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パワーカップルと小学校受験-データで読み解く暮らしの風景

生活研究部 上席研究員 久我 尚子
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- 11月の小学校受験シーズン、都心では共働きで高収入の「パワーカップル」世帯が受験に臨む姿が目立つ。かつて限られた層のものと見られた小学校受験は、教育投資への関心が高い共働き世帯にも広がっている。
- これらの世帯は「時間をお金で買う」発想で外部サービスを活用し、教育投資を軸に暮らしを組み立てているのが特徴だ。幼児期から始まる受験準備には塾・家庭教師費用に加え、面接服や写真撮影、家事代行など間接的支出も含まれる。
- 教育投資は親の主体性と同時に安心を外部に委ねる側面を持つ。こうした動きは教育格差を広げる懸念がある一方、家事や介護など教育以外の分野にも波及し、共働き世帯全体の暮らし方に影響を与える可能性がある。
■目次
1――小学校受験シーズンの到来
2――増えるパワーカップル、その教育投資熱の高さ
3――小学校受験が映す教育投資のかたち
4――教育投資が示す、選択と委ねる安心
1――小学校受験シーズンの到来
かつて「お受験」は、由緒ある家柄や経営者層、医師や弁護士といった専門職に代表される、ごく一部の限られた層のものと見られていました。さらに、母親が専業主婦であることが前提とされる傾向もありました。
しかし今は、その様相が変わりつつあります。共働きで高収入のいわゆるパワーカップル世帯が、教育投資への熱心さを背景に、その一つの選択肢として小学校受験を考えるようになっているのです。それに伴って、学校側も放課後の学童保育に対応したり、お弁当の業者サービスを導入するなど、共働き世帯を意識した対応を見せています。
2――増えるパワーカップル、その教育投資熱の高さ
こうした世帯は夫婦ともに高学歴で、専門職や管理職に就いているケースが多く、仕事に打ち込みながら子育ても両立させようとしています。特徴的なのは「時間をお金で買う」という発想。忙しさの中で自分たちだけで抱え込むのではなく、外部サービスを積極的に利用します。
たとえば、習い事の送迎をベビーシッターに依頼したり、家事をアウトソースしたり。そうして生まれた時間で、親子で過ごす時間の質を高めたり、教育への関わりを深めたりしています。なかでも教育投資は、子どもに将来の選択肢を広げてあげたいという思いから最優先の支出と位置づけられているのではないでしょうか。
実際に世帯年収別に小学生の習い事費用を見ると、世帯年収が高いほど増える傾向があります(図表2)。私立小学校に通う子どものいる世帯年収1,200万円以上の世帯では年間約90万円に上ります。
3――小学校受験が映す教育投資のかたち
小学校受験では幼い時期から準備が始まります。基本的には受験本番の2年前、年少(3~4歳)の段階から受験塾に通わせ、模試や面接対策に取り組みます。特に共働き家庭では「限られた時間でいかに効率よく準備を進めるか」が課題となり、受験専門のコンサルティングや家庭教師を利用するケースも見られます。
出費は塾や模試の受講料、家庭教師代といった教育サービスにとどまりません。願書貼付用の写真撮影や、親子で揃える受験用の面接服やバッグ、靴、レイングッズにいたるまで、関連する消費も少なくありません。さらに、受験を支える間接的な消費もあるでしょう。
たとえば、試験や面接に合わせて家事代行や食事宅配を頼み、家庭内の負担を軽減したり、兄弟姉妹の世話や送迎を外部に委託することもあるでしょう。これらは一見教育費とは関係ないように見えて、実際には「受験を乗り切るための支出」として位置づけられます。教育投資を軸に、暮らし全体が形づくられるのが、パワーカップルの特徴とも言えます。
4――教育投資が示す、選択と委ねる安心
つまり、教育投資は親の主体性を示すと同時に、安心を外部に委ねる消費でもあるのです。そしてその支出は、子どもの将来のためであると同時に、親自身の安心やアイデンティティを支える役割も担っているのではないでしょうか。
パワーカップルの教育投資は、教育関連市場を拡大させる一方で、家庭の経済力による教育格差を広げる要因にもなり得ます。なぜなら誰もが同じように投資できるわけではないからです。他方で、パワーカップルが示す「効率的に任せる」「時間をお金で買う」というスタイルは、教育以外の分野にも波及しています。家事代行や食事宅配はもちろん、健康管理や親の介護を外部サービスに委ねる動きなど、共働き世帯全体の暮らし方に影響を与える可能性を秘めています。
小学校受験をめぐる消費は、単なる「特定層の特殊な支出」ではなく、これからの社会における子育て・働き方・暮らし方を映し出す、時代の断片とも言えるでしょう。
データの向こう側には、子どもの未来を思う親たちの姿があります。教育だけでなく暮らしのさまざまな場面で、選ぶことと、任せることのバランスをどう整えていくのか。そうした日々の選択を、社会としてもどう支えていくのかが、静かに問われているのかもしれません。
(2025年10月23日「研究員の眼」)

03-3512-1878
- プロフィール
【職歴】
2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
2021年7月より現職
・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)
【加入団体等】
日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society
久我 尚子のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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