようとしているように思われる。ただし、いずれの課題も、ある時点をもって完全に解消されるわけではない。貧困脱却、金融リスクともに対策を継続する考えは示されているが6、再び悪化することがないか引き続き警戒が必要だ。
(図表2)不動産業の負債比率/(図表3)各5カ年計画の主要な分野
このように「負の遺産」の処理に目途がつきつつあるなか、これからの中国を支える経済・産業基盤の構築という前向きな課題にも本腰を入れ始めていることがうかがえる。産業構造転換を巡っては、経済成長の原動力を、不動産や建設、重厚長大型の製造業など従来型の産業から、ハイテクやサービスなど新たな産業へと切り替えていくことが喫緊の課題である。これまでの五カ年計画でも産業構造転換は柱として据えられてきたが、第13次五カ年計画では第4の柱に、第14次五カ年計画では第2番の柱に位置付けられてきたのに対して、第15次五カ年計画では第1の柱とされ、最も重視されていることが示唆された(図表3)。第2の柱とされた科学技術の強化を中心に、産業構造の再構築にこれまで以上に力を入れていくと考えられ、それもまた政権の成果のひとつに位置付けられることになるだろう。

続く後編では、コミュニケの内容をもとに、今後5年間の政策の方向性やポイントを確認するとともに、2035年に向けた成長展望について考察する。
 
2 2017年10月開催の第20回党大会で提起され、同年12月開催の中央経済工作会議で「重大リスクの防止・解消、的確な貧困脱却、汚染防止という3つの堅塁攻略戦」が20年までの最重点課題とされた。
3 近年では、不動産、地方政府の隠れ債務、中小銀行が重点とされてきた。このうち、不動産については、24年9月開催の中央政治局会議で「不動産市場悪化への歯止めと回復を促す」方針が決まり、対策が強化されたが、25年7月開催の同会議ではそうした表現は用いられず、都市の質向上に資する都市再開発という中長期的な政策に重点がシフトしている。地方政府債務については、隠れ債務の地方政府への付け替えや融資平台の地方政府からの切り離し等の対策を進めてきた結果、「地方政府融資平台のリスクは全体として大幅に収まっている」と評価されている。中小銀行についても、地方政府が中心となり合併や再編などを通じて破たんリスクの解消に努めるなどし、「リスクの高い中小銀行の数はピーク時に比べて顕著に減少」したと評価されている(「【高質量完成 “十四五”規画系列主題新聞発布会】介紹“十四五”時期金融業発展成就」『国務院新聞弁公室』2025年9月22日、http://www.scio.gov.cn/live/2025/37407/index.html)。
4 ただし、四中全会開催に先立ち、9月に開催された中央政治局会議では、「発展と安全の総合の堅持」という原則に関して、各種リスクを効果的に防止・解消する」と述べられており、建議の本文では記載される見込みだ。
5 過去に発表された国内の政策文書(例えば、24年1月に発表された「美しい中国建設の全面的推進に関する意見」)でも、「2030年以前のカーボン・ピークアウト実現に努める」とされている。
6 金融リスクについては、四中全会後に開催された中国人民銀行の会議では「引き続き関連部門とともに、中小金融機関、地方政府融資平台の債務、不動産市場のリスク解消の支援に首尾よく取り組む」ことが確認された。また、貧困脱却についても、コミュニケで「貧困脱却の堅塁攻略の成果を引き続き固める」方針が示されている。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年10月28日「基礎研レター」)

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経済研究部   主任研究員

三浦 祐介 (みうら ゆうすけ)

研究・専門分野
中国経済

経歴
  • 【職歴】
     ・2006年:みずほ総合研究所(現みずほリサーチ&テクノロジーズ)入社
     ・2009年:同 アジア調査部中国室
     (2010~2011年:北京語言大学留学、2016~2018年:みずほ銀行(中国)有限公司出向)
     ・2020年:同 人事部
     ・2023年:ニッセイ基礎研究所入社
    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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